(2) 進化とレベルアップの条件
北と南の塔を管理しているシュレインとコレットは、それぞれ独自路線で管理を行っていた。
そもそも世界樹とヴァミリニア城というそれぞれの塔にとってはチートがあるために、神力に困ることがない。
というよりも神力が余っているので、大部分をアマミヤの塔に送っている状態だった。
ちなみにそれぞれの塔の設定で、クリスタルの何割を超えたらアマミヤの塔へと送るというように設定が出来たので、二人とも有難く使っていた。
その豊富な神力を使って、召喚陣を設置しているようだった。
まず北の塔のシュレインは、豪快な方法を取っていた。
初級モンスターが自然発生する階層に、これまた初級モンスターの召喚陣を片っ端から設置して召喚していた。
わざわざ拠点を作って、出来るだけ犠牲が少ないようにしていた考助とは全く違っている。
考助としても止める気はない。
神力は十分にあるので、多少の犠牲に目をつぶれば悪い方法ではないからだ。
まあ考助が、同じ方法を取らないのは、モフモフを犠牲にしたくないという思いもあるのだが。
ちなみに、餌用の召喚陣は設置していないようだった。
これは、自然発生するモンスターのレベルが上がらないようにするためと、設置する手間を省くための処置だ。
更にこのやり方は、眷属として召喚されるモンスターが進化をするのと、召喚陣から発生するモンスターを討伐している数に関係しているのかを探るのにも丁度いいのだ。
「で? 実際どうなの?」
考助が直接シュレインにそう問いかけた。
同じ場所にはコレットもいる。
問われたシュレインは、微妙な表情をしていた。
「正直なところよくわからないと言ったところだの。確かに召喚している数に対して、進化している数はここや他の塔と比べて少ない気がするが、全く進化していないというわけでもない」
「うーん・・・召喚モンスターの討伐で進化をしていると決めつけたのは早過ぎだったかな?」
以前、第十層で行った実験からそう結論付けていたのだが、何とも怪しくなってきた。
渋い顔した考助に、コレットが口を挟んできた。
「そうとも限らないんじゃない?」
「その心は?」
「だって、そもそもアマミヤの塔と他の塔で召喚したモンスターが、同じように進化するとは限らないじゃない?」
「・・・・・・できれば、それは考えたくなかった」
塔それぞれで進化形態が違っているとなると、完全に手さぐりになってしまう。
それはそれで塔管理の醍醐味だ、と言われてしまえばそれまでなのだが。
「塔の中だけで考えるから、おかしいことになるのかもしれんの」
ぽつりと言ったシュレインに、考助が顔を向けた。
「どういう事?」
「そもそも塔の外にいるモンスターとて進化はしておる。という事は、自然発生するモンスター同士の争いでも進化はするという事になる」
「という事は、自然発生する程度の確率で、召喚モンスターも進化することはあるのか」
「そういうことだの。ただ、その進化の速さが違うのではないか?」
シュレインの意見を聞いて、考助はある物を思い浮かべた。
それは経験値の違いである。
通常の自然発生したモンスターよりも、召喚で発生したモンスターを討伐したほうが、得られる経験値が多いのではないか、ということだ。
勿論、この世界で経験値というものあるとは考えていないが、経験のようなものは確実にあるだろう。
「・・・でもそれだとなぁ・・・一つ矛盾があるんだよな」
「む? なんのことだ?」
「この世界が出来てからどれくらいたっているかは分からないけど、今まで一度も攻略されてなかったこの塔とか他の塔で、きっちり階層ごとに強さが分かれてたことがわからない」
第一層でさえ、滅多に討伐する者が出ていなかったのだ。
もし予想が正しいのなら、第一層からもっと強いモンスターが出てきてもおかしくはないという事になる。
だが、考助が攻略をしたときには、下層は下層なりの強さのモンスターしか出ていなかった。
「言われてみれば・・・たしかにそうだの」
「それ、考える意味あるのかな?」
コレットは、自分でも自信なさそうにそう言って来た。
「どういう事?」
「そもそも攻略する前の塔が、どう管理されていたかなんて誰にも分からないよね?」
その言葉で、考助もコレットが言いたいことが分かった。
「塔の機能で自動的に同じようなレベルになるように、調整されていたってことか」
「コウスケが攻略しちゃった以上、確認しようがないけどね」
現状北西の塔は、全く手つかずなので、実質未攻略の時と同じと思っていた。
だが、実際は攻略済みという事で、塔の自動で動いていた機能が無くなっていた可能性もある。
考助は、塔を攻略した時の自動で行われる作業を思い出した。
あれが、塔のあり方を変える作業だとしたら、コレットの言い分が正しいという事になる。
「うーん、やめた。攻略前の塔の状態は考えても仕方ないや。それよりも今の塔でどうなるかの方が重要だよね」
考助はスパッと考えることを止めた。
例え未攻略の塔があったとしても、今の話を確認するには年単位どころではない時間がかかると思ったのだ。
それにセントラル大陸には、未攻略の塔は存在していない。
わざわざ他大陸に出張ってまで確認する必要もないと考えたのだ。
「ところで二人の塔のレベルはいくつだっけ?」
「3だの」
「私の所も」
「やっぱりそこが山場か」
アマミヤの塔の時は、塔LVがLV3まではさっくりと上がったが、LV4にするのに時間がかかっていた。
特に塔のLVにはこだわっていないのだが、LVを上げて早く中級モンスターが召喚できるようにしたいという考えもある。
アマミヤの塔の時もそうだったのだが、中級モンスターを調整して召喚できるようになると、眷属モンスターの成長が目に見えて違っていたのだ。
「まあ、こればっかりは焦ってもしょうがないか」
神力が豊富にある現在でもLV3にするのに、それなりの時間がかかっているのだ。
<神石>を設置できない影響が多大に出ているのだ。
アマミヤの塔では簡単に設置できる物が、実はチート、とまではいかないまでもレア並みの物だったということになる。
<神石>をアマミヤの塔以外へ普通に持って行って、階層に設置しても登録されないどころか、アマミヤの塔と同じような働きをしないのだからどうしようもない。
それに関しては、もう既に全員が諦めていた。
他の物も持ち込んでみたりしたのだが、どうしても神力発生系の物は<神石>と同じように上手く機能しなかった。
原因はさっぱりわからなかったが、これに関しては、そう言うものだと諦めた。
「それで? 南の塔に関しては、どうなってるの?」
「今のところは順調よ」
コレットが管理している南の塔は、世界樹のある層とその周辺だけで九層を占めている。
これは考助が後ほど気付いたミスだったのだが、階層交換に指定した層が南の塔の下層だったために下級モンスターが出る層が減ってしまっていたのだ。
そのためコレットは、シュレインと同じような方法は取れずに、別の方法を取っていた。
それは、同じ階層に複数の眷属モンスターを召喚するといった方法だった。
これもまた考助がアマミヤの塔では、実行していないやり方だ。
同じ階層で眷属モンスター同士がぶつかった場合にどうなるのか、という事が分かるだろう。
考助としては、餌としての召喚モンスターを与えていれば、争いは起こらないと考えているのだが。
結果がどうなるかはまだわからない。
まあそうなる前にコレットが、別の階層へ移してしまうかもしれないが、それはそれで構わないと考助は考えていた。
無理に争いに持って行く必要はないのだから。




