(10)称号と魂の器の関係
女性陣に眷属たちの調査を任せた考助は、別のルートで称号の確認をすることにした。
その別のルートというのは、女神であるジャルの事だった。
『それで? 聞きたい事って何?』
考助が交神すると、ジャルはすぐに出て来た。
前回神域に行った時には、忙しくなったと文句を言われたのだが、もう収まったのだろうか、と考助はどうでもいいことを考えつつ答えた。
『称号について・・・』
『残念だけど、私には分からないわよ?』
考助の疑問に、ジャルが先手を打って答えた。
『ええと・・・?』
『称号と魂の器の関係について知りたいのでしょう?』
『まあ、それもあるかな?』
『あの方も答えたと思うけど、本当に私達には分からないのよ。そもそも<魂の器>なんて呼び方は、考助の権能によるものだから』
ジャルの言葉に、考助は首を傾げた。
『どういう事?』
『考助の権能で見えた<魂の器>なんてものは、私達の間でも見たことも聞いたこともないのよ。当然それについて、答えられる者はいないわ』
『<魂の器>という物は聞いたこともないから、それが称号と関係しているかなんてわからないという事?』
『そういうことよ』
ステータス表示もそうだが、進化の途上にある状態を文字にして表わすことなど今までなかった力なのだ。
だからこそ考助の神としての新しい権能となっているのだが、そのためにアスラをはじめとした神々にもそれが何を意味しているのかは分からないのだ。
ということを以前アスラから聞いていたことを考助は思い出した。
『ふーん。そういう事なら、それはいいや』
『あれ? いいの?』
あっさり引いた考助に、逆にジャルが拍子抜けしたような声を出した。
『うん。前のアスラとの話で何となくわかってたから。それよりも今回は別の話が本命』
『なるほどね。それで、本命って何?』
流石のジャルも考助の本来の目的までは、分からなかった。
『僕も加護って付けられるの?』
『できるわ』
考助の質問に、ジャルは即答した。
『はやっ!』
あまりの速さに考助が驚いた。
事前に考助が質問してくるのを待っていたような速さだった。
考助にしてみれば、現人神とは言え神なのだからもしかして、と思っての質問だったのだが、ジャルにとってはごく当たり前の事だったのだ。
『当然よ。私の管轄の範疇だもの』
『なるほどね。・・・それで? 書類審査とかはいるの?』
神々が世界に影響を与える場合に、そう言った手続きが必要だという話は、色々聞いているのだ。
自分もそれに当てはまると思っての質問だったのだが、それに対するジャルの回答はあっさりしたものだった。
『必要ないわよ?』
『え!? そうなの?』
『そうよ。そもそも私がやっている書類審査は、神域にいる者に適用されている事だもの。そっちにいる考助には関係ないわ』
『そ、そうなんだ』
『まあだからと言ってあまり乱発されても・・・あまり困らないわね』
『・・・なんか、その言い方だと、どんどん乱発していいと受け取れるんだけど?』
流石にそれはないだろうと思って聞いた考助だったが、ジャルはその予想の上を行っていた。
『乱発してもいいわよ? といっても考助の事だから、世界のバランスが崩れるほどはやらないでしょうけど』
声しか聞こえていないのだが、ジャルの含むような笑い声が聞こえてくるようだった。
全く以ってその通りなのだから、返す言葉もない。
『でも、どの辺が境界線なのかなんてわからないよ?』
『その辺は心配する必要はありません。・・・と、エリス姉さまも私の傍で言っているわ』
どうやらジャルは、エリスがいる傍で今の交神をしているようだった。
『そうか。だったら大丈夫なのかな?』
『ちょっと、それどういう事よ。私のいう事だけだと信用できないってこと?』
ジャルのふくれっ面が見えるようで、思わず吹き出しそうになった考助だったが、何とか我慢することに成功した。
ジャルの後ろから聞こえてくる笑い声は、聞こえなかったことにする。
『違う違う。そうじゃないって』
『・・・なんか納得いかないけど、まあいいわ』
どう違うのか具体的には言わなかったのだが、ジャルはそれだけで納得してくれたようで、ほっと胸をなでおろした考助である。
『それで? 肝心の加護ってどうやってつければいいの?』
そもそもこの質問がしたくて、この交神を始めた考助は、ようやく話を切り出せた。
『え・・・!? えっと、こう気に入った相手に、エイッと・・・?』
ジャルの説明になんじゃそら、と考助は思ったが、そのことを切り出す前に別の声が聞こえて来た。
『その説明で相手に伝わるわけがないでしょう? 考助様には姿は見えていないのですよ?』
呆れたような声で割り込んできたのは、エリスだった。
『だって~。言葉で上手く説明なんてできないよ』
『説明しようというのが間違いだという事に気付きなさい』
『ん? それってどういう事?』
二人の掛け合いに、考助が口を挟んだ。
『そもそも加護を与えるというのは、神の権能のごく一部を分け与えるという意味です。当然与える力も様々なので、与え方も決まった物ではないのです』
『あ~。もしかして、神の力の一部の事をまとめて加護って言っているってこと?』
『そういう事です。神の側は力を与えたからと言って、その力を失うといったことは無いです』
エリスの説明で、考助も彼女が言いたいことが分かった。
『要するに、力も様々だから、与え方も当然色々あるという事?』
『そういう事になります』
『考助も最近目覚めた力の方はともかく、ステータス表示の力は使い慣れてるからそっちはどうにかなると思うよ?』
ジャルが割り込んできてそう説明をした。
先程即答したのもステータス表示の権能の事を指して言っていた。
『ステータス表示を加護として与えるのか・・・』
考助は、うーんと首を傾げた。
どうすれば、具体的に他人にそんな物を与えられるのか、全く思いつかない。
逆にエリスやジャルにしてみれば、考助にどう説明すればいいのか分からなかった。
というより、他の女神たちにも説明できないだろう。
元々神として存在している彼女たちにとっては、加護を与えるという力は、ごく普通に備わっているものなのだ。
『神の権能のごく一部を分け与える、ね』
『はい。そもそも神としての力は、強大な物ですから下手に分け与えると体が耐えられなくなります』
『私の書類審査もそう言ったところをチェックしているのよ?』
『何かそう聞くと、下手に加護を与えないほうがいい気がしてきたな』
急に加護を与えることを怖気づき始めた考助だった。
二人は、加減を分からずに加護を与えると、ろくな結果にならないと言っているのだ。
『その辺は、加護を与えるときに感覚として分かる、としか言いようがありませんね』
『そうそう。何となく、これ以上はダメだってわかるのよね』
こればかりは、実際にやってみないとわからないということなのだ。
ちなみに、一回加護を与えることを覚えてしまえば、後は勝手に身についてしまう。
問題は、最初の一回目という事なのだ。
『さて、どーしたもんか』
悩む考助に、こればかりは口出しを避けるエリスとジャル。
こういった問題に口を出せば、必ず何かしらの影響を与えることは分かっている。
だからこそ口を出すのは控えた。
相手があることのため気軽に実践するわけにもいかない。
結局のところ、結論は出せずに交神を終える考助であった。
これで第19章は終わりです。
閑話を挟んで、第20章になります。
第20章でも、新しい力と加護に関しての話が続きます。




