(5) 試作第一号
召喚陣を設置しながらゴーレムの作成をしていく。
眷属たちの餌を設置する以外は、完全に放置状態になっている。
今のところ急いで解決しなければならない問題がないから構わないと考助は考えていた。
必要な材料は、コウヒかミツキが塔の階層に繰り出して素材を集め、足りない部分はシュミットに頼んだ。
幸いにして注文して時間がかかる物はなく、むしろ集めづらいはずの材料が塔から調達できたのが大きい。
考助達が、ゴーレムの作成を始めてから十日。
フローリアが頭を抱えていた。
他の者達は、ゴーレムについての知識がほとんどないために、それを見せられても「おおー」という反応だった。
だが、仮にも元一国の王女として教育を受けたフローリアには、幸か不幸かゴーレムに付いての知識があった。
そのために、考助達が「試作」として出して来たゴーレムを見せられたフローリアが、頭を抱えたのはある意味当然だった。
「フローリア、どうかした?」
「・・・慣れてはいたつもりだが、こうもたやすく常識を覆されるとまだ甘かったと思うものだな」
シルヴィアの問いかけに答えたフローリアだったが、その返答を聞いた関係者以外の一同の表情は、皆同じだった。
また、何かやらかしたのか、と。
同時にその視線が考助の方へと向いた。
「えー? なんでこっちに視線が向くかな? 今回は、僕だけじゃないんだけど」
「今までの行いを考えてみなさい」
コレットがすっぱりと切って捨てた。
制作に関わったのが考助だけではないのは確かなのだが、これまでの実績で考助に視線が集まったのだ。
なんとなく理不尽なものを感じた考助だったが、反論するのは止めておいた。しても敵わないと思ったのである。
「ま、まあそれはともかく、今回のはさほど常識から逸脱していないと思うけど?」
そう言う考助の視線の先には、試作第一号のゴーレムが動いていた。
その姿形は、より人間に近いものではなく、どちらかと言えばごつごつした形になっている。
形を成型するよりも、まずは動くことを優先したことは一目瞭然だった。
その試作第一号のゴーレムは、先ほどから同じ場所を行ったり来たりしている。
その両手の上には、お盆が載せられている。
試作第一号として作ったのは、いわゆる茶運び人形のゴーレム版だった。
ちなみに、行ったり来たりしているのは、それしか動作が出来ないわけではなく、考助がそうするように命令したためだ。
やろうと思えば、どこどこからどこそこまで移動してね、という命令をきちんと実行することが出来る。
「しかも、お茶をこぼさず運ぶことが出来る優れもの!」
そう力説した考助だったが、残念ながら周囲の反応は微妙だった。
「それはともかく、常識は逸脱していないという言葉は撤回してもらおうか」
華麗に考助の言葉をスルーしたフローリアが、そう言って来た。
「そこまで?」
なんとなく常識外という認識があるミツキが、フローリアにそう聞いてきた。
「ゴーレムと言うのは、基本的に受注生産になる。受注を受けてから生産を始めて、ユーザーに渡るのは早くても半年後という世界なんだ」
フローリアが常識外だと言った意味が、全員に理解できた。
普通は半年で作るものを十日で作ったというのは確かにおかしい。
だが、これに関しては、考助達にも反論出来る余地があった。
「あー。それって多分、素材のせいだと思う」
「素材?」
「うん。そもそもゴーレムを専門に作っていても、取り置きできない素材があるんだ」
「普通は注文を受けてからそれらを必要量だけ発注するとかじゃないの?」
考助の言葉に、ミツキが付けくわえた。
素材を回収するのは、当然冒険者の仕事になる。
製作者が発注して、冒険者がそれを受けて素材を回収して、その素材が製作者の手に渡るのにそれなりの日数がかかることになる。
「多分、ゴーレムの生産が増えて、冒険者が定期的にその素材を狩ってくるくらいになったら、製作日数も短くなるんじゃないかな?」
「そういうことか」
考助たちの意見に、フローリアもようやく納得した。
「それに、今回作ったこいつは、思考部分は一番単純な物を作ったからさほど時間かかってないし」
ちなみに今回は、体や動力の部分はコウヒとイスナーニが担当して、思考部分はミツキと考助が担当していた。
分業にしたことも時間短縮の要因になっている。
「動力の部分も同じですね。少なくとも貴族に出すような複雑な物は作っていません」
イスナーニも動力部分について補足をした。
実際に今回作ったのは、ゴーレムとしては非常に簡素な物だ。
ゴーレム作成の最初期のころの物を再現したと言ってもいい出来だった。
「う、む。ま、まあ、私もさほど詳しいわけではないので、そこまで言われればおかしくはない・・・のか?」
なんとなく作成組に押されるように、フローリアが納得しようとしかけた。
「フローリア、待て。何となく勢いに負けそうだが、どう考えてもおかしいぞ。何しろコウスケ達は、十日前までほとんど素人だったんだからな?」
シュレインがそう言うと、シルヴィアとコレットが頷き、フローリアがハッとした表情になった。
そう。忘れてはいけない。ほとんどど素人だった集団が、たった十日でこれを作り上げたというのが既に常識外なのだ。
流石にこれに関しては、作成組四人も否定は出来ないのか、視線をそらすだけになった。
「それで、目的の物を作れるのはどれくらいになりそうなんですか?」
「さあ、どうだろ? これよりは遥かに複雑な物になるからなあ・・・大体ひと月くらい?」
考助が確認するように、他の三人に確認を取った。
見られた三人も同意するように頷いている。
「・・・そういう事を平然と言えるから、おかしいと言われるのだが?」
フローリアがジト目で考助を見た。
「アハハハハハ」
取りあえず笑って誤魔化す考助であった。
「今回作ったこれは、どうなるの?」
これ、と先ほどから同じ動作を繰り返しているゴーレムを指さしたコレット。
「勿論何度か作り変えて、もっと複雑なことが出来るようにするよ。思考部分も動力部分も」
何度かバージョンを上げて行って、最初の目的だった各階層への召喚陣を設置するゴーレムを作る予定だ。
これに関しては、今回の試作第一号が出来たおかげで、実は既に目途がついていた。
取りあえず、塔管理用のゴーレムを第一号として作り上げて、その後は各自で自由に作る予定でいる。
その自由に作る物がどんなものが出てくるのか、楽しみにしている考助だった。
今となっては、考助よりもコウヒやミツキがゴーレム作成に熱中しているのだ。
ゴーレムに対する理解度も既に、考助やイスナーニを超えていた。
その二人がどんなものを作るのか、非常に興味がある。
勿論考助としても、塔の管理に使うゴーレムの作成は続けていくつもりだ。場合によっては、餌を設置するだけのゴーレムを一体作る必要もあるかもしれない。
餌用の召喚陣の設置に時間が取られることを考えなければ、今後の塔管理もまだまだ発展(?)させることが出来るのだ。
それもこれも、ゴーレム作成にある程度の目途がついたからこそ、出来る考え方だった。
コウヒとミツキがゴーレム作成に興味を持ったからこそ、ここまで早く結果を出すことが出来たのだ。
ゴーレム作成を完全に二人に任せるつもりはないが、それでも今回に関しては、考助としても意外な結果だったと言える。
二人が自分以外に興味を持ったのが、ゴーレムと言うのが良いことか悪い事かは別にしてだが。
ちなみに、考助は自分が勘違いをしている事には気づいていない。
二人が作ろうとしているゴーレムは、まさしく考助のためになるための物なのだから。
考助がそれに気づくのは、もうしばらく先のことになるのであった。
久しぶり(?)に、コウヒとミツキが活躍する話です。
もしかしなくても戦闘以外で活躍したのは、ミツキの料理以来でしょうか?w




