(7) 増える称号持ち?
祝! 200話!!
管理層へと来た狼二匹は、今後別の階層に行ってもらうことにした。
それが第八十一層以外の今ある狼達の階層か、全く新しい階層にするかは決めていない。
どちらにしてもゴーレムが出来てからの話になる。
今ある階層に移動させる場合は、その階層の眷属たちを増やす。
別の階層に移す場合は、新しく狼達を召喚するつもりだ。
まだ先の話なので、それまでは今までいた第八十一層へと戻ってもらった。
ちなみに王と妃を別々にするかもまだ決めていない。
ただ単に種族名だけなら気にしなくてもいいのだが、実際に王と妃であれば、わざわざ別れさせるつもりもないのだ。
流石に狼におけるその辺の機微など考助にわかるはずもないので、あとでナナに確認してみるつもりだ。
後で、となっているのは、単純にナナがいないからだ。
白狼王と白狼妃の二匹を第八十一層へと送りにいったのだ。
「それにしても・・・ずいぶんタイミングがいいわね?」
そう聞いてきたのは、コレットだった。
何のことか、とは考助も聞かなかった。
「まあ、この前の神域に行った時のせいだろうね」
「風霊神に地霊神だっけ?」
「うん。そうなってたよ。知ってるの?」
あとでシルヴィアにでも聞いてみようと思っていたのだが、コレットが知っているのなら聞いておきたかった。
「知ってるも何も・・・エルフの間では精霊王とか妖精王とか呼ばれている神々ね」
「ある程度予想はしてたけど・・・もしかしなくても大物だよね?」
「そうね。エルフ以外でも精霊を崇めている種族は多いわね」
その精霊の頂点にいる存在が、風霊神や地霊神という事になる。
考助は、神域で会った女神様にそんな存在がいたか思い出そうとしたが、思い出せなかった。
そもそもあの時は名前だけ名乗っていて、わざわざ○○神ですという名乗る方が少なかった。
特に気にしてはいなかったのだが、意味があったのかもしれない。
「・・・・・・深読みしすぎか」
そう呟いた考助だったが、実際その予想は当たっていた。
そもそも神域にいるのは女神だけなので、わざわざ自分たちから神の名前を名乗る習慣が無い。
さらに○○の神という名は、アースガルドの住人達が付けている名であって、自分たちで名乗っているわけではないのだ。
だから神域では、本来の自分の名前でしか通用しないと言っていいため、神名を言うことが少ない。
考助がそうした事情を知るのは、もう少し先のことになるのだが。
「まあ、いいけど。それよりもコウスケと神様達が会っただけで眷属の称号が増えるんだったら、神様の称号持ちがどんどん増えていきそうね」
想像するだけで、とんでもない事態になりそうなだった。
「・・・出来れば、それはあまり考えたくない」
考助とて別に眷属が強くなる分には歓迎している。
だが、塔の中だけで考える分にはいいのだが、称号持ちの眷属の事が外に知られたらどんな事態になるか分からない。
どう考えても面倒事が増えそうだった。
そして考助は、いつまでも塔の眷属たちの存在を隠していられるとは思っていない。
理由は簡単な話で、セントラル大陸以外の大陸には、塔を管理している存在がいるからだ。
セントラル大陸の塔だけが、特別に眷属が召喚できるなんてことは考えていない。
むしろ召喚出来て当然だと考えている。
今は第五層の町に目が向いているが、いずれは眷属たちにも目が向くだろう。
その時に、神の名がある称号持ちが多数いると知られた場合、どうなるかは考えなくても分かることだった。
どう考えても愉快な状況にはならないだろう。
「それはいいんだけど・・・止められるの?」
コレットにダメ押しされて、考助は渋い顔になった。
どう考えても考助に、女神達の行動を止められるとは思えなかったからだ。
そもそも考助の眷属に、称号を与えている意味も何となく察している。
この世界との繋がりを保ちたいという、意思の表れだろうという事は想像している。
考助が同じ立場だったら同じことをするだろうと考えているので、それについてとやかく言うつもりはない。
ある意味それが神の仕事の一つと言えなくはないので、それを止めるつもりはないし、止めることもできないだろう。
「無理・・・だろうね。絶対嫌だと言えば、止めるだろうけど、そこまで嫌というわけではないし。むしろ事情を理解できるから止める気もないよ」
「それじゃあいいの?」
「・・・・・・ううむ」
腕を組んで考え込んだ考助に、いきなりシルヴィアが割り込んできた。
塔の管理を終えて戻ってきて、途中から話を聞いていたのだ。
「むしろ神の名の称号持ちがいることが、知られてしまった方がいいと思いますわ」
「その心は?」
「教会がやっている事と同じです」
シルヴィアが言っていることは、教会が保護を理由に加護持ちの人材を集めていることだ。
加護持ちが多くいる神殿が、それを背景に力を持っていることは、歴然たる事実であった。
「教会と同じかあ・・・」
教会にあまりいいイメージを持っていない考助は、そう言ってため息を吐いた。
「コウスケさん、いえ、コウスケ様。教会にいいイメージを持っていないのは分かりますが、ごく普通の人には心の拠り所は必ず必要ですわ」
そうでなければ、人の歴史で宗教など生まれていない。
「言いたいことはわかるけどね」
そもそも考助とて神殿の必要性は分かっている。
というよりも、現実としてこの世界では神という存在がある以上、無い方がおかしいだろう。
そう言う意味からすれば、神の名がついた称号を持った眷属が多数存在しているということは、これ以上ない程の力になる。
「要は、その力をコウスケ様がどう使うかですわ。称号を持っている者達には、何の罪もないのですから」
「まあ、そうなんだけどね。その力があることで、招かれざる客というのが増えることも事実なんだよね」
考助としては、余計なトラブルを増やしたくないというのが本音だった。
だが、それを聞いたシルヴィアとコレットの顔がキョトンとした物になった。
「コウスケ・・・それは既に手遅れなんだけど?」
「もしかして自覚が無かったんですか?」
「え? ええ!? ど、どういう事?」
驚く考助に、二人がため息を吐いた。
「あのねえ。コウスケ、自分が現人神だってこと忘れてない?」
「この場合忘れているわけではないでしょうが、影響の大きさを理解できていないと言うべきですわね」
「「もうとっくに手遅れよ」」
二人に駄目押しをされて、考助は撃沈した。
決して忘れていたわけではないが、シルヴィアが見事推測した通り、考助は現人神となった影響の大きさをきちんと理解できていなかった。
塔に引きこもっていることによる弊害である。
「そうか。そうですか。もう手遅れですか・・・そういう事ならもう遠慮はしない」
立ち直ったというより、開き直った考助の顔を見て、コレットとシルヴィアが嫌な予感を覚えた。
「というわけだから、もう遠慮しなくていいよ」
特に考助は何かしたわけではない。
ただ単にそう呟いただけだった。
だが、確かに何かが変わったのをシルヴィアは感じ取った。
考助自身が変わったわけではなく、考助を取り巻いている何かの雰囲気が変わったのだ。
「・・・もしかして、余計なこと言った?」
考助の様子を見て、コレットがこそっとシルヴィアにそう言って来た。
「いえ。遅かれ早かれこうなっていたことは間違いないですわ」
「だったらいい、のかな?」
「おそらく?」
こそこそと話をしている二人には気づかず、考助は晴れ晴れとして立ち上がった。
「よし! 悩み事もなくなったし、ゴーレム作りに行こう」
そう言って研究室へと向かった考助を見送ったシルヴィアだったが、すぐにエリスへと交神してみることにした。
結果、特に問題はないという事が確認できたので、コレットと二人で安堵のため息を吐いたのであった。
ついに考助が吹っ切れました。
裏で女神さまたちが歓喜していたりします。
ちなみに考助はあまり自分を中心に神々の影響力を増やさないほうがいいとか考えていました。
シルヴィアの助言でそれが手遅れだと察したわけです。
実際シルヴィアの助言は間違っていません。




