(3)最初の目的
今回追加された機能だが、流石にお手軽に実験をするというわけにはいかなかった。
今までのように、塔内部だけで完結する物であれば、特に問題ない。
だが、今回のは完全に塔の外に効果を現すものになる。
不用意に実験をした場合に、余計なものを招きかねないということで、実験するのは控えることにした。
結界くらいは、塔周辺に張った上でどれくらいの強度が出るのかを見てもいいかもしれないが、現状そんなことをする必要性がない。
もし使うことがあるとすれば、他大陸から宣戦布告とかをされた場合に、近づく船を入らせないようにするくらいしか使い道が思いつかないのだ。
あるいは、他の大陸にある塔で同じようなことが出来れば、あるいは活躍するような場面も出てくるだろうが、残念ながら(?)それはあり得ないというのが、フローリアの弁だった。
そんな機能が使えるのであれば、過去起こった戦争で使われないはずもなく、そう言った話は全く聞いたことがなかった。
勿論フローリアとて、全大陸の歴史を知っているわけではないが、少なくとも王女として生活していた国家がある大陸では、そう言った歴史は聞いたことがない。
付け加えるなら、他大陸でそのようなことが起これば、間違いなく話として伝わってきているだろう。
何しろ国家のあり方を変えるような、パワーバランスを崩す代物なのだ。
そう言う理由で、今回追加されたチート機能は、いざというとき以外は使用しないことが決まったのである。
「そう言えばハク」
「なあに?」
「塔LV4になったみたいだけど、何か変わった?」
今更ながらに、ハクへと確認をする考助。
今までいろいろありすぎて、確認が後回しになっていたのだ。
「ううん。特に変わらない。あ、少しだけ進化している個体が増えたかな?」
ハクが管理しているのは北西の塔になるが、管理を始めるのが出遅れているため塔LVが上がるのが一番最後だった。
考助としては、その辺は特に気にしていないのだが、メンバーたちの間では何となく競争するような雰囲気になっている。
とは言っても、話のタネになるような段階なので、考助もそのままにしている。
流石にそれがもとで雰囲気が悪くなるようなことになれば、その前に止めるつもりでいるが。
そんな考助の考えが分かっているのか、それとも元々そんなことをするメンバーでないのか、おかしな雰囲気になるようなことにはなっていない。
四属性の塔と聖魔の塔(聖獣と魔獣の塔の略)では、そもそも規模が違うために成長の仕方が違っている。
その規模が違う者同士で比べても仕方ないという雰囲気もある。
「なるほどね。それ以外に何か変わったことは?」
「うーん。特にないかな?」
「了解。わかったよ。ありがとう」
全ての塔で塔LV4を超えたために、中級モンスターを召喚できるようになっている。
おかげで神力の入り方は、段違いになっていた。
最近塔LV4になったばかりの北西の塔以外では、既に設置している召喚陣は中級の物に置き換わっている。
世界樹とヴァミリニア城がある聖魔の塔は勿論、他の三つの塔も既にわずかではあるが、神力は黒字になっている。
北西の塔も中級の魔法陣が設置できるようになったので、全ての塔で黒字経営になるのも時間の問題だろう。
ただし、問題があるとすれば、現状その神力を使う使い道が見当たらないという事だ。
塔の管理を始めた当初からすれば、ぜいたくな悩みだったりするのだが、事実である以上どうしようもない。
今までひたすらに召喚獣たちの成長を促してきたのだが、それ以外の方向性を見つけないと新しい展開も起きないと考助は考えている。
だからと言って、そうそう簡単に新しい方向性など見つかるはずもなく、悩みの種の一つとなっていた。
勿論考えているのは、考助だけではなく他のメンバーにも考えてもらっているのだが、そうそううまい考えなど出てくるはずもない。
結果として、今までと同じように、召喚獣たちに頼った方向で、色々模索しているのが現状だった。
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「あら? また何か悩んでるの?」
悩める考助に近づいてきたのは、コレットだった。
「ああ、コレット。まあね。ナナとかワンリの進化も終着点みたいだから、アマミヤの塔で出来ることが見つからなくてね」
「他の眷属たちは?」
「それは勿論、進化してくれればそれにこしたことは無いけれど、別段急いで進化してもらう必要性もないかな、と」
考助の言い分に、コレットも納得したように頷いた。
「それは、確かにそうね。もう神力も慌てて稼ぐ必要もないみたいだしね」
「そうなんだよね~」
そう言った考助は、ぱたりとソファーの上に寝っ転がった。
今の考助は、目的と目標を見失っている状態になっている。
それを見かねたコウヒが、珍しく口を挟んできた。
「考助様。そもそもこの塔を攻略した目的を見失ってはいませんか?」
そもそも考助がアマミヤの塔を攻略したのは、安全な拠点を手に入れるためだった。
そう言う意味では、既に拠点は確保されていると言っていい。
考えてみれば、コレットやシルヴィア、フローリアも似たような状況で管理層へと来ている。
「なるほどね。確かに今までいろいろやってきたけど、無理に何かしようとしなくてもいいのか」
考助にしてみれば、今までいろいろ試して上手くいってきたため順調すぎるほど順調に塔の運営が上手くいっていた。
その流れで、この先もやっていかなくてはならないと考えていたのだが、別にそんなことは無いのだ。
「私達は、塔LV10にするという目標もあるけれど、それ以上ってあるのかな?」
コレットの言葉に、考助も首を傾げた。
「さあ、どうかな? 塔LV10の条件が神になることだからなあ。ちょっとそれ以上って思いつかないな」
「やっぱり、そうよね。だったら特に何も考えずに、のんびりやってもいいんじゃないかな?」
アマミヤの塔が塔LV10になったのも、意図せずに考助が現人神になれたからこそなのだ。
それ以上のLVがあるかどうかは分からないが、狙って出来るような条件だとは思えない。
「・・・それもそうか。これからは、のんびりやっていくことにするよ」
「まあ、そんなことを言っていても、色々やらかすのがコウスケだと思うけど」
コレットは、そんなことを言って考助を茶化した。
「ウワッ、ひどっ。でも、否定できない所がつらいな」
「おお。自覚が出て来ただけ、今までより一歩前進しているわね」
落ち込む考助に、さらに追い打ちをかけるコレット。
勿論、からかって楽しんでいるだけなのはわかっているので、考助もさほど本気で落ち込んでいるわけではない。
「あー。はいはい。僕が悪うゴザンした」
コレットと話している間に、何となく眠気を感じて来た考助は、ソファーに寝っ転がりながら、目を閉じた。
それを見たコレットが、少し慌てた様子で考助の所に近づいてきた。
「あ、ごめん。言い過ぎた?」
「んあ? いや、違う違う。ゴメン、何となく眠くなってきたから」
目を閉じたままそう言う考助に、コレットはホッとため息を吐いた。
「そう。このまま少し寝てしまったら? 夕食までまだ時間あるし」
「うん・・・。そうさせてもらうかな?」
考助はそう言って、そのまま静かになってしまった。
これを見たコレットは、静かに考助が寝ている傍に腰かけるのであった。
前話からのまとめと、何となく足踏みしている様子を書いてみました。




