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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第21章 塔と加護と進化と
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(4)召喚獣への加護

 考助は、現在第八十一層に来ていた。

 目的は黒狼に加護を与えるためだ。

 ついでにも白狼にも加護を与えて、進化がどうなるのかを確認する。

 右目の力で見た時に、<進化の萌芽>が出ている時と出ていないときで何か違いがあるかを見比べるつもりだ。

 黒狼と白狼で既に違いがあるので、厳密には比較にはならないかもしれないが、こればかりはしょうがない。

 そもそも<進化の萌芽>が出ていない個体が、進化をしないという事が確定したわけではない。

 進化していない個体が何も表示されずに進化するという事実があるので、こればかりはやってみないと何もわからない。

 というわけで、コウヒを伴ってやってきたというわけだ。

 ちなみに、通訳係のコレットは連れてきていない。

 こちらに来た時にコレット自身がいなかったというのもあるのだが、いざとなれば妖精たちを呼び出せばいいと考えたのだ。

 もっとも、その妖精たちも通訳として難があるのは否めないのだが。

 

 狼達への加護の付与は、特に問題なく終えることが出来た。

 シルヴィア達に付与した時と何か違いが出るかと思ったのだが、特に大きな違いもなかった。

 まずは<進化の萌芽>が出ている黒狼たちから順番に、付与していった。

 数は十頭だった。

 流石に全ての名前は覚えていない。

 最初は覚えようとしたのだが、ふとあることを思いついてやめておいた。

 そのあることと言うのは、ピーチの時のように加護の力を使った際に、個体の区別が出来るのかどうかを見極めたかったのだ。

 もし考助の予想通りなら、それぞれの個体で加護の力の使い方に違いがあるはずで、そこから区別が出来るようになるはず、と言うのが考助の予想だった。

 名前を覚えるより先に、その違いで覚えた方が覚えやすいと思ったのだ。

 黒狼たちに加護を与えて驚いたのが、既に加護の力を使っている個体がいたことだ。

 それが、一番最初に加護を与えた個体ではなかったことも興味深い。

 その個体がどういった力を使っているのかは、考助には分からなかった。

 これは考助の現人神としての格のせいだと、エリスが前の交神の時に言っていた。

 格が上がれば、ヒューマノイド種以外の生物でも、ある程度の意思疎通は出来るようになるとのことだった。

 ただし、意思疎通が出来なくても加護の力に関しては、ある程度理解できるはずだとも言っていたが。

「お前には、何が見えているんだろうね?」

「く~ん?」

 加護の力を使い始めている個体の首筋を撫でながら問いかけてみるが、当然ながら首を傾げているだけで、言葉で返事は返ってこなかった。

 あるいは「見える」という感覚以外の物が発現している可能性もあるのだが、会話が成立しない以上しょうがない。

 言語理解は持っていたが、妖精言語は持っていないので、妖精を通しての通訳も出来ない。

 ナナを通して通訳をしてもらうという手もあったが、間に二者も通訳が入ると伝言ゲームになって逆に間違った理解になりそうだったのでやめておいた。

 そうこうしているうちに、別の個体も使い始めたので、機会を失ったという事もある。

 

 黒狼の次は白狼に加護を与える。

 既に第二第三の進化をしている個体へも加護を与えようと思ったのだが、どれくらいの数に加護を与えられるかどうかが分からなかったので止めておいた。

 他の種族へ加護を与えた後で、まだ余裕がありそうだったら与えることにした。

 白狼へ与える加護も黒狼と同じように十頭にしておく。

 全て<進化の萌芽>がある個体だったが、黒狼との違いが出るわけでもなく、きっちりと与えることが出来た。

 ちなみに個体の選別は、何か基準があったわけではなく、完全に適当に決めた。

 最初は、考助に近寄ってきている個体にしようかと思ったのだが、性格的な物もあって近づけない者もいるだろうという配慮で、考助が適当に歩き回って選別した。

 ナナの意見も聞いていない。

 選びたそうな雰囲気を醸し出していたが、あえて無視することにした。

 その際、何となく寂しそうな表情になっていたが、気づかなかったふりをした。

 別にナナに意地悪をしたわけではなく、自分の勘を信じることにしたのだ。

 流石にそろそろ現人神としての自覚も出てきているので、加護に関してはその勘を信じた方がいいとの判断だ。

 その勘が当たったのか、あるいは判断が正しかったのかは分からないが、白狼も加護の力を使いだす個体はすぐに出て来た。

 何気に後の方に加護を与えた個体から先に使いだしていたのが、印象深かった。

 そして、黒狼よりも白狼の方が使い始めている数が多いのも何か理由があるのだろう。

 <進化の萌芽>が出ているのが、加護の力を使えるようになるわけではないと証明した形になった。


 エリス達のように自身の力をしっかり理解していれば、例え違う種族であっても的確なアドバイスも出来るのだろうが、新米神としては今のところ与えるのが限界だった。

 しばらく狼達の様子を見ていた考助だったが、これ以上の変化はないだろうと判断して、管理層へと戻ろうと立ち上が・・・ろうとしたが、その服を引く者がいた。

「く~ん」

 すぐ傍で一緒に様子を見ていたナナだった。

「・・・ん? どうした?」

 最初はナナが何を言いたいのか分からなかった考助だが、どことなく寂しそうな、物欲しそうな雰囲気に気付くことが出来た。

「・・・もしかして、ナナも加護が欲しいのか?」

「アウ!」

 考助がそう聞くと、しっかりとした返事が返ってきた。

 考助が加護を与えていることを、きっちり理解している様子だった。

 単に考助が何かの力を与えていることを察しているだけかもしれないが。

 それはともかくとして、ナナに加護を与えること自体は問題ないが、一つ別の問題があった。

「うーん。ちょっと待ってな。ジャルに聞いてみるから」

 ナナには既にジャルの加護が付いているのだ。

 それにかぶせるように、考助の加護を与えていいのかが分からなかったのだ。

 

 考助の事情を分かっているのか、交神している間ナナはおとなしく待っていた。

 ジャルと交神をしてすぐに返事は返ってきた。

 結果としては、特に問題ないという事だった。

 ついでに、加護とか祝福とかの違いを確認しようとしたのだが、珍しい(?)ことに、忙しかったのかジャルの方からすぐに交神を切ってしまった。

 聞きたいことは聞けたので、問題はないのだが。

 その代わり、後でしっかり交神する時間を約束させられてしまった。

 ジャルが一方的に話してきて、すぐに交神を切られてしまったのだ。

 何となく嫌な予感を覚えなくもなかったが、取りあえず今はナナへの加護のことだと頭を切り替えた。

 

「許可出たから付与するよ」

「アウ!」

 考助がそう言うと、ナナが嬉しそうに尻尾を振りながらさらに寄って来た。

 今までと同じように加護の力を与えようとしたが、他の者達からは感じなかった力を感じた。

「なんだろう、これ? ・・・ああ、これがジャルの加護か」

 最初は疑問に思ったが、すぐに正体が分かった。

 何とも不思議な感じだったが、理屈ではなく感覚で理解した感じだ。

 今までとは違い、ジャルの加護があることが分かったので、その力に邪魔にならないように、そっと自身の加護をナナに与える。

 初めてのはずなのに、どうしてそんなことが出来るのかは分からないが、出来たのだからそれで良しとする。

 加護を与えた後、ステータスを確認してみると、きちんと<考助の加護>というのが付与されていた。

「これでいいはずだよ?」

「アウ!!」

 尻尾をブンブンと振りながら、ペロペロと頬を舐め始めた。

 ナナなりの感謝の意なのだろう。

「どうやって使うかは・・・他のみんなと同じように、自分なりにやってみてね」

「アウ!」

 ナナの元気な返事に、考助も与えてよかったと思うのであった。

ちなみに、考助はすんなりとナナに加護を与えていましたが、複数同時に加護を加えるには、複雑な条件があります。

そのうち一番簡単なのが、二つ目以降の加護を与える神が、加護をもらう生物に触れられるくらい傍にいること、です。

地の神ならではの条件ですね。

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