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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第14章 塔で妖精を呼び出そう
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閑話 ミクセンの神殿

 ミクセンのエリサミール神殿の神殿長であるローレルは、現在他の二神殿の神殿長の訪問を受けていた。

 建前上では、エリサミール神殿と他の神殿の間には、上下の関係はない。

 だが、いかに三大神とはいえ、信者の数には明確な差があった。

 勿論他の神々に比べれば、三大神は群を抜いて信者の数は多い。

 だが、その中でも太陽神であるエリサミール神は、一つ頭ほど抜けて信者の数が多かった。

 神殿に置いて信者の数は、そのまま力の差となる。

 建前上では、上下の差はないと言っても、そのまま信者の数が神殿の力関係を決めることにある。

 こと重大な案件の場合は、エリサミール神殿へとお伺いを立てるのが常だった。

 だが、今回の二神殿の神殿長の訪問は、いつもと様子が違っていた。

 

「・・・・・・どういうことでしょう?」

 二人の神殿長の申し出に、ローレルは小首を傾げた。

「先程申し上げた通りです。我々二神殿は、アマミヤの塔の支配者であるコウスケ様を正式に現人神として認めることにしました」

「まあ、既に神託は一般に知られている上に、彼の神を祀っている神殿は塔の中にありますからほとんど意味はありませんが」

 スピカ神殿の神殿長であるヒルと、ジャミール神殿の神殿長であるギールが、順番に発言した。

「・・・仰っている意味は分かっているんですよね?」

「「勿論です」」

 釘を刺したローレルに、二人は頷いた。

「我々は、彼の神が支配する塔のおひざ元にある神殿です。彼の神を祀ることに何の不思議もないでしょう?」

「本殿は塔の中の神殿でいいとしても、他の神殿に祀ってはいけないという決まりはないですからな」

 実は既に冒険者たちの中には、考助を冒険者の神として讃えようという動きが一部に出ていた。

 だが、その神に祈ろうとしても今のところ祀られているのが、塔の神殿だけだった。

 いくら冒険者と言えど、それなりのコストがかかる転移門を使って毎回祈りに行く者はそうそう多くない。

 まあ冒険者なので、熱心に祈ったりはしないために今まで不満も出てたりはしない。

 そのため今この申し出を二人がしてくることに、ローレルは多少の違和感を感じた。

「・・・何を考えておいでです?」

「おや。・・・ローレル殿とあろうお方が、わかりませんか?」

 ローレルはじっとギールを見たが、それが挑発かどうか見分けることが出来なかった。

 一つため息を吐いて、素直に白旗を上げた。

「・・・わかりませんね。何故、今このタイミング何でしょう?」

「このタイミングだからこそ、ですな」

 今このタイミングと言われて、ローレルが思い浮かべたのは、昨日正式に発表されたケネルセンの六侯達のクラウンへの傘下入りのことだ。

 表の動きは勿論、水面下での動きも全くつかむことが出来なかった。

 それだけ素早く、秘密裏に進められたのだろう。

 そして、それ故にセントラル大陸に与えた衝撃は大きかった。

 六侯がアマミヤの塔につく。

 その意味は、あまりにも分かり易かったから。

「・・・・・・貴方たちは・・・・・・いえ、本気ですか?」

 ローレルは、その言葉を口にできなかった。

「おや、何のことですかな? 先程も言いましたが、神殿に神を祀るのは当たり前でしょう? ましてや今回は神託もあるのです。文句を言われる筋合いはありません」

 ヒルの返事は、ローレルの問いには的が外れた答えになっている。

 だが、それが答えにもなっている。

 隣で聞いているギールも笑っていた。

 ローレルは、ため息を吐いた。

「内部の調整は出来ているのですか?」

「「当然です」」

 これには、ローレルも驚いた。

 正直に言えば、いつの間に、というのが本音だ。

 そんな兆候は全く見えていなかった。

 その思いがそのまま表情に出ていたため、それを見たギールが笑って言った。

「そもそも我々は三大神の一つとはいえ、他の神を受け入れやすい下地があります。抵抗らしい抵抗はなかったですな」

「・・・今、このタイミングで発表することの意味もきちんと伝えたのですか?」

「当然です。その上での結論ですな」

「ローレル殿・・・はっきり言って、我々にとってあの神威召喚はそれほどの物だったのですよ」

 ヒルの言葉に、ローレルはそっと両の瞼を閉じた。

 今でもあの時の事は、すぐに思い出せる。

 ある意味で、神職者たちの夢があの時に叶ったと言ってもいい。

 三大神が、自分のすぐ目の前に揃って顕現したのだから。

「そうです、か・・・」

「其方がどうされるかは、貴方にお任せします」

「エリサミール神殿がどうされようと、我々は公表させていただきます」

 もはやローレルが何を言おうと無駄だろう。

 というより、強権を発動しても反発を招くだけだと分かっている。

 いや、それよりも・・・。

「・・・いつまで期限をもらえますか?」

 ローレルの返事に、二人は顔を見合わせて笑った。

「いつまでも・・・と言いたいですが、残念ながらあまり遅くなると意味が無くなりますからね。出来るだけ早くお願いします」

「何とかしてみるわ」

 ローレルの答えに満足したのか、二人は同時に立ち上がった。

 もう用事はすんだという事だろう。

 何より二人ともそれぞれの神殿の神殿長なのだ。

 特別な事がない限り、そうそう長い間神殿から離れることは出来ない。

 二人の神殿長が去ってからもローレルは一人その場に残り、しばらくの間思索にふけっていた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シルヴィアは、珍しく第五層の行政府を訪れていた。

 ちなみに、滅多にないことだが、クラウンや行政府から管理層のメンバーに用事があるときは、血の契約を施したデフレイヤ一族が担っている。

 信頼できる者しか管理層には入れることが出来ないため、そう言う対応になっているのだ。

「・・・どうしましたか?」

「私では手に余る案件が来たため相談をと思ってな」

 到着早々アレクに問いかけたシルヴィアに、スッと一枚の書面を差し出した。

 疑問の表情を浮かべつつも、シルヴィアはその書面を受け取り、目を通した。

「これは・・・・・・」

「はっきり言って、こっちで先に決めるより、『巫女』であるそなたに話を通しておいた方がいいと思ってな」

 少しだけ考えたシルヴィアは、ため息を吐いて答えた。

「・・・好きにさせていいと思いますわ」

「いいのか?」

「そもそも止める権限がありません。こちらに直接迷惑をかけることならともかく」

「・・・・・・ふむ。他大陸の教会勢はどうなる?」

「どうもこうもありませんわ。それこそこちら以上に、ミクセンの三神殿を止める権限がありません」

 そもそも神殿に、どの神をまつるかは、それぞれの神殿に任せられているのだ。

 周辺の信仰状況によって、祀られる神が変わることはさほど珍しいことではない。

「まあ、アレクさんが懸念していることは分かりますが、さほど大事にはならないと思いますよ?」

「理由は?」

「下手に動くと、神々の怒りを買うからです」

 ここでシルヴィアが言っているのは、考助のことではない。

 三大神をはじめとした神々のことだ。

 以前シルヴィアが行った話し合いで、その辺は散々脅しておいた。

 願わくば、馬鹿な行動をしないことを祈ることしかできない。

 シルヴィアの言葉に、アレクは苦笑することしかできなかった。

「そういう事なら正式に受理しよう」

「ええ。というか、処理は私がしておきますわ。そちらの方が効果的でしょう」

「いいのか?」

「勿論ですわ」

 アレクにしてみれば、行政府に送られても、という案件だったのだ。

 そもそも本殿が機能していないためにこちらに送ってきたのだろうが、部署違いもいいところだ。

 シルヴィアが処理してくれるというので、喜んでその書類を差し出した。

 その書類を一瞥しただけで、シルヴィアはサラサラとサインをした後、アレクへと返した。

「助かったよ」

「いいえ。もし教会関係から何かありましたら、出来れば私にも話を通してください」

「ああ。そうするよ」

 はっきり言えば、現人神関係は、アレクには手に余ることが多くなるので、シルヴィアの申し出に内心ではほっとしていた。

 結局この日のやり取りで、ミクセンの三神殿では、現人神コウスケが祀られることになるのであった。

正直書いたはいいけれど、この話いるかどうか微妙な気がしています。

ここを境にセントラル大陸の神殿および教会は、方向性が変わっていくことになります。



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