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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第17章 塔と代弁者と愚か者たち
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(6) 暴走

 嫌な予感と言うのは、大抵当たるものだ。

 勿論、負の感情なので忘れにくいために、当たっていると感じるという意見もある。

 だが、考助に限って言えば、特に現人神になった時から嫌な予感というのは、外れなくなった気がする。

 今回もまた、その嫌な予感を感じてからすぐにことは起こった。

 珍しいことに、少し焦った様子でピーチが研究室へ入ってきたのだ。

 現在、イスナーニは第五層へ行っているので、考助しか研究室にはいない。

 余談だが、ゴーレム作成室は、別室をわざわざ作った。

 そう言うわけで研究室には、考助とミツキがいたのだが、そのピーチの様子を見て何があったのかと顔を見合わせた。


「ピーチ、そんなに慌ててどうしたの?」

「コウスケさん、ちょっと来てください。急ぎです」

 そう言って、考助の返事も聞かずに、考助の腕を取って研究室を出た。

「ちょ、ちょっと待って、何が起こったの?」

「私から話すよりも、直接聞いた方がいいです~」

 歩いている間に多少落ち着いたのか、ピーチがそんなことを言って来た。

 ピーチがここまで慌てることって何が起こったんだ、と内心でびくついていた考助だが、取りあえず黙って連れて行かれるままになっていた。

 当然後ろには、ミツキが付いてきている。

 ピーチが考助を連れて来たのは、いつも定例会を開いている会議室だった。

 定例会を開くとき以外は、ほとんど使われないその部屋に、三人の人物が待っていた。

 二人は、シュレインとフローリアだった。

 残り一人は、管理メンバーではなく、第五層の行政府の高官の一人だった。

 前回の定例会でも来ていたので、考助も覚えていた。

 その彼が定例会でもないのにこの場に来る理由が思い当たらずに、考助は首を傾げた。

「どうかしたの?」

「コウスケ、来たか」

 考助の姿を見て、あからさまにホッとした表情になった一同。

 これを見て、ほんとに何かが起こっているんだと認識した。

 ここに来ていた高官も考助の顔を見て、あからさまに安堵の表情を浮かべていた。

 その高官が、シュレインに促されるように、事情を話し始めた。

 話を聞くにつれて、考助の顔が引きつり始めたのであった。

 

 事の発端は、コウヒがシュミットに発注していたゴーレムの材料を受け取りに、第五層を訪ねた事に始まる。

 材料の受け取り自体は、不備があるわけもなくすんなりと終った。

 問題はその後の事だ。

 何を思ったのか、コウヒは受け取りが終わった後すぐに管理層に戻らずに、第五層の様子を見て回り始めたのだ。

 コウヒはもちろん自分の容姿が人目を集めることは、よくわかっている。

 その容姿を使って、町の様子を噂として話を聞きだしたのだ。

 その噂話の中に、今回の事件の発端となる物があった。

 端的に言えば、考助を貶める噂の数々だった。

 その噂話を聞いたコウヒは、その場では特に何もせずに、そのまま行政府へと向かった。

 当然コウヒのことなどわからない者が、最初は対応した。

 だが、たまたまコウヒの顔を見知っていた高官がその場を通って、顔を青褪めさせたのだ。

 その時のコウヒの表情を見て一瞬で事情が分かったという事だった。

 すぐさま別室に通されて、アレク預かりとなりその高官は、アレクの許可を得てからそのまま直接管理層へと来たという事だった。

 

 話を聞いた考助は、ひとまず目の前のことを対処しなければならなかった。

「ミツキ、お願いだから君まで突っ走らないでね」

 考助の言葉に、ミツキ以外の全員が彼女に注目して、内心で冷汗を流した。

 表情はにこやかだったが、誰がどう見ても怒っているのが分かった。

「あら? どうしてかしら?」

「取りあえず、ちゃんと事情が分かるまで、動かないで。いいね?」

「はあ。・・・わかったわ」

 渋々と言った感じで、ミツキが頷いた。

 それを見た残りの全員が安堵のため息を吐き、流石とばかりに考助の方を見た。

 その視線は、現在台風を起こしかけているコウヒへの対処の期待の表れだろう。

「・・・やっぱり嫌な予感って当たるなぁ・・・」

 と、どうでもいいことを考えながら、高官に連れられて第五層へと向かう考助であった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「あ、無理。これ、無理」

 行政府で、コウヒの顔を見た瞬間の考助の台詞である。

 その台詞を聞いたときのアレクの表情は見ものだったが、考助はそれどころではなかった。

「取りあえずコウヒ、落ち着こう」

「あ、主様いらしたのですか。取りあえず不届き者は潰しますので、お待ちください」

 いや待って。潰さなくていいから、と喉まで出かかった言葉は、結局外に出ることは無かった。

 言っても無駄だという事が分かったからだ。

「アレク。取りあえず、どういうことなの?」

 第五層の中で考助を貶める噂が広がっている。それが、そもそもの原因だ。

 そんな状況をアレクが黙ってみているとは思えない。

 アレクは一つため息を吐いた。

「以前からこういった噂は無かったわけではないのですがね。最近になって意図的に誘導されているようでして・・・」

 言い訳めいたアレクの言い分に、考助が急いで助言した。

「アレク。政治的な駆け引きはどうでもいい。わかってないみたいだから言うけど、もう既に手遅れだ。言うべきことを言わないと、君も巻き込まれるよ?」

 考助の言葉に、アレクはぴたりと動きを止めて、コウヒの方を見た。

 考助が何のことを言っているのかは、よくわかっている。そして今の自分の言葉が、虎の尾を踏みかけているという事も。

 アレクとしても当然噂話の存在は知っていた。

 先程話したように、裏で意図的に操っている者まで、ある程度は掴んでいた。

 あとは、きっちりとした証拠をつかんだうえで、政治的に有利なように持って行くつもりだったのだが、コウヒと言う存在で全部吹き飛んでしまった。

 考助の言うとおり、このまま放置すれば、自分どころか行政府自体もコウヒの怒りの対象になってしまう。

 第五層の行政府だからと言って、コウヒは遠慮はしないだろう。


「・・・ここでの関係者は既に、割り出しが済んでいます。裏で糸を引いているところも大体は・・・」

「教えなさい」

 コウヒが端的に短く答えた。

「コウヒ様、今回のこれを上手く利用すれば、この町の立場はもっと・・・」

 なんとか利点を説明したうえで、思いとどめようとしたアレクだったが、コウヒはその一切を無視した。

「関係ない。教えるの、教えないの?」

 その一言が最後通牒だと理解できたアレクは、すぐに一枚の書類をコウヒに差し出した。

「一応今までで、分かっている情報です」

 コウヒは、その書類を受け取ってからすぐにその部屋から出て行った。

 恐らくデフレイヤ一族の所に、裏を取りに行ったのだろう。

 それくらいのことは、考助でもわかる。

 

 コウヒが出て行ったのを見て、アレクはため息を吐いた。

 だが、そのアレクを見て、考助は気の毒そうに言い出した。

「アレク。悪いけど、安心するのはまだ早いよ?」

「は? どういう事・・・」

 どういう事なのか、と問おうとしたアレクは、考助の傍にいたミツキを見て、すぐに考助が言いたいことがわかった。

 アレクはごくりと喉を鳴らして、ミツキを見た。

「まあ、今回に関しては、初回という事で見逃してあげるわ。けど、次同じことをしたら・・・多分私が動かなくてもコウヒが即動くと思うわ」

 今回の件に関しては、コウヒもミツキもアレクに対して怒りを感じている。

 正確には行政府に対してということになるのだが。

 考助を不当に貶める噂を、行政府はあえて見逃していた。

 その噂を意図的に流している者達を暴いて、政治的に有利に立とうとしたのだ。

 だが、コウヒもミツキも噂を見逃している時点で同罪と感じている。

 今回見逃しているのは、あくまでも考助がアレクを重用しているからに過ぎないのだ。

「・・・・・・わかりました」

 アレクがミツキに頭を下げて、ミツキも引き下がった。


 考助としてもコウヒの動向が気になるので、これ以上ここにいるわけにはいかないので、すぐに行政府から去ることになった。

 一緒に来ていたピーチが、考助達が去った後で、アレクに言った。

「コウヒ様とミツキ様にとって、コウスケ様は完全に虎の尾だから下手に利用しようと考えないほうがいいですね~」

「・・・出来れば最初に教えてほしかったですな」

「あら~。一番最初のフローリアの時の事で分かっていたと思っていました」

 ピーチに言われて、ようやくあの時の事を思い出したアレクであった。

「・・・確かに」

 落ち込むアレクに、ピーチが慰め(?)の言葉を投げかけた。

「まああの時とは状況が違いますから無理はありませんが、ここでは今まで使っていた手段も使えないという事をきちんと徹底したほうがいいでしょうね~」

「そうしよう」

 アレクはピーチの言葉に、重々しく頷いて同意するのであった。

少し長くなりましたが、ちょうどいい区切りにならなかったので、今日はここまでにします。

明日もこの話は続きます。

デフレイヤ一族で、確認を終えてコウヒが向かった先は・・・?

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