(1)右目の変化
神の気配を抑える訓練も重要なのだが、今のところすぐに管理層以外に行くわけではないので、後回しにした。
そしてそもそもの本題である新しい力が手に入ったのかを確認することにした。
神域では、本型の世界記録に会ったということくらいで、具体的に何が出来るようなったということは無い。
魂と身体の整合性を取るための適合化はしたのだが、そもそもそんなことはほとんど起こらないので、役に立つ力ではない・・・と思っていた。
確認のために黒狼に会うまでは。
以前感じた違和感を再度確認するため、第八十一層の黒狼に会いに行った。
当然というか、ナナも傍にいて既にモフモフを堪能した後だ。
「・・・・・・んー?」
「どうだ?」
黒狼を撫でながら首を傾げる考助に、珍しく付いてきたシュレインが聞いてきた。
たまには自分の管理をしている塔だけではなく、アマミヤの塔の管理層も見てみたいという理由で付いてきているのだ。
「よくわからないな。前の時と変わっていない気もするし、何か見落としている気もするんだけど・・・?」
「ふむ。・・・ピーチの占いでは、神域で何かきっかけがあると出ていたのだろ?」
「そうなんだけどね」
具体的に何かを手に入れたというわけではないので、考助は首を傾げている。
「そもそも、神域にいた時は、ずっと寝ていたしなあ・・・ん? 寝ていた?」
シュレインに聞こえないように小さく呟いた考助は、ふと寝ていただけではないことを思い出した。
「いやいや、まさか、そんなことは・・・」
自分でも半信半疑、というよりほとんどありえないだろうと考えながら、それでも試しにあのベットの中でやっていたことを黒狼に対して実行してみた。
そして、まさかの手ごたえを感じて、すぐに黒狼から手を離した。
「はっはっはっ・・・まじかよ!?」
今黒狼に触れて感じ取ったのは、魂と身体の間の違和感だった。
考助が、神域で散々感じ取ったものだ。
だがまさか、他者のそれを感じ取れるとは思わなかった。
とはいえ、感じているのはまさしくその違和感だったので、間違いがないだろう。
「うーん、とは言え、これをどうすればいいのか、皆目わからないな」
ぶつぶつを呟き始めた考助を見たシュレインは、いつもの事と放置をして周りに集まっている狼達をモフッていた。
こうなった時の考助は、下手につつくより諦めがつくまでは放置したほうがいいと、今までの経験で分かっている。
考助が神域で臥せっていた時にやっていたのは、変わってしまった魂に対して肉体を合わせるという作業だった。
ところが、いま黒狼から感じているのは、スキルLVが高くなっている肉体に対して魂が合っていない状態だ。
という事は魂の方を肉体に会うようにすればいいという事になる。
とはいえ魂の方を合わせると言っても、どうすればいいのか皆目見当もつかない。
そこまで考えた考助は、ふと進化とはなんぞや、とふと思った。
そこで、肉体のスキルレベルに合わせて魂が変化するのが進化するという事ではないのか、という仮説を立てた。
「その仮説はいいんだけど、そもそも進化させるのはどうすればいいのかわからんよな・・・」
黒狼を撫でながらぶつぶつを呟いている考助の姿は、傍から見れば中々おかしな感じになっているが、それを指摘する者はいなかった。
撫でられている黒狼は、気持ちよさそうにしているので、それを止める者もいない状態だ。
そんなことをして考えていた考助は、いつの間にか目を閉じていた。
それに気づいて、目を開いたときにふと目に違和感を感じた。
「・・・・・・ん?」
違和感を感じたのは、右目の方だった。
いつもステータスを見ている左目の方ではない。
まさかと思い、左目の時と同じように、神力を使ってみる。
初めて<神の左目>を使った時の様なことにならないように、あくまでそっと使った。
すると、ものの見事に予想は当たりステータスと同じように、何かが表示された。
<進化の萌芽>
「なに、これ?」
ステータスと同じように文字が出てくるが、特にそれ以上は出てこなかった。
これだけの表示だと、何のことだかさっぱりわからない。
最初という事で、神力を絞りすぎたかと思い、更にもう少し強く確認をしてみた。
<進化の萌芽>
不足条件:魂の器の拡大
「うーん・・・益々分からなくなったぞ?」
分かることも増えたが、余計わからなくなったことが出て来た。
まず<進化の萌芽>というのは、名前からして進化をしようとしている、あるいはその条件を満たそうとしている状態だと考えた。
そうすると次の不足条件というのは、進化に足りていない状態が表示されているという事になる。
だが、その条件の魂の器の拡大というのが、何をすればいいのかが分からない。
考えてもさっぱりわからないので、先ほどと同じようにもう少し右目に込める神力を強くしてみた。
<進化の萌芽>
不足条件:魂の器の拡大(よりふさわしい魂が入るための器を用意する)
「いや、それじゃあわからないから」
具体的に何をすればいいのか出てくれればと思ったのだが、そう甘くはないらしい。
残念ながらさらに神力を右目に込めても、これ以上の表示の変化はなかった。
結局進化をするために不足している物があって、それを用意しないと進化できないという事が分かっただけだった。
「魂の器の拡大、ねえ・・・」
首を捻って考えるが、さっぱり思いつかなかった。
「なかなか、上手くいかないようだの?」
先ほどから首を捻っている考助に、シュレインが話しかけて来た。
「うん、魂の器を拡大するってのがさっぱりわからなくてね」
「魂の器の拡大? なんだそれは?」
突然そんなことを言われて面をくらったシュレインに、考助が今まで見えた物を説明した。
「なるほどのう。つまりは、魂の器とやらを拡大しないと進化しないという事か」
「まあそういうことだね。何かわかる?」
「いや、分からんの」
「だよね~」
二人で首を傾げるが、結局分からなかった。
「新しい力だから使えるかと思ったけど、なんとなく微妙な気がするなあ」
「いや、そんなことは無いぞ? そもそも進化する寸前と分かるだけでも普通ではないぞ?」
「そうかな?」
シュレインの忠告に、考助は首を傾げた。
「間違いなく感覚がマヒしておるの。神々と頻繁に会っている影響かの?」
呆れたような視線になったシュレインに、考助はスッと目を逸らした。
何となく思い当る事があるような気がしたのだ。
「まあ、よいわ。それよりも魂の器の拡大は何をすればいいのか、という事かの?」
元々深く突っ込むつもりは無かったシュレインは、自ら話題をそらした。
というか、本題に戻ることにした。
「そうなんだけど・・・結局、漠然としすぎていて、さっぱりわからないよね」
「まあ、そういうことかの。・・・そういえば、他の個体はどうだったのだ?」
「黒狼に関しては、全く同じだったね」
「・・・む。違いがあれば、と思ったんだがの」
流石に同じ個体だけを愛でていたわけではなく、他の個体もチェックはしていた。
黒狼だけではなく、白狼の系統も見ている。
だが、今のところ右目に反応があったのは黒狼たちで、白狼には全く反応しなかった。
反応した黒狼も全て同じ表示だったので、結局分からなかったのだ。
「しょうがない。そもそも黒狼だけで把握しようというのが虫が良すぎたね。他の眷属たちも見に行こう」
結局黒狼だけで、きちんと理解しようというのが無謀すぎたと結論付けて、今回は第八十一層から立ち去ることにしたのであった。
前章から引っ張ってきた新しい力がようやくお目見えしました。
・・・使えない? いやいや、そんなことはない、はずです。タブン。




