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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第1部 塔の管理をしてみよう「はじまり」
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プロローグ

初投稿です。よろしくお願いします。

 目の前に広がる光景に、考助はただ呆然と突っ立っていた。

 ほんの少し前までは、仕事帰りの電車を降りて自宅へ向かって歩いていたはずである。いつも通りであれば、一般的な住宅街の道を歩いているはずであり、まかり間違っても見渡す限りの草原が広がっているはずがない。

 というか、現代の日本で四方が地平線まで草原が広がっている地域があるのだろうか。

 などと思わず現実逃避的なことを考えてしまう。

「で、一体ここはどこだ?」

 思わず独り言をつぶやいてしまうが、ここにはそれを聞く者は考助以外にはいなかった。

 ・・・はずである。少なくとも先ほど周りを見た時には目の見える範囲には誰もいなかった。

 だが、

「ここは[常春の庭]です」

「・・・は!?」

 いきなり聞こえてきた女性の声に、考助は驚きもう一度周囲を確認するがやはり誰もいない。

 もう一度、後ろを確認して、前方に向き直った時にそれは起こった。

 目の前に小さな光が出現して、それが徐々に大きくなる。

 その光が考助くらいの大きさになった後すぐに光は消えて、そのあとには美しい女性が一人立っていた。

 普通ではありえない事態に考助は、あれだけ光ったのに眩しくなかったのはなんでだろう、などとどうでもいいことを考えた。


「・・・考助様? どうなさいました?」

「・・・はっ!? あ、いや。大丈夫です。というか、なんで様付け? なんで名前知ってるの!?」

 目の前にいる人物は、少なくとも一度も会ったことがないはずだ。

 というか、画面の向こう側でも見たこともないような美女なので、間違いなく会ったことはない。

 一瞬返答に間があったのは、見惚れていたためというのは、ここだけの秘密ということで。

「もろもろ詳しい話は後ほど我が主がお話しします。とりあえず今は、私と一緒に移動してもらえないでしょうか?」

 突然出てきていきなりついてこいと言われてもなにやら怪しい感じもしないでもないが、こんなところにいつまでも突っ立っていてもしょうがないので、ついていくことに了承した。

 ・・・決して、美人に誘われてラッキーとか思ったわけではない?

 ・・・・・・タブン。


「あ、はい、わかりました。それで、どちらに行けばいいのでしょう?」

「とりあえず、お手を」

「? はい」

 美人さんが右手を出してきたので、握手するように考助も右手を出す。

 お互いの手が触れた瞬間。

 一瞬にして目の前の風景が変わって、屋敷の廊下らしきところに移っていた。

 驚く考助をよそに、美人さんはすぐそばにあるドアをノックをした。

「アスラ様。考助様をお連れしました」

「どうぞ。お連れして」

 部屋の中から声がかかり、美人さんがドアを開けて考助に入るように促す。

「エリス、お疲れ様。考助様、わざわざお越しいただきありがとうございます」

 そう言って出迎えた女性を見て、考助は完全に固まってしまった。

 ここまで案内してくれた女性も今まで見たことのないほどの美人だったが、今前の前にいる銀髪の女性はそれをはるかに凌駕するほどのまさに絶世の美女だった。その場に存在しているだけで圧倒される何かを感じる。


(美の神とか言われても納得できるよな・・・)


「ありがとうございます。一応、私も美を司る末席におりますので、そう思われることはとてもうれしいです」

「・・・は!?」


(あれ? 今、声に出してないよね!?)


 慌てる考助をよそに目の前の女性は、手を口元に持ってきてクスクスと笑ってる。

 そんな考助を横目に、ここまで考助を連れてきたエリスが、

「アスラ様、お時間が限られているのでは?」

「ああ、そうでした。考助様、とりあえずこちらまで」

 アスラと呼ばれた女性は、笑うのをやめて考助を自分のそばまで来るように促した。

 考助は、その言葉に逆らわず圧倒されたままフラフラと近づいて行った。

「お手を拝借できますか?」

 言われるままに右手を差し出すと、アスラも同じように握手をするように右手を差し出してきた。

(・・・・・!!)

 その手が触れた瞬間、考助の身体の中に何かが流れ込んでくるのを感じて思わず手を放してしまった。

 そんな考助を見ながらアスラは、ほっとしたように安堵の表情を浮かべていた。

「えっと、今のは何が・・・?」

「申し訳ありません。色々聞きたいことがあるでしょうが、とりあえずそれらにお答えする前に一つだけ聞きたいことがあります。考助様がここに来るまでのことはどこまで覚えていますか?」

「え? いや、エリスさん、でしたっけ? に、連れてこられて・・・」

 質問に答えようとした考助は、聞きたいのはさらにその前のことだと思い当たり、草原に来る前のことを思い出そうとする。


(えっと、仕事を終えて駅の改札を出て、家に向かって歩いて・・・)


 だんだんと「その時」の光景を思い出してきて、考助の表情がだんだん青褪めてきて、ついにはふらりとよろけて、そばにいたエリスに支えられる。

「考助様、大丈夫ですか?」

 まだ青い顔をした考助の目を、アスラの碧眼が覗き込んできた。

 その目で見つめられて、考助も少しずつ落ち着いてくる。

 最後に大きく深呼吸をして、完全に落ち着きを取り戻した。

「ええ、はい。ありがとうございます。もう大丈夫です。

 ・・・どうやら僕は、車に轢かれたようですね・・・」

「はい。そうです。考助様、あなたはあの世界ではすでに亡くなっております」

「ははは・・・。そうですか・・・。ということは、ここは死後の世界とかなんですかね?」

 苦笑を浮かべるしかない考助に、アスラが穏やかに微笑みながら説明を始めた。


 事故で亡くなった際に、考助の魂が本来行くべきその世界の輪廻の輪に入らずに、別世界であるここ[常春の庭]に来てしまったこと。その原因は今もってわかっていないこと。

 本来いるべき場所ではない別世界に来ていたため、慌ててエリスに頼んで連れてきてもらったこと。

 先ほどの手をつないだ時に流れてきた力のようなものは、この場所に存在することができるようにするためのものだったこと。

 元の世界に戻ることは可能だが、すでに考助の存在は死亡扱いになっているので、元の世界へ戻る場合は輪廻の輪に戻り新たな生でやり直しをすることになること。

 戻らない場合は、アスラの管理する世界で転生や召喚といったことも対応ができること。


 それらの内容が、アスラから説明された。

「あー。はい。何とか状況は理解できました。・・・・で、一つ聞きたいんですが・・・」

「なんでしょう?」

「えー・・・。アスラ様は・・・その・・・神様とかなんですか?」

 その考助の質問に、アスラは微笑は浮かべた。

「どうなんでしょう? 少なくとも考助様のいらっしゃった場所の一神教で語られているような全知全能の存在ではないことは確かですね。分からないことなんてたくさんありますし」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ。どちらかと言えば、考助様がいらっしゃった国の八百万の神的な存在と思っていただいた方がよろしいかと。まあ、私はいくつかの世界を管理しているだけの存在です。世界を創ったりするような大きな力は持っていません」

 いやそれで十分です、とか、どうせこの考えも読まれてるんだろうなぁ、とか考助は思ったがすぐにアスラに否定された。

「いえ、さすがに心を読むのは失礼に当たりますから直接読んだりはしてませんよ?」

「・・・え?」

 疑問の表情を浮かべた考助にアスラは、クスリと笑った。

「考助様、考えていることがお顔に出すぎです」

「・・・・・・ええ!?」

 笑われた考助は、思わず顔に手を当てて、がっくりと項垂れた。

 その様子をみてアスラは益々笑みを深める。


「ま・・・まあ、それはともかく・・・今後どうするかは、私が選んでいいんですね?」

「はい。そうなります」

「元の世界に戻る場合は、今の記憶は持っていけないけれど、転生とか召喚とかだと持っていくことも可能ということですか?」

「はい。その認識で間違っていません」

「では、召喚でお願いします」

「・・・決めるのが早いですね?」

「いや、せっかくですから記憶は持っていきたいですし、さすがに記憶を持ったまま赤ちゃんからやり直すのは厳しいと思いまして」

「なるほど、そうですか。では、その方法で進めます。といっても準備がありますので、考助様にはしばらくの間、[常春の庭]で過ごしていただいたうえで、準備ができ次第別世界へ行っていただくことになります」

「わかりました。よろしくお願いします」

 そういって考助は頭を下げた。


 一週間後([常春の庭]は昼夜があった)。

 アスラに準備ができたといわれて、考助は召喚陣の上にいた。

 この一週間の間は召喚される世界(アースガルドと呼ばれているらしい)についての知識の詰め込みを行ったり、[常春の庭]をぶらぶらしていたりした。

 いわゆるチートに関しては、もらえるのか一応聞いてみたが、与えられないと言われてしまった。

 考助の今の状態は魂の存在なので、その状態で力を与えられても肉体に入った時には、意味のない物になってしまうとのことだった。

 肉体の方に与えて後から魂を入れても、前の肉体とあまりに違う状態になってしまうので、魂の拒絶反応が起こってしまうのだそうだ。

 そういう理由で、チートはもらえなかったのだが、一つだけ[常春の庭]で技術を教わった。

 それは、神力の使い方である。

 神力は、いわゆる魔力などのような物で、魔力よりもさらに上位の力だとのことだった。

 神力は肉体ではなく、もともと魂の方に備わっている力なので、[常春の庭]で教わって行っても問題ないそうである。

 考助が[常春の庭]にいる間の対応は、最初に考助を迎えに来たエリスが行っていた。

 召喚されるにあたって考助が一番最初に聞いたのが、召喚先で何か目的があるのか(たとえば勇者的な)を聞いたが、

「特に何もありません」

 と、アスラに笑顔で返されてしまった。

 考助が召喚先で自由気ままに過ごすだけで、アスラの目的は達成されるそうな。

 その世界を管理しているそれこそ神様のような存在にお墨付きをもらったので、考助も今では気楽に考えている。

「準備はいい?」

 召喚陣の中に立つ考助に、アスラが最後の確認をしてきた。

「うん。大丈夫」

 ちなみにこの一週間でアスラとの仲はだいぶ良くなったと思っている考助である。

 神様的な存在とそんなんでいいのかと思わないでもなかったが、アスラが特に何も言わないので気にしないことにした。


「じゃあ、最後にプレゼントとアドバイスね」

「? プレゼント?」

「考助の左目に私の力の一部を授けたわ。どういう風に使えばいいかは、自分で探ってみて頂戴」

「え? なにそれ、聞いてないよ!?」

「今、初めて言ったもの」


(もうちょっと早く教えてほしかった)


「ごめんね。ちょっとこっちも色々事情があってね」

 神様的な事情なんだろう。というか、ナチュラルに表情を読まないでほしい。

「・・・わかった」

「アドバイスのほうは、召喚先でちょっとしたイベントが起こってるんだけど、その選択の結果で先のルートが変わってくるから慎重に選んでね」

 アスラは気楽にいってくるが、これって神託に当たるんじゃないだろうか、と考助は内心思ったが口には出さなかった(どうせ表情で読まれてるだろうし)。

「了解」

「じゃあ、頑張ってきてね」

 何か旅に行ってくるような微妙な言い方をされたが、このときの考助はそこまで思い至らずに普通に流してしまった。

「今までありがとう」

「行ってらっしゃい」

 頭を下げた考助に、アスラは笑顔で手を振って送り出す。

 考助が頭を上げた時には、もうアスラの目の前に考助はいなかった。


「ずいぶんと肩入れなさるのですね?」

 今までアスラの後ろに黙って控えていたエリスが、考助が消えた召喚陣をじっと見ていたアスラに問いかけた。

「あなたのことだから理由はわかっているのでしょう? ・・・考助は最後まで気づかなかったけど」

 そう言ってアスラは、くすくすと笑った。

「・・・なぜですか?」

「それこそ理由なんて必要?」

「・・・・・・」

「考えても答えなんて出ないわよ。私だってわかってないのに」

 それに、と一拍おいてからアスラはエリスにからかうような視線を向けた。

「あなただって同じなんでしょう?」

「アスラ様・・・!!」

 今までほとんど聞いたことのないエリスの声に、アスラはしばらくの間くすくすと笑っているのであった。


2014/3/21 更新しました。

いわいるチートについての話を追加しています。


今日はもう一話上げる予定です。


2014/5/24 誤字修正

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