(10)ようやくの帰還
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最近は結構増減しているので、この話がアップされる頃は、7000件を切っているかもしれませんがw
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それでは本編どうぞ。
幽体離脱をした際に、体調不良の原因が何となくわかった。
幽体すなわち魂の変化(成長?)に、肉体が合っていなかったためだ。
きちんと意識があった状態で、魂が肉体から離れたからこそ理解することができたのだ。
その経験を元に、現在考助は魂と肉体の間の不一致を解消しようとしていた。
傍から見れば、ベットに横になりながら目を閉じているだけなので、普通に寝ているように見える。
しかし実際は、寝ているわけではなく瞑想しているような状態になっているのだ。
ミクセンの街で初めて交神した時と同じような状態だ。
その状態になって、体の違和感を神力で探っていく。
その違和感のあるところを、現在の魂の状態と合うように修正をすればいい。
ただし、修正するとは言ってもそんなことをするのは、初めての事なので、最初は手間取った。
初めての修正の時は、慣れない作業という事もあって、あっという間に時間が過ぎていた。
様子を見に来たエリスが、あまりに動かない考助を見て心配したほどだった。
ただ単に瞑想しているだけでは、エリスも心配しなかっただろうが、あまりに深く集中して作業をしていたためほとんど生体反応を感じなかったらしい。
何とか一か所目の違和感を修正して戻った時には、エリスが不安げな表情で考助を見ていた。
ついでに、肉体は疲れていないのに、ぐったりとしてしまうという珍しい体験もする羽目になった。
明らかに精神的な疲労を感じた考助は、そのまますぐに寝入ってしまった。
次に目を覚ましたのは、昼御飯で呼ばれたときだった。
最初はそんな感じで全く進まなかったのだが、数をこなすことによりだんだん慣れてきたため修復スピードも速くなってきた。
とはいえ、後になって、ただ違和感のあるところを修正すればいいというわけではなく、バランスも重要だと気づいてからは、より細かい作業を強いられることになった。
自分の体を修正していくのは何となく変な感じもしたのだが、直せるものが他にいない以上自分でやるしかない。
何よりこの作業によって実際に良くなっていくのが分かったので、ベットの中でひたすら修正作業を行ったのだった。
結局体調に違和感が無くなるまで修正できたのは、それから三日後の事だった。
おかげで、立ち眩みも改善して普通の生活を送れるようになっていた。
ちなみにこの三日間は、アスラがお触れを出したために女神様達の訪問は無かった。
お見舞いに来ていたのは、アスラと三大神の三姉妹だけだった。
いつもの調子で押し掛けられても困ったことになるので、考助としては助かったと思っていたのだが、そもそも神域に来ている目的を考えるとあまり良いとは言えない。
というわけで、治ってすぐに塔へ戻るのではなく、もう一晩だけ神域に留まることにして、その間に女神達との交流をすることにした。
考助が病み上がりという事は、既に伝えられていたのか、以前までのように勢いは無く、むしろ気遣うような感じで接してきていた。
逆に気を使わせることになってしまったかと思わなくもなかったが、何もせずに帰る気にはなれなかったので、それについてはしょうがないと諦めることにした。
考助的には、もう完治しているのだが、病み上がりなのは事実なのだから。
「本当に大丈夫?」
翌日、塔に帰ることにした考助は、心配そうなアスラに見送られることになった。
流石のアスラも完治した次の日に帰るとは思っていなかったのだ。
「大丈夫大丈夫。肉体的にはもう完治しているんだから」
考助は自分で作業したので、完全に治っていることはわかっている。
アスラとしても治っているのはわかっているのだが、それでも不安なのだろう。
止めるのは無駄と分かっているアスラは、考助に宝石のような物を渡した。
「じゃあ、せめてこれを持って行って」
「ん? 何これ?」
「帰還が失敗した時用の目印。無いとは思うけど、一応の保険よ」
「・・・そうか。ありがとう」
魂の状態に合うように、肉体を修復したために、帰還用の術を使った際に何か不具合が発生しないとも限らない。
もし何も持たずに、移動が失敗したとしたら大変なことになる。
場合によっては、世界と世界の間でさまようことになりかねないのだ。
そうなったときに見つけられるように、目印を用意しておいたのだ。
考助もそれが分かったので、有難く受け取ることにした。
「それじゃあ、そろそろ行くよ」
考助はそう言って、今回は帰還用の陣を使って塔へと戻ったのであった。
ちなみに、移動に失敗することは無く無事に着いたのを確認し、アスラをはじめとした一同が大きく安堵したのは余談である。
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管理層に戻った考助を、メンバー一同が出迎えた。
「お帰りなさいませ、コウスケ様」
代表してシルヴィアが、そう言って来た。
何となくいつもの出迎えと違うのを感じた考助は、既に逃げ腰になっている。
「・・・ええと? どうかしたの?」
そんな考助を、シルヴィアがじっと見つめて、ピーチがシルヴィアに問いかけた。
「どうですか~?」
「間違いありませんね」
考助には意味が分からないやり取りを二人でしていた。
戸惑ったように他のメンバーを見るが、残念ながら助けてくれそうな者はいなかった。
そんな考助を見たシルヴィアが、一つため息を吐いて言ってきた。
「・・・神域で何があったのか、教えてもらいましょうか」
先程から何やらよそよそしく感じるのも、考助が逃げ腰になることに拍車をかけている。
「え? ええと、いつもと同じように過ごしてたけど?」
「でしたら、コウスケ様の神格がなぜ上がったのか、きちんと説明してもらいましょうか」
神格? なにそれ? と思ったのだが、シルヴィアの目は誤魔化せないと諦める考助であった。
本来なら神域で起こったことは、話さないようにと思っていたのだが、いきなり出鼻を挫かれることになった。
とは言え、流石に世界記録に関しては、濁して話をしてある。
シルヴィアもその辺は心得ているのか、深くは突っ込んでは来なかった。
「ところで、神格って何?」
一通り話し終えたところで、考助がシルヴィアに聞いた。
「以前にも話したと思いますが・・・私達巫女や神官が神の気配を感じ取ったときの、力の強さの事ですわ」
「それが上がっていると?」
「上がっていますね。下手をすれば、エリサミール神に匹敵するかもしれません」
「いや、そんな大げさな」
考助は笑おうとしたが、真剣な表情のシルヴィアを見て思いとどまった。
「ええと、まじ?」
「ええ。本当です。本格的に神威(神の気配)を抑えるように訓練したほうがいいです。今のままだと、普通の巫女や神官でも気づかれてしまいますよ?」
「マジか・・・」
シルヴィアの忠告に、考助は頭を抱えた。
今の考助は神の気配が駄々洩れ状態になっている。
以前の神格であれば、よほど注視しないと一般の巫女や神官では気付かれなかっただろう。
だが、現在のような神格では、ある程度の修業を積んだ巫女や神官であれば、すぐに気付かれてしまうほどになっていた。
「うーむ。言われたとおり何とか努力してみるか。シルヴィアに迷惑かけるけど、手伝いお願い」
そもそも神格を抑えるなど、どうしていいのか考助には分からないのだ。
一番詳しいシルヴィアの手伝いはどうしたって必要になる。
「勿論ですわ。それが私の役目ですから」
シルヴィアも同意して頷いた。
神の神威を抑える方法などは、シルヴィアにも分からないが、神威が漏れているかどうかの確認はできる。
むしろ、それが専門と言っていい。
考助が神威を抑える訓練にはうってつけと言えるだろう。
結局のところ、神域から戻ってきた考助が一番最初に取り掛かったのは、新しい力に関する確認ではなく、自身の神威を抑える訓練をすることになったのであった。
というわけで、ようやく塔へと戻ってきました。
この話で第18章は終わりです。
考助が何を得たのかは、次章になります。黒狼の事は忘れていませんよ?w
閑話を数話挟んで次の章になります。




