閑話 切実な問題3
エリスからのヒントにより多くの事が分かった。
予想通り天の神より地の神の方が、地上に多くの子を残している伝承が残っていた。
ただ、天の神と地の神がどういった区別をされていたのかは分からなかった。
これに関しては、教会でも意見が分かれているところだった。
今のところは、単純に神域に入ることが許された神が天の神であり、そうでない神が地の神と言われている。
勿論それに対して違う意見を持っている勢力も多い。
教会でさえ、その意見は分かれているので、明確な答えがないのだ。
そもそも神というのがどういった存在であるか、という根本的な問題も分かっていない状態だ。
神威を持っている者が神だ、という事だけなら簡単なのだが、そうではないことがより話をややこしくしている。
それ以上の事を調べるのは、専門家に任せることにした女性陣は、本来の目的に戻ることにした。
地上に子を成した多くの神は、地の神に分類されることは分かった。
天の神で子を残している者は、元々地上に存在していて後に神域に行った神々だった。
元々神域に存在していたと言われている神々で地上に子を成した者は、見事なまでに一柱もいなかったのだ。
ただ、その点に関しては、シルヴィア達は問題にはしていない。
何しろ、考助は現人神として、現在すぐそばに存在しているのだから。
そう言う意味では、現在の考助は地の神であるとも言えた。
さすがに、過去の地の神がどういった方法で子を成したのかと言った方法は、具体的に載っているはずもない。
結局、子を残しているのが、地の神であるという事がわかったところで、再び調査が頓挫する・・・と思われたが、ピーチの一言で別の問題が発生することになった。
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「本を見ていて思ったんですが~・・・」
誰に聞かせるつもりもなかったのか、その時のピーチの声はほとんど独り言に近かった。
だが、幸か不幸かすぐそばにシルヴィアがいて、その声を拾ってしまった。
「何かわかったことがありますか?」
「関係あるかは分かりませんが、子供たちって上位種多くないですか~?」
子供たちというのは、勿論神々の子供たちの事だ。
ピーチの言葉に、シルヴィアがハッとした表情になった。
確かにシルヴィアの記憶でも、子供たちの多くはその種族の上位種だと記憶している。
「神々の子供は、上位種になる?」
「そうとも考えられますが~・・・」
なぜかピーチは、その先を言いよどんだ。
シルヴィアもピーチの言いたいことが分かったので、あえてその先を促すことは無かった。
「・・・出来れば考えたくないことですわ」
「・・・そうですね~」
珍しいことに、ピーチも沈んだ表情になっていた。
もし懸念していることが当たっていれば、現状彼女たちの目的は断たれることになってしまう。
この件に関しては、思いついたことがあれば、その事柄を共有することになっているが、流石に皆に伝えることはためらってしまう内容だった。
とは言え、言わないわけにもいかないので、気が進まないとはいえ、言う事にする二人だった。
「何か新しいことがわかったの?」
何となく二人の雰囲気を感じ取ってか、そう聞くコレットは若干びくついていた。
「・・・どうにもよくない話らしいの?」
シュレインがなかなか言い出さない二人を察して、そう切り出した。
二人を話しやすくするためでもある。
さっさと話した方がいいと判断したシルヴィアが、ようやく口を開いた。
「・・・神の子達は、上位種であることほとんどだと気づいたわ」
「さすがに全員ではないですが、今まで調べられたところまでは、ほぼ全員でした~」
「子が上位種・・・と、いうことは・・・そういうことか」
流石というべきか、シュレインは二人が言いたいことにすぐに気付いた。
その表情は、シルヴィアやピーチと同じように曇っている。
「ど、どういう事?」
一方まだわからないコレットとフローリアが顔を見合わせている。
その二人のために、シュレインがため息を吐きつつ説明した。
「子が上位種という事は、親もそうである可能性が高いという事だの」
「あ・・・」
ようやく言いたいことが分かって、コレットとフローリアも顔を曇らせた。
「神と子を作るには、その相手は上位種でないと駄目という事?」
「一言で言えば、そういう事ね」
残念ながら、この場にいる者達は、上位種とは言えないのだ。
そして、上位種など簡単になれるものではない。
それどころか、召喚獣たちのように同一個体が進化できるかどうかも分かっていないのだ。
新たに見えた問題に、全員が顔を暗くするのは、ある意味当然と言えるのであった。
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上位種の問題はいつまでも避けて通るわけにはいかない。
問題が分かった以上、さっさと確認をした方がいいと割り切ったシルヴィアは、その答えをエリサミール神に聞くことにした。
『・・・という事なんですが、どうなんでしょう?』
『その予想は間違っていません』
『そう、ですか・・・』
エリサミール神の答えに、シルヴィアは肩を落とした。
『ですが、早とちりしてはいけませんよ? 最初から希望が無いのに、目の前にちらつかせるようなことはしません』
『と、いう事は?』
『今の貴方達が上位種ではないからと言って、決して上位種になれないというわけではありません』
エリサミール神の言葉に、シルヴィアの表情が若干明るくなった。
『上位種になれる道がある?』
『絶対ではありませんし、私達もそれに関しては、助言をすることは出来ません。ただ、過去にそう言った存在が、全くいなかったわけではありません』
例えそれが、雲をつかむような話であっても、希望があるならそれを目指すだけだ。
『それから、勘違いしてはいけませんよ?』
『・・・というと?』
『進化に関しては、私達もよくは分かっていないのです。むしろ考助様が、よくああも眷属たちを進化させて驚いているくらいです』
神を驚かすのってどうなんだ、と思わなくもなかったが、シルヴィアは苦笑だけしてそれに関しては突っ込まなかった。
『普通は自然発生するくらいで、狙って進化させることは出来ないのですわね?』
『少なくとも私達には無理ですね』
神々に無理と言われたことを自分たちで実行しなければならない。
それはとてつもなく大きな壁であると言えた。
『構いません。道が閉ざされているわけではないと、分かっただけでも上等ですわ』
『そうですか』
エリサミール神は、そう答えて今回の交神を終えた。
一番望ましい結果では無かったが、それでも完全に諦めるには早いことが分かっただけでも十分成果はあった。
今回の交神の結果を伝えるために、シルヴィアは皆のところへ向かうのであった。
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考助が新たに獲得した権能は、女性陣に希望をもたらした。
残念ながら進化の方法までは分からないのだが、進化の兆しがあるという事が分かっただけでも十分だ。
一番最初に気付いたのは、シルヴィアだったのだが、他の者達もその可能性にはすぐに気が付いた。
それ故に、眷属たちの調査は自分たちで行う事を進んで申し出たのだ。
勿論、それが答えになるとは思っていないが、今までの「待ち」の状態よりもはるかにましだった。
こうして考助は、本人のあずかり知らぬところで女性陣から感謝されることになる。
もっとも、知ったところで今までと態度を変えるわけではないと確信している女性陣は、特に本人に告げるわけでもなくいつも通り過ごすのであった。
というわけで、「切実な問題3」でした。
ようやくこのシリーズも終着点を迎え・・・られるかなぁ。
後の話は、「切実な問題」としてだすか、本編で出すかまだ決めていません。
いずれにせよ、この中途半端な状態では終わらせませんので、ご安心(?)ください。
 




