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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第16章 塔とゴーレム
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閑話 輸送大作戦

今回はほんの少しだけ多めです。


この話に出てくるリックは、第六章「閑話 とある商人の話」に出てくる商人と同一人物です。

ザサンは、第三章五話、第十一章「閑話 ある冒険者達の活動」に出てくる冒険者です。

 リックは現在クラウン「リラアマミヤ」の商人部門に所属していた。

 以前行っていた行商に関しては、信頼できるものにすべての販路を譲り渡していた。

 リックにしてみれば、大きな決断だったのだが、後悔はしていない。

 何より商人部門を取り仕切っているのが、行商人繋がりで知り合いだったシュミットだったのも大きな原因になっている。

 シュミットから直々に是非にという話があったのだ。

 そのリックは現在、職にあぶれそうになっていた。

 いや正確には今まで担当していた食料品に関する担当部分が、ケネルセンの六侯達が加わったことにより、彼らの方に統合されることになったのだ。

 リックもそのまま担当部門ごと流れることになるのかと思っていたのだが、そうではないようだった。

 他の者達が次々と新しい場所に配属されているのに、自分にはその指令がいつまでたっても来ないのだ。

 しょうがないので、買取窓口などで商品の見積もりなどを行っていた。

 勿論商品を鑑定する目を腐らせないようにするためだ。

 

 そんなことをしていたある日、ついにリックにもお声がかかってきた。

 指定された場所へと向かう。

 といってもその場所はシュミットの執務室だった。

 商人部門も立ち上げ当初からは考えられないほど、しっかりと組織化されているので、下っ端に近いリックが、シュミットと業務上で顔を合わせることはほとんどなかった。

 シュミットの執務室に呼ばれるのも数えるほどしかない。

 もちろん普段の付き合いは別である。

 執務室に入ると、シュミット以外に二人の人物がいた。

 一人は、クラウンの冒険者部門長のガゼランだった。

 もう一人は、リックがクラウンに勤めるようになってから顔見知りになった冒険者のザサンだった。

 ガゼランはともかく、ザサンは現役の冒険者だ。

 しかも塔の階層をトップクラスで攻略しているはずだった。

 休暇で町をぶらついているとかならともかく、この場にいる理由が分からなかった。

「やあ。リック。よく来てくれました。貴方に是非ともやってもらいたい仕事があってきてもらいました」

「仕事、ですか。この場にザサンさんが、いらっしゃるのも関係してるのですよね?」

 これは、疑問と言うより確認のための質問だった。

 関係していなければ、わざわざこの場にいる必要が無いためだ。

「俺に聞いても無駄だぞ? 俺もガゼランに引っ張られてここに来ただけだからな」

 その言い方にガゼランはどこ吹く風といった態度で、シュミットは苦笑していた。

 シュミットの様子を見る限り、本当にそんな感じだったのだろう。

「はい。仕事の依頼です。内容に関しては口で説明するより、まとめた文書があるのでそれをまず読んでください」

 シュミットが、リックとザサンそれぞれに一枚の紙を渡した。

 この世界において文字が読めない者は、珍しい存在ではなかったが、リックもザサンも文字は読める。

 その書面を読み進めるにしたがって、リックの顔は真剣な表情になり、ザサンは青褪めたような表情になっていった。

 その書面の内容は、ある街からある街への行商に関する物だった。

 だが、確かに内容は行商と言えるものだったが、規模は完全に行商の域を超えて、商隊といった規模になっている。

 リックが知る限り、これほどの規模の商隊が組まれたという話は聞いたことがない。

「ま・・・まさか、この商隊を?」

「はい。リックさんに、率いてもらいたいと思います」

 反射的に無理です、と言いそうになったリックは、出かかった言葉を途中で呑み込んだ。

 もう一度書面に目を通して、本当に不可能かどうかを商人としての目で確認を始めた。

 それを横目に、ザサンがガゼランに同様の質問をしていた。

「おい。まさかと思うが、俺が呼ばれたのは・・・?」

「おう。この商隊の護衛のリーダーをやってもらおうと思ってな?」

 ガゼランが当然だろ、といった表情でザサンに言った。

 その表情を見たザサンは、苦虫を噛み潰したような表情になっていた。

 二人の態度は、その商隊の規模による。

 まず荷を運ぶための馬車の数が尋常ではない。

 その数、実に二十台以上。

 モンスターの襲撃の危機が常にあるセントラル大陸はもちろん、他の大陸でもこれほどの規模の商隊は無いのではないかと思われる。

 少なくともリックは聞いたことが無かった。

 荷馬車が多いという事は、当然それを運ぶ商品も多いという事になる。

 逆を言えば、襲われやすくなるとも考えられる。

 ただその辺のことはきちんと考えられているらしく、護衛の冒険者の規模も前例がない状態だった。

 ルートは大陸北西のケネルセンから北の町になっている。

 最後までその数で行くわけではなく、途中の町でいくつかの荷物は、荷馬車ごと切り離されることになっていた。

 

 内容をきちんと精査したリックは、改めてシュミットに向き直った。

「絶対に無理だ、とは言いませんが、それでも無理のある内容ではないですか?」

 リックの言葉に、シュミットは笑みを深めた。

 流石、行商を生業にしていたリックだと思ったのだ。

「普通で考えれば無理ですね。私でも行こうとは思いません」

 シュミットの答えに、リックとザサンが首を傾げた。

 その二人の様子を見て、シュミットが自身の執務用の机からある物を取り出した。

 リックは、一見して魔道具だという事はわかったが、それが何の魔道具かまでは分からなかった。

「それは?」

「荷馬車の速度を上げる魔道具、だそうです。荷馬車の速度で言えば、平均しても倍くらいは違って出せるそうです」

 シュミットの回答に、リックは目を剥いた。

 もしそれが本当なら、行商人であれば垂涎の品になる。

 そのリックの考えが分かったのか、リックが質問をする前に、シュミットが先に言って来た。

「個人の行商でこれは使えませんよ。はっきり言えば、採算に合いません」

 その言葉だけで、リックはシュミットが言いたいことが分かった。

 逆を言えば、採算に合うようにするために、この規模の商隊になったのだ。

「そういう事ですか」

「勿論それだけではなく、クラウンの宣伝も兼ねてますが、まあその辺は言わなくても分かるでしょう?」

「まあ、わかりますが・・・ところで、その魔道具は使ってみたんですか?」

 実験段階の物を渡されて、失敗しましたという事になれば、目も当てられない。

「ああ。その心配はありません。今回の商隊は、これの実験も含まれているのですよ」

「荷馬車はいいが、俺たちはどうなる?」

 リックの質問が一通り終わったと見たザサンが、ガゼランの方を見た。

「心配いらん。勿論、今まで通りの護衛のように数人乗ってもらうが、完全に護衛用の馬車も数台用意するつもりだ。ちょっとした軍隊並みだな」

 ガゼランの言葉に、リックが目を剥いた。

「おいおい、費用は合うのか?」

 今回の護衛料は、個人での行商とは比較にならないくらいいい条件なのだ。

「心配いりませんよ。その辺はしっかり計算されています」

 答えたのはリックだった。

 しっかりと書面からその辺のことは読み取っている。

 ついでに、商隊が何日遅れれば採算が合わなくなるという事までしっかり計算されていた。

 しかも普通の計画よりもかなり余裕を持って計算されている。

「しかし、速度が倍になるのであれば、モンスターの襲撃もそうそうなくなるのでは?」

 リックの安易な考えに、ザサンが釘を刺した。

「そいつは甘いってもんだ。早馬でも襲われることがあるんだ。たとえ倍の速度になったとしても、行商の速度だったらモンスターにとっては絶好の餌だろうさ」

 ザサンの言葉に、リックは頭を下げた。

「これは失礼しました」

 ザサンはリックの態度に、好感を持った。

 行商人の中には、利益を考えるあまりモンスター応対のプロである冒険者の言葉を聞かない者も少なくないのだ。

 そう言った意味では、リックはいい相手だと思ったのだ。

 

「それで? 今回の業務は引き受けてもらえますか?」

「勿論です」

「おう。面白いことになりそうだな」

 リックとザサンの答えに、シュミットもホッとしたような表情になっていた。

「今回のこれが成功すれば、今度は八方面で商隊が動くことになります。是非とも成功してほしいですね」

「八方面と言うと、まさか・・・」

 シュミットの言葉に、リックはすぐにルートを思い浮かべた。

 転移門がある街を中心にして、それぞれ別の方向に向かって進むと、東西南北の街で別の街から来た商隊とかち合うことになる。

 もしそのルートが成功すれば、かなりの利益を見込めるだろう。

「想像通りだと思いますよ。できれば成功してほしいですね。もし今回の商隊が成功すれば、リックにはそれらの商隊を指揮する立場になってもらうつもりです」

 シュミットの言葉に、リックはますます気合が入るのを感じた。

 今回の商隊だけでもかなりの利益が見込める。

 それが八方面分となれば、とてもではないが一人で行商していた時とは考えることもできなかった利益が入ってくることになる。

 その商隊を率いることが出来るというのは、行商人だったころの夢の一つだったと言ってもいいだろう。

 

 結局、リックもザサンも今回の依頼を引き受けることになった。

 その結果は、大成功。

 何度かモンスターに襲撃はされたが、それでも荷物のほとんどは失うことなく、目的の街にそれぞれの荷物を届けることが出来た。

 今回のこの成功を持って、クラウンは予定通り転移門のある町から八方面への大規模商隊の輸送を開始した。

 リックは、シュミットの宣言通り大規模商隊の統括を引き受けることになり、夢の一つをかなえることになる。

 また、ザサンはクラウンの中でも護衛に特化した冒険者の育成に関わることになるのであった。

話で出てくる魔道具は、考助作ではなくイスナーニ作です。

神具ではなく魔道具なのは、汎用性を考えてです。

現状は材料の関係上、量産は難しいです。塔の上層で狩れるモンスターの素材を使っていますw

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