(8)宝玉の進化
ヴァミリニア宝玉の解析も進めたい考助だったが、四割程度まで進めたところで本来の目的に戻ることにした。
交代しながらではあるが、ずっと誰かが付きっきりになっているヴァミリニア一族の者への配慮もある。
配慮と言うより、このまま居座り続けると、立場を利用していると思われかねないと思い直したと言うのが大きい。
つい熱中してしまっていたが、どう考えても良い傾向ではないと踏みとどまれたのは、考助らしいと言えばらしいのだろう。
戻ってくるときには、一応一族の者に気にしないで下さいとは言われたのだが、本音と建て前くらいは分かっている、つもりだった。
そんなわけで、今度は研究室へ籠ることになったのだが、今回はさほど時間はかからなかった。
ただし、さほどと言うのは考助内の時間で、実際は丸二日はかかっているのだが。
「これが宝玉に付ける神具ですか~?」
考助から渡された装飾を見てそう言ったのは、ピーチだった。
基本的に考助が作る神具は、飾り気が無い武骨な作りの物が多かった。
そのため、今回渡された神具を見たピーチは、多少驚いた。
流石にイグリッド族のように、というと大げさになるが、今回の神具は装飾らしくなっている。
「珍しく装飾されていますが、これはコウスケさんが?」
「ああ、うん。向こうに行っている時に、イグリッド族の職人さんと話す機会があってね。参考にさせてもらった」
考助がそう言うように、今回装飾されているのは、何も飾り立てるためのだけの物ではない。
装飾自体にもきちんと意味があって作られているのだ。
「そうですか~。それで、これを渡されたという事は?」
「勿論、<地の宝玉>でどうなるか試してみてほしい」
「やっぱりそうですよね~。わかりました」
今は四属性の塔全てで、宝玉シリーズが設置されているので、どこの塔の宝玉で試しても良かったのだが、今くつろぎスペースにいたのがピーチだけだった。
これが上手くいけば、他の三つ分もすぐに作成に取り掛かるつもりだ。
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考助が作った神具に、ピーチが<地の宝玉>をはめ込んだ。
「・・・何も起こりませんね~?」
首を傾げるピーチに、考助は苦笑した。
「それはそうだよ。そもそも妖精から力を分け与えられることを前提に作られてるんだから」
考助はそう言って、地の妖精であるノールを呼び出した。
「はい。兄様」
「この宝玉に力を与えてもらえるかな?」
「はい。・・・これなら大丈夫。やってみる」
ノールがそう言って、宝玉に触れた瞬間、<地の宝玉>が輝き出した。
それでもノールは頓着せずに、力を注いでいた。
「ふわわ。眩しいです~」
いい加減、目も開けていられないくらいの輝きになってからようやくノールは力を注ぎ込むのを止めた。
「これで、大丈夫。疲れた。休む」
「ああ、有難う。ご苦労様」
考助が労いの言葉を掛けると、ノールはすぐに消え去った。
既に宝玉の輝きは抑えられている。
「これで成功したんですか~」
「どうだろ? ノールが何も言わないという事は成功したと思うんだけど」
ピーチに質問された考助も首を傾げている。
そもそもの目的が、<進化の萌芽>が変わるかどうかを確認するためだったので、すぐに右目で確認をしてみた。
「おお。変わってる変わってる」
見事に<進化の萌芽>から<進化の開花>になっていた。
一応目的は達成できたので、成功と言えるだろう。
だが、<進化の開花>の説明を見て、考助は膝から崩れ落ちた。
「ど、どうしたんですか~?」
「ああ、いや。不足条件の説明がね・・・」
折角の説明なのに、全く説明になっていなかったのだ。
<進化の開花>
不足条件:進化まであと少しかも? もう少し待とう
条件どころか、ただの状況説明だけだった。
これが単に考助の能力不足ならいいのだが、もともとこれしかないのであれば、全く役に立たない項目になってしまう。
右目の力に関しては、もう少しきちんと能力の把握をしないと駄目だと思う考助であった。
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取りあえず、そもそもの目的である宝玉の進化・・・の一歩手前までは上手くいったので、今度は次の条件を考えることにした。
考助が作った神具は、あくまでも宝玉が妖精の力に耐えられるようにする為の物なので、進化とは関係がない。
他にも色々仕込みをしているが、それは宝玉の進化とは直接関係がない物なのだ。
といっても、特に何か思い当たることがあるわけではない。
説明文も全く役に立たないので、いつもの通り放置してみることにした。
精霊が関わるときは特にそうなのだが、時間が解決することが多いので、今回もしばらく待った方がいいと判断したのだ。
その間は、他の三つの宝玉用の神具を用意することにした。
三つ分の神具を用意するのはさほど時間はかからなかった。
既に作ってある物を複製するだけなので、かかった時間と言えば、材料を用意するのに時間を取られたくらいだった。
作った神具をそれぞれの宝玉に装着して、<地の宝玉>と同じように対応する妖精の力を注ぎ込んでもらった。
念の為失敗することも念頭に入れてあったが、失敗することなく、既に他の宝玉も同じような状態になっている。
あとは<地の宝玉>と同じように放置して様子を見ることになった。
その放置してある<地の宝玉>についてだが、ピーチが気になることを言ってきた。
「なぜか、チレイスたちがしきりに気にしている様子なんですよね~?」
「気にしているって、どんな風に?」
「装飾を付ける前からそうだったんですが~、それ以上に宝玉の周辺に集まるようになっているんです」
考助がそれに対して何かを言うより早く、シルヴィアが口を挟んできた。
「それはスライムたちもそうですわね」
聞くと、他の二つも同様の傾向がみられているようだった。
一つだけなら別の事も考えられたのだが、四つの宝玉全てで同じような傾向という事になると、それは完全に宝玉のせいでそうなっているのだろう。
「創った神具は、特にそう言った効果は出ていないはずなんだけど?」
「という事は、妖精の力が入ったことで何かが起こっているのですわね」
「たぶん、としか言えないなあ」
こればっかりは、考助にも何とも言えない。
神具に何かそう言った方面の細工をしたとかなら答えられるのだが、残念ながらそう言ったことは何もしていないのだ。
「結局、様子を見るしかないか」
「そうですわね」
同じ結論に、その場にいた全員が頷いた。
「ところで、あの神具にした細工とは何なのだ?」
フローリアが、もっともな疑問を考助にぶつけた。
「いや、大したことじゃないよ。盗難防止用の仕掛けとか、眷属たちが悪戯しても簡単に宝玉が外れたりしない様にしたりとか」
無難な仕掛けに、一同納得したような表情になっている。
「それで、あのような装飾が必要だったのか?」
「ああ、いや。あれは妖精の力に耐えられるようにするためのものだね」
「具体的には?」
「宝玉から妖精の力が漏れ出しても、神具の方で受け流せるようになっているんだよ」
「という事は、安全装置のようなものか?」
今回妖精の力が宝玉に与えられたのだが、妖精の力は常に一定量を発しているわけではない。
宝玉が耐えられないような力を発生したとしても、神具の方でその力を受け止めるようになっているのだ。
ちなみに、妖精の力に関しては、しっかりと彼女たち自身から聞き出した。
「一言で言うと、そんなことかな? まあ力が安定すれば、それも必要なくなるんだけどね」
「あれ~? それってもしかして、進化の条件に当てはまってませんか?」
「「「「・・・あ」」」」
ピーチの疑問に、全員が顔を見合わせた。
結果として時間が解決するという結論は、間違っていなかったという事になるのであった。




