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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第14章 塔で妖精を呼び出そう
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3話 アレクの心配

 セントラル大陸の四大都市に支部を作ることを決定したわけだが、当然準備などがあるためにすぐに開業するというわけにもいかない。

 何より、名実共に大きな組織になってしまったので、新しい街に支部を作るとなるとそれなりの根回しなども必要になる。

 その辺の機微は、考助にはさっぱりなので、完全にシュミットやアレク任せになってしまう。

 といっても今回に限っては、それぞれ支部を作る予定の街がぜひ作ってくれと言う状態なので、さほど交渉は必要がないという事だった。

 あるとすれば、それぞれの街のどの場所に作るのかと言ったことが問題になるくらいで、それに関しても街のほうでいくつか準備されている物の中から選ぶだけ、と言った状態になっていた。

「・・・なんというか、ここまで用意周到だと、逆に怪しくないですかね?」

 アレクから説明を受けた考助は、思わずそうこぼした。

「ああ、もちろん怪しいな」

 問われたアレクは、あっさりと答えた。

「・・・・・・大丈夫なんですか?」

「一番危ないのは、現地採用する職員だろう。かといってまったく採用しないわけにもいかないしな。こればっかりは、どうしようもない」

 結局のところ組織が危なくなるのは、資金か人の問題が大きい。

 あらかじめ新しい組織が来ると分かっていれば、そこに人を潜り込ますことは比較的容易にできる。

 しかも採用する側が、それを調べることは極めて難しいのだ。

 勿論面接をしたうえで、身辺調査を行ったりするが、それでも採用決定後に働きかけることは、いくらでもできる。

 現地採用する人間は、元々街に対してのしがらみを持っているのが当たり前なのだ。

「・・・何というか、ややこしいですね」

 考助の感想に、アレクは苦笑した。

 そもそもこういったことを嫌っていては、新しい土地への新規開拓を行うことなど不可能なのだ。

 新しい支部を作る際に、元々の人員をごっそり移すということも出来なくはないのだが、どう考えても効率的ではない。

 ついでに、本部の方が確実に人手不足に陥る。

「まあ、その辺のことは、クラウンできちんと考えているだろう。私としては、これを機に四大都市の行政府と渡りを付けられるのが有難いがな」

 今までも人を通してやり取りはしているのだが、やはりクラウンと言う組織の支部が現地にあるというのは、非常に大きな意味がある。

 いざとなれば、支部になる建物の一部屋を借りて、出張所的な物を作ってもいいかもしれないとさえ思っていた。

 もっとも、せいぜいが人を二、三人置く程度になるだろうが。

「・・・そんなことをするくらいなら、転移門を置いたらどうですか?」

 前提を崩す考助の言葉に、アレクは思わず額を押えた。

 そもそも支部を作るのは、四大都市に転移門を置いていない為なのだ。

 そこに転移門を置いてしまっては、支部を作る意味が無くなってしまう。

「転移門を置くのではなく、わざわざ支部を置くということに意味があるのだよ」

 色々な言葉を呑み込んで、アレクはそれだけを言った。

 だが、それを聞いた考助は、アレクが勘違いしていることがわかった。

「ああ、いえ。一般開放用ではなく、一部の者だけが使えるようなものですよ? 第五層にもありますよね?」

 アレクもクラウン本部に、一部の者達だけが使っている転移門があることは知っていた。

 自分自身では利用したことはないのだが。

 一瞬、なるほどと考えたアレクだったが、すぐにそれを打ち消した。

「いや、駄目だな。少しでも転移門が増やせることを匂わせれば、間違いなく転移門の設置を要求してくる。今までの様に、四つしか作れないと思わせていた方がいい」

 そもそも転移門がいくつ設置できるのか、考助も把握はしていない。

 今は四つの転移門があるのだが、それ以上は増やせないと思われていたりする。

 転移門を増やせばそれだけ塔の利益になるのだから、四つから増やしていないのは、増やせないのだと逆説的に考えられていた。

 実を言えば、アレクもそう思っていたのだが、考助の今の言葉で、それが間違いだったと気づかされた。

 はっきり言えば、支部などを作るより転移門を作ったほうが、塔側からすれば、安上がりだったりする。

 だが考助は、今のところ外部へと繋がる転移門を増やすことは考えていない。

 塔へとアクセスする転移門が増えれば、それだけ危険が増えるということに繋がるからだ。

 転移門と言う形態をとっている以上、一気に大量の兵士を送り込むということは出来ないだろうが、それでも出来る限り入口は少ない方がいいのだ。

 当然アレクもそれは分かっているので、現状の四つだけで行く方がいいと発言したのだ。

「ふーん。そんなもんなのか」

 考助はそれだけを返して、それ以上のことは言わなかった。

 そもそも考助は、自分が政治的な判断をきちんと出来るとは思っていない。

 こういう判断は、アレクに任せてしまった方がいいと分かっているのだ。

 

「・・・ところで、娘はどうしている?」

 唐突な話題変更に、考助は目を瞬いてアレクを見たが、特に他意はないようであった。

 単純にフローリアのことが心配なのだろう。

「元気にしてますよ。今頃は南西の塔の管理をしているのではないでしょうか」

「・・・何?」

「あれ? 言ってませんでしたっけ? 彼女には南西の塔の管理を任せることにしました」

「・・・聞いていないのだが・・・いいのか?」

 アレクの問いに、考助は首を傾げた。

「何か問題でもありましたか?」

「いや・・・塔の管理を任せられるというのは、結構大きなことだと思うのだが・・・」

 他の大陸では、規模の大小があるにせよ、塔を管理しているのは国で行っている。

 もっとはっきり言えば、基本的には王の所有となっているのがほとんどなのだ。

 個人で所有している塔は、現状アレクが知る限りでは、アマミヤの塔以外にはない。

 形式上、塔自体は王の所有で、管理は別の者がしているという事はあるのだが。

 少なくとも何かしらの形が国家が関わっているのだ。

 ましてや、個人で複数の塔を所持しているというのは、どう考えても歴史上初のことだろう。

 いくら所有権が考助にあるとはいえ、その塔の管理を別の者に与えていいのかということをアレクは言いたいのだ。

「そうなんですかね? 一応理由があって攻略しましたが、いくらなんでも僕個人で全部の塔の管理は出来ませんよ」

「まあ、そうなのだろうがね・・・。それにしてもいつの間にか、娘もずいぶんと信頼されたものだな」

 一番最初のころから考えれば、大進歩だ。

「それに関しては、僕が変わったというより、彼女の方が変わったのではないでしょうか。今では、他のメンバー達にも受け入れられていますし」

「そうか。それはよかった」

 アレクにしてみれば、管理層がどういった場所なのかは、一部しか見ていないので分からない。

 そのために、管理層と言う狭い範囲に娘をおしこめているという感覚は、どうしても抜けていないのだ。

「ああ、そうだ。ついでに言っておきますが、スピカ神との交神具も渡しておきました」

「それは、大丈夫なのか?」

「え? 駄目だったんですか? 一応スピカ神からの要請があったから作って渡したのですが?」

 いくら加護をもらっているとはいえ、交神具なんてものをもって大丈夫なのかと不安になったのだが、なんと本人(神?)からの要請だったらしい。

 そもそもアレクは、交神具なんて物は見たことも聞いたこともないのだが、神威召喚なんてことをやらかす考助の事だ。

 そういった物が作れても不思議はないと思うことにした。

 ついでに言えば、神から直接要請されることも普通に考えれば、あり得ないのだがこれについても考えないことにした。

「そうか。それならいいのだが・・・何と言うか、順調に巫女になっていっている気がするな」

 そもそもの発端として、教会と言う組織に入れないためにここまで逃げて来たのだが、巫女として成長していくのは皮肉としか思えない。

「神に関わる以上巫女になるのは、ある意味必然ではないでしょうか」

「そうだろうな。まあ、娘が元気でやっていることが分かれば、それでいい」

 アレクとしては、迂闊に会うことが出来ないフローリアの情報を聞けただけでも十分だ。

 それを見た考助は、時々でも管理層で会わせることが出来ないかなあ、と考えるのであった。

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