閑話 精霊使いと従魔(前編)
管理層に珍しい客が訪ねて来ていた。
ワンリがセシルとアリサを連れて来たのだ。
二人がワンリに連れられて、恐る恐るくつろぎスペースに入ったところで、コレットに見つかった。
「あら? 珍しいお客様じゃない。どうしたの?」
「「コレットさん!」」
コレットに気付いた二人が、声を揃えて名前を呼んだ。
そもそも二人は、管理層に来ることを拒んでいたのだが、ワンリに強引に押し切られてしまったのだ。
それでなくとも恐れ多いと思っているのに、知らない管理者と先にあってしまったらと、少しだけ恐れていた。
最初に会ったのが、コレットだったことで少しだけ安堵した二人である。
「二人とも、お兄様に相談があるので連れてきました」
「相談? コウスケに? 何かあったの?」
コレットの問いかけに、セシルが事情を話し始めた。
こういうときの説明は、アリサよりもセシルの方がいいのだ。
「・・・はっはあ。なるほどね。そういう事なら、私からも口添えするよ」
「「あ、ありがとうございます」」
「いいのいいの。私達もそれで苦労してた口だからね」
そう言われたセシルとアリサは、コレットをまじまじと見た。
管理層に来る前のコレットは、シルヴィアと二人で組んで冒険者をしていた。
二人はシルヴィアを何度か見た程度だが、確かに二人で組んでいると、主に異性に対していらぬ苦労をしていただろうと推測できる。
そして、まさに自分たちが今抱えている問題と同じ苦労をしていただろう。
何となく共有の意識を持った二人は、有難く口添えをしてもらうことにした。
二人が考助に相談に来たのは、狐達を自分たちのパーティとして連れて行きたいという話であった。
そもそも二人は、クラウンの受付嬢として買われた奴隷だ。
普通に考えても美人と言えるレベルにあった。
勿論二人はそんなことを鼻にかけるような性格ではない。
ましてや常に考助の傍にいるコウヒやミツキと何度も会っているのだ。
とてもではないが、自分の顔面偏差値をかさに掛けるような気にはなれない。
それはともかくとして、その二人が冒険者としてのランクを順調にあげて来たのはいいが、それが逆に問題になってきた。
精霊術師としてもしっかりと成長している二人が、冒険者たちの間で人気が出て来たために、気楽にパーティを組めなくなってしまったのだ。
二人の活動の特殊性もある。
二人は、主にクラウンからの指名依頼を受けることが多いので、そうそう簡単にパーティを組める相手が見つけられないのだ。
それに加えて二人の人気の上昇。
それはそれでいいのだが、今回相談に来たのは別の所にある。
二人共精霊術師なので、どうしても前衛と組む必要性が出て来たのだ。
精霊術師としては順調に成長しているのだが、討伐できるモンスターのランクが伸び悩んでいる。
二人で話し合った結果、どうしても前衛が必要だという結論になったわけだが、そこで先ほどの問題が出て来たのである。
「なるほどね。それで、仲良くなっている狐と一緒にパーティを組みたいと?」
「「はい」」
考助の言葉に、二人が頷いた。
「うーん・・・」
「コウスケ?」
まさか考助が悩むと思っていなかったコレットが、思わず声を掛けた。
アリサとセシルも不安顔になっている。
「ん? ああ、いや、駄目ってことじゃないよ。二人の目的を考えたら狐だけでは駄目じゃないかなと思ってね」
「ああ、そういう事」
考助が言いたいことを察して、コレットの納得した。
「狼達も・・・?」
少し遅れてワンリも考助が言いたいことを察した。
逆にアリサとセシルは、よく分からないといった顔をしている。
結局よくわからないまま、二人は考助に連れられて第八十一層へと行くことになるのであった。
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たくさんの狼に囲まれた二人は、最初は戸惑っていたが、すぐに慣れてしまったようだった。
考助が連れて来たからこそなのだが、ほとんど犬と変わらない様子に恐れもなくなってしまったようだった。
コレットからはこれが普通だと勘違いしないようにと、釘を刺されていたが。
勿論二人もこれがあり得ない光景だというのは理解している。
狐達で慣れていたつもりだったのだが、それでも驚くことは驚く。
何より今も考助の傍で懐いているナナの存在は、驚きを通り越してしまった。
「その子たちの中から気に入った子を連れて行っていいよ」
考助がそんなことを言って来たが、はっきり言って選ぶことなどできない。
「というか、二人とも妖精言語使えるんじゃないの?」
「いえ、流石にそれは・・・」
「もっと成長しないと駄目です」
「あれ? そうなの? じゃあコレットは?」
「あのね、コウスケ。それってどういう意味なのかな?」
塔に引きこもっていた考助は、コレットが精霊使いとしてどの程度のレベルにいるのか正確には把握していなかったりする。
勿論、ある程度のレベルにいると思ってはいるが、その程度だった。
冒険者ランクが伸び悩んでいたのは、二人と同じような悩みを抱えていたためだ。
いくら二人が成長しているとは言っても、コレットを抜くほどではないのだ。
それに加えて、別の問題もある。
「まあ、言いたいことは分かるけど。そもそも妖精言語はエルフだから使えるというのもあるのよ」
「ああ、種族特性みたいなもの?」
妖精言語はシュレインも使える。
だが、シュレインはさほど精霊魔法は得意と言うほどでもない。
確実にアリサとセシルの方が上だろう。
「そういう事。二人共、いずれは使えるようになるかもしれないけど、今はまだ雰囲気を感じるくらいじゃないかしら? それくらいだったらコウスケも出来るでしょう?」
確かに、妖精の姿を見ることが出来る考助も、何となく雰囲気を感じ取ることは出来るようになっていた。
「なるほどね。・・・だったらナナに選んでもらおうか」
考助がそう言うと、小型化しているナナがひょいっと起き上がって、狼達の方へと歩いて行った。
ナナは完全に考助の言葉を理解できているので、何を望んでいるのかもわかっている。
しばらく狼達の間をうろうろとしていたナナは、二人にそれぞれ一匹ずつ黒狼を選んだ。
ナナが鼻先をチョンと首筋に当てると、その狼が二人の元に近づいてきたのだ。
どういう基準で選んでいるのかはさっぱりだが、少なくともその二匹とも嫌がってはいないようだった。
というか、二人に撫でられて尻尾をブンブンと振っている。
何故か負けじと一緒についてきていた狐もすり寄ってきている。
「問題なさそうだね。というか、流石ナナという事かな?」
「そうね」
考助とコレットが、微笑ましそうに二人を見ていた。
一仕事終えたという感じで、ナナが考助の元に甘えに来ていたのはご愛嬌だ。
ちなみに、その隣ではワンリが羨ましそうに見ていたことに気付いていたが、考助は礼儀正しく(?)気づかないふりをしていた。
「その子達でいいかな?」
そろそろいいだろうと思って、考助が二人に声を掛けた。
「「はい!!」」
その返事に、二人とも気に入ったようで何よりと、考助も満足げに頷いた。
「あ、そうだ。その四匹を連れて行く代わりってわけじゃないけど、戦闘がどんな様子だったか報告に来てね」
そもそも狼達も狐達も、同族と一緒に討伐することはあってもヒューマンと連携して戦うことは無かった。
それがどういう事になるのかを知りたいのだ。
「あ、あの・・・首輪を付けるのはいいんでしょうか?」
アリサが恐る恐ると言った感じで聞いてきた。
「首輪?」
「はい。従魔用の首輪です。付けてないとモンスターとして討伐されてしまうので」
「ああ、なるほど。それがあったか。問題ない?」
考助は、ナナとワンリの方へと視線を向けた。
それに対して、ワンリは頷き、ナナは・・・なぜか考助の頬をぺろぺろと舐め始めた。
「ええと・・・ナナも首輪が欲しいみたい」
コレットが、ナナの言いたいことを通訳してきた。
なぜかナナから首輪をおねだりされることになってしまう考助であった。
ナナは首輪の意味が分かっているのでしょうか?w
答:単に黒狼の二匹が何かをもらえると分かり、自分も欲しくなった。
ちなみに考助が首輪をプレゼントしますが、ちゃんと気に入って付けるようになります。
それをワンリが羨ましそうに見ていたとかいないとか。
(ワンリに関しては、読者的にはどちらがいいんでしょうか?w)




