2話 クラウン支部設置に向けて
新しい神能刻印機のお披露目は無事に終わった。
だが、考助&イスナーニが今回お披露目しようとしているのは、それだけではなかった。
それがあるためにわざわざアレクにも来てもらっているのだ。
そのアレクが、疑問を口にした。
「それで、私を呼んだのは、何故かな?」
アレクとしても神能刻印機のお披露目の為だけに、呼ばれているとは思っていない。
問われた考助が、一緒に来ていたコウヒに目配せした。
そのコウヒは、アイテムボックスからある物を取り出した。
個数は四台。大きさは神能刻印機よりも一回り程度小さくなっている。
形状的には、神能刻印機と大きな違いがない。
「・・・これは?」
疑問を口にしたのはアレクだったが、他のメンバーも同じような表情になっている。
「神能刻印機の簡易版。正確には、ステータス刻印と通信機能を省いたギルドカードが仮発行出来る装置、かな?」
考助の発言に、全員の注目が集まった。
今まで神能刻印機の台数が足りずに困っていた所に、一気に四台の増加。
といっても考助の言葉から肝心の機能がついていないことが分かる。
「正確には、どういったことが出来るのでしょう?」
「ステータスに関わる部分と通信機能以外全部、かな?」
考助がイスナーニをみると、彼女は頷いた。
「魔力紋の登録から情報の登録まで、ほとんどの機能がついたカードが発行できます」
「・・・なるほど、それで仮発行か」
クラウンにここまで冒険者達が増えた要因として、クラウンカードのステータス表示と言うのがある。
そのステータス表示と通信機能が無ければ、ただの転移門の通行証と合わせたギルドカードと変わらなくなってしまう。
勿論魔力紋の登録がされているので、クラウン内では身分証としても通用するのだが。
ついでに言えば、発行した時のデータも記録されているので、簡易版で新規登録を行い正式版でステータス表示の機能を付けると言ったことが出来る。
簡易版で新規登録を行い、正式版でステータスの転写作業を行うだけで正式版のクラウンカードが発行されることができるのである。
簡易版の時に一番時間のかかる書類作成の対応をしてしまえばいいことになる。
「・・・ということを想定して作ってみたけど、使えるかな?」
「確かに業務を分けるというのはありだと思いますが・・・今のところわざわざ分ける必要がありますかな?」
現状二台の神能刻印機(正式版)でしかクラウンカードを作ることが出来ない。
わざわざ仮のクラウンカードを作ってもすぐに正式登録をするだろうから意味がないだろうという意見だ。
「うん。まあ、今まで通りここに置いて使う分には、あまり意味がないね」
考助の意味深な言葉に、この場の全員が考助の言いたいことが分かった。
「・・・なるほど。私が呼ばれるわけだ」
そう言ったのはアレクだ。
「塔の階層以外に、支部を置くつもりですか?」
はっきり口にしたのは、シュミットだった。
「うん。主に冒険者対策になると思うけどね。・・・ガゼラン、どう思う?」
考助が今回支部の設置を考えたのは、以前デフレイヤ一族から報告があった街道における魔物の増加の話があったためだ。
支部を作れば、塔だけに冒険者を集中させることを防ぐことが出来るだろうと考えたのだ。
ついでに、わざわざ塔にまで来ることを躊躇していた冒険者も引き込むことが出来る。
「む・・・。正直、こっちとしては、どれくらい効果があるか分からんな。それに、転移門がある街に置いても意味がないだろう?」
転移門がある街に支部を置いても、距離的な制約がないためにそもそも置く意味がないのだ。
当然考助もそれは考えている。
「うん。だからアレクも呼んでいるんだよ。どこに置けばいいかは、政治的な観点からはアレク、商業的な意味からはそれこそ行商出身のシュミットがいれば大体わかるよね?」
アレクとシュミットが一瞬だけ顔を見合わせた。
といってもその一瞬で結論が出たようだったが。
「本気で支部を設置するのなら、四大都市だろうな」
「というか、それしか選択肢がありません」
四大都市と言うのは、セントラル大陸の東西南北の位置に存在している都市の事である。
都市の名前も方角が都市の名前になっている。
四つの都市はセントラル大陸に入植して作られた最初期の都市だ。
理由は単純で、それぞれの都市の位置が他の四つの大陸に近いからだった。
セントラル大陸の各都市は、この四つの都市を中心にして入植されていったのだ。
当然ながら都市の規模も、セントラル大陸の中では最大規模を誇っている。
冒険者に限って言えば、この限りではないが、都市の住民を構成するのは冒険者だけではないのだ。
とはいっても、現状でもクラウン、特に商業部門に対する影響はこの四大都市も受けている。
それだけ、塔から産出している素材は、セントラル大陸に大きな影響を及ぼしてた。
ついでに言えば、四大都市で常駐している冒険者も自身のステータスが見たいがために、わざわざ登録の為だけに塔まで来ていたりする。
それを考えれば、四大都市に支部を置く意味は十分にある。
というよりも、そろそろ四大都市に支部のような物を設置できないかと検討されていた。
大きな問題として、クラウンカードの問題もあったのだが、仮とは言え簡易版の神能刻印機が出来たことは支部を作るうえで大きなメリットになるのだ。
「クラウンにとっては分かったけど、政治的にはどうなの?」
考助の質問に、アレクが苦笑した。
「正直に言えば、さっさと支部でもなんでもいいから作ってくれと言うのがほとんどだな。もちろん遠回しに言ってきているが」
これには、考助は目を丸くした。
「・・・そうなの?」
考助は、てっきりクラウンのような大きな組織が入ってくるのは、既存組織が嫌うと考えていた。
「それだけ塔から流れてくる素材や資源は、都市に大きな影響を与えているということだ。支部が作られればそれだけ流通が多くなると期待しているのだろう。実際にそうなるだろうしな」
アレクがちらりとシュミットを見るが、シュミットも同意するように頷いた。
「支部が作られれば、当然支部に向かって塔から物品が流通することになります。当然大規模な商隊も作られるでしょうね」
商隊が作られるということは、当然それに付随して護衛の冒険者も雇われるということになる。
往復する者もいるだろうが、商隊の終着点である支部で留まる冒険者もそれなりの数が出るだろう。
各都市はそういった冒険者たちに期待しているのだ。
塔だけに籠って活動する冒険者が戻ってくることが期待できる。
「はあー。なるほど。色々考えているんだなあ・・・」
それを聞いた考助となぜかガゼランも納得するように頷いていた。
シュミットの話に同意できる部分があったのだろう。
考助としては、簡易版の神能刻印機を作った時は、そんなことまでは考えていなかった。
ただ、いつまでも塔だけで募集を掛けていてもダメだろうと思って、今回の簡易版を作ったのだ。
「まあ、問題がないならいいや。それよりも、支部を作るとして資金とか人材とかは大丈夫なの?」
以前から検討されていたという事なので、当然その辺の検討はされているのだろうと予想しての質問だ。
「政治の観点から言えば、四つ同時に作ってもらった方がいいのだがな?」
これはアレクの言葉だ。四大都市は、位置的に東西南北の大陸の影響を受けているところがある。
それぞれが張り合っているところがあるので、どこか一つを優遇すると面倒なことになりかねない。
「・・・資金の方は、まあ問題ないでしょう。問題があるとすれば人材ですが、幸いにしてここにはいい人材が集まっていますので、それぞれの支部を任せられる者もいるでしょう」
「ああ、そうだな。こっちも問題ないぜ」
シュミットの言葉に、ガゼランが頷いた。
ちなみに、この時点ではダレスは会話には加わっていない。
四大都市になると新しい工芸ギルドが入り込めるほどの隙間はほとんどないのだ。
「じゃあ、問題はないってことかな?」
考助の最終確認に、この場にいる全員が頷いた。
この時を持って、クラウンがいよいよ塔の外に出て活動を始めることが決まったのであった。
ステータスの刻印が無いのに神能刻印機(簡易版)w
分けて呼ぶのもおかしいと思ったので、名称は変更しませんでした。
今後は、簡易版とか神能刻印機(簡易版)とか呼ばれると思います。




