(3) アマミヤの塔へのテコ入れ
北西の塔を除いた塔に関しては、順調に成長(?)しているので、後はまたメンバーたちに任せることにした。
一つだけ全く手を付けていない北西の塔は、いずれはハクに任せるつもりでいるが、今はまだシュレイン達にくっついて色々見てもらっている。
管理の手を何も入れていない北西の塔は、特に大きな変化を起こすわけでもなく、ごく普通に自然の営みが行われているようだった。
いずれは北西の塔も管理を開始するつもりだが、現状はそこまで手が回らないというのが本音である。
そして、肝心のアマミヤの塔が現在どうなっているかと言うと、ほとんど変わっていなかった。
変わっているのは、召喚獣達の数くらいで、新たな階層に召喚したりと言ったことはしていない。
設置している妖精石も今のところ触らないようにしている。
長期間放置した場合にどうなるかという事を検証しているのだ。・・・というのを理由にして、他の作業をしていた。
といっても大したことをしていたわけではない。
各層の召喚獣たちの数を増やしたり、餌用の召喚陣を設置したりしていたのだ。
他には、神具の研究をしたりして過ごしていた。
・・・神具に関しては、大きな進展があったわけではないのだが。
ぶっちゃけると、新しい設置物が増えたわけでもないので、これ以上することが思いつかなかったともいえる。
片っ端から設置できる物を置いていくのもいいのだが、むやみに置いていくとそもそも管理が出来なくなる。
召喚陣に関しても同じで、そもそもアマミヤの塔の階層は広大なので、一つの階層に一つの種類の召喚獣を召喚するにしても、複数の召喚獣を召喚するにしても管理が大変になる。
手詰まり、というわけではないのだが、余り無茶なことはしたくないというのが考助の本音だ。
ついでに言えば、ナナにしてもワンリにしても、今の階層くらいがちょうどいい状態のようだった。
別にナナやワンリだけに限る必要はないのだが、考助には誰に任せていいのかは判断がつかないのだ。
「さて、どーしたもんかな?」
「お兄様、考え事?」
考助が悩んでいる所に、ワンリがやってきた。
ちなみに、考助がこうして他のメンバーも来るような場所で悩むときは、誰かに話を聞いて欲しいときだ。
そうでない場合は、研究室で延々と悩んでいる。
一人で悩むよりも、他の人の視点から解決できそうな場合に限って、こうして悩んでいる。
勿論、メンバーたちもそれが分かっていて付き合っているのだ。
というよりも、他のメンバーも同じようなことをしている。
「お、ワンリ。来てたのか」
ワンリの姿を見た考助は、すぐに頭に手を伸ばして撫で始めた。
つい以前の癖で考助は手を伸ばしてしまうのだが、ワンリもそれを止めることはしていない。
むしろ止めようかと提案したこともあるのだが、その時のワンリが非常に残念そうな表情になったので、今でも続けている。
人型であっても狐型であっても撫でられるのが、ワンリの好みのようだった。
もっとも、考助に撫でられるのが好きなのは、狼も他の狐も同じなのだが。
「召喚獣たちのいる階層を増やすかどうか悩んでいてね」
「増えるの・・・!?」
ワンリが嬉しそうな顔をするのを見て、考助はおやと思った。
「あれ? 増えた方がいいの?」
「え? だって、仲間がたくさん増えるんだよ?」
「そうだけど・・・管理大変じゃない?」
考助の言葉を聞いたワンリは、首を傾げた。
「管理って・・・食事?」
「いや、それもあるけど、見回りとかしてるんだろう?」
「見回りって言っても、姿を見せているだけだよ? 特に何かしているわけじゃないし。きっとナナちゃんも同じだと思う」
「そうなんだ?」
「うん」
ナナやワンリがそれぞれの同種の眷属がいる場所を見回っているのは、自分と言う存在がいるということを示すためだ。
そうすることによって、群れや眷属たちが暴走するのを防いでいる。
以前のナナであれば、狩りの手伝いなどもしていたのだが、現在では完全に手が離れている。
そういった意味では、単に群れの間を行き来しているだけとも言えるのだ。
「なるほどねぇ・・・ということは、召喚陣の設置が問題になるのか」
「階層に出てくるモンスターとか動物じゃ駄目なの?」
「いや、駄目ってことは無いんだけど、足りるの?」
現状の狼や狐がいる層では、召喚陣を設置して彼らの餌を確保することでバランスが取れている。
勿論、進化させるために設置しているのもあるのだが、餌の確保という意味も大きいのだ。
「足りる・・・と思うけど、縄張りは広くなっちゃうかな?」
「まあそうだよね。そうすると結局、群れの維持って難しくならないかな?」
狐達は、狼達ほど群れているイメージは無いが、それでもグループとして行動しているからこそ周辺のモンスターに狩られることは無いのだ。
ある意味で、現在の階層は食物連鎖的には良い状態でバランスが取れていることになる。
「大丈夫・・・だと思うけど・・・」
ワンリが自信なさげに俯いた。
「いや、でもそうか。ありがとう。ワンリと話して何が問題なのか、わかったよ」
「・・・ホント?」
「ほんとほんと。要は餌用の召喚陣を定期的にきちんと設置できればいいんだからね」
「できるの?」
「どうだろう? 今のところ出来るかどうかは分からないな。何しろ今まで一度もやってみたことがないから」
考助が考えているのは、制御盤から自動で召喚陣を設置できるような何かを作ればいいということだ。
そもそも今まで、制御盤を改変するようことを考えたことがないので、出来るかどうか全くわからない。
だが、挑戦する価値は十分にあるだろう。
何しろそれが上手くいけば、シルヴィア達が行っている実験も管理が楽になる。
早速何が出来るのか検討するために、考助はワンリと別れて実験室へと向かったのだった。
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「それで? コウスケは、また籠って何をやりだしたの?」
夕食に時間になってもなかなか部屋から出てこない考助に、コレットがしびれを切らしてそう言った。
ちなみに、こういったことは初めてではないからこその台詞だった。
「ご、ごめんなさい。昼間に私と話をしたときからずっと・・・」
「ああ。違う違う。別にワンリを責めているんじゃないのよ」
今日はワンリも夕食を一緒にするつもりで、この時間まで管理層に残っていた。
そのワンリが申し訳なさそうな表情になったので、コレットが慌ててフォローする。
「あ、私が呼んで来ましょうか?」
ハクがそう言って席から立ち上がった。
「ハク、無駄だからいかなくていいぞ?」
そのハクをシュレインが止めた。
実際こういう状態になった考助は、誰が呼びかけても気づかない程に集中するのだ。
おかげで、食事を抜いた事があるのも一度や二度ではなかった。
だからこそシュレイン達は、既に慣れた対応をしていた。
「こうなってしまったからには、当分出てこないだろ。吾等だけで食事をとることにしよう」
「ですが、食事を抜けば、お父様が体を壊すのでは?」
「コウヒやミツキが、それを許すはずがないから心配いらんよ」
シュレインの言葉に、ワンリやハク以外のメンバーが力強く頷いていた。
「コウスケに関しては、今のところ心配するだけ無駄だから食事にしちゃおう!」
コレットがそう宣言すると、他のメンバーが思い思いに食事を始めた。
それにつられるように、ハクやワンリも食事をとり始めるのであった。




