1話 神能刻印機の改良
本日から第十四章始まります。例によって章タイトルは後ほど。
六つの周辺の塔を攻略した考助だが、現在はまったりモードになっていた。
まったりモードと言っても、道具の開発に時間を取っているのだが。
周辺の塔は、北西の塔を除きメンバーに任せている状態で、基本的には考助が口を出すつもりは無かった。
北西の塔に関しては、わざと管理を放置している。
これも検証の一つだ。
攻略された塔が、長期間放置されたらどうなるのかを見ているのだ。
こんな検証に意味があるのかどうかは不明だが、とりあえず試してみないことには分からない、ということでやってみることにした。
予想では、今までと変わらないと予想しているのだが、あるいは管理者が設定されたことによって何か変化が起こるかも知れない。
取りあえず、北西の塔は長い目で見て管理することにした。
他の五つの塔は、引き継いだメンバーたちが張り切っているので、今後に期待することにした。
現状は大きな報告は来ていないので、なかなか苦労しているようだった。
それを尻目に考助は、アマミヤの塔の管理・・・ではなく、まったりモードで神具の開発をしている。
開発といっても新しい神具を開発しているわけではない。
神能刻印機の改良版を作っているのだ。
以前から神能刻印機を増やしてほしいという要望は、クラウンから上がっていた。
未だにクラウンに入ってくる冒険者の数は減っていないそうで、完全に需要に供給が追い付いていない状態なのだ。
おもな原因が、神能刻印機が一台しかないためなので、こればかりはいくら人を増やしてもどうしようもない。
そのため考助に、神能刻印機の増産依頼が来ていた。
流石にここに至っては、考助としてもゆっくり増やせばいいか、という呑気なことを考えてはいないので、神能刻印機を増やすことには異論がなかった。
ただ、問題があるとすれば、その管理の方法であった。
そもそも神能刻印機は、動力源を神力に頼って動いている。
これが大きな問題で、神力をまともに扱える人材が不足しているのだ。
現在の神能刻印機がきちんと動いているのは、ワーヒド達六人が毎日毎日クリスタルに神力を補充しているからだ。
それと同じものを増やすとなると、どう考えても神力の補充が追い付かなくなる。
かと言って、いきなり神力を扱える人材を用意するわけにもいかない。
神力と言う力が、魂のあり方に関わってくるだけに、迂闊に広めるわけにもいかないのだ。
というわけで、神力に頼らない神能刻印機の開発を以前から行っていた。
流石に考助の権能に当たるステータスに関わる部分は神力を使うしかないのだが、他の部分は魔力や聖力に置き換えることが出来ないかと研究していた。
・・・主にイスナーニが。
考助としては、六つの塔を攻略している間は、完全にイスナーニに任せている状態になって、心苦しい所もあったのだ。
もっとも、当のイスナーニは嬉々として開発をしていたが。
ステータス表示周りは、考助が手を入れないとどうしようもないので、まったりとテコ入れをしていた。
ただし、まったりとというのは考助の印象で、傍で見ていたイスナーニは、呆然とした表情をしていた。
何しろ考助は、ステータスを読み取る部分の機構を、片っ端から削っていっていたのだ。
簡単に言えば、一苦労して作ったプログラムを、テストもなしにこれいらない、これもいらない、と削っていっているようなものだ。
人によっては、真っ青になってもおかしくない行動だった。
傍から見れば乱暴な改変だったのだが、一区切りついたところで、考助がテストしてみようと呟いて起動してみると、見事に動かすことが出来た。
後からイスナーニが考助に何の作業をしたのか確認したところ、簡単にいらない部分を削ったとだけ答えが返ってきた。
その返事を聞いたイスナーニを見た考助が、流石に言葉が足りなかったかと思い補足したのが、次の言葉だった。
「そもそもステータスを読み取る機構って、この神の左目の機構を転写しているんだけど、ステータス以外の情報も読み取っているんだよ。だからステータス読み取り以外の余計な部分を削り取った」
「・・・例えばどんなものを読み取っているのでしょう?」
「そうだなあ・・・例えば感情とか」
「・・・・・・え!?」
「僕がこの左目を使うときは、そう言った余計な情報は脳で処理しきれないから勝手に削っているけど、今ある神能刻印機はそう言ったものを全部を読み取っていたからね」
「その分の神力を使っていたと?」
「そういうこと」
考助の説明に、イスナーニが納得して頷いた。
「・・・あれ? ですが、こんな短時間で作業を終えられるのでしたら、なぜ今までやっていなかったんですか?」
「それは簡単。一つは、現人神になったせいか、この権能の機構の中身がより詳しく分かったから。もう一つがイスナーニが変換器を作ってくれたから」
現人神になったと一番実感できたのが、この神の左目の機構を理解できたことだろう。
といっても考助が現人神になったと完全に受け入れてから、初めて理解できたのだが。ある意味その時初めて、考助の権能となったのかもしれない。
さらに変換器と言うのは、魔力や聖力を神力に変換することが出来る機器のことだ。
勿論、塔にある三つのクリスタルの機構を参考にして作った。
「現状、神力の消費を削る機構を作っても、ワーヒド達の負担という意味では、あまり変わらなかったからね。でも変換器のおかげでワーヒド達じゃなくても力を活用できるようになったから」
塔の変換効率を見ても魔力や聖力から神力への変換は、あまり効率がいいものではない。
さらに、いくら塔の機構を参考にして作ったと言っても、完全に同じ変換効率にすることはできていない。
とは言え、ワーヒド達が関わらずに神能刻印機を動かせるように出来るのは、メリットが大きいので限界まで神力の消費を抑えることにこだわった。
その結果が、ステータス以外の部分の代用品の開発であり、ステータス部分の大幅改変である。
取りあえず、そのかいあって何とか実用レベルまで落とし込むことができた。
あとは、暴走などが起こらずに、きちんと動作してくれれば完成となる。
考助とイスナーニは、さっさと開発にいそしむのであった。
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「それで、これが新しい神能刻印機ですか」
新しくできた神能刻印機を持って、考助とイスナーニはクラウン本部を訪れていた。
そこには、クラウンの主要メンバーとアレクが来ていた。
彼らの前には、以前の神能刻印機とほぼ同じ大きさの新型神能刻印機が置かれていた。
外観はほとんど変わっていない。
だが、その中身は大幅に変わっている。
「そうだね。変わった部分を一言で言えば、毎晩やっている神力の補充をしなくてよくなった」
「そりゃ、また・・・」
そう言ったのはガゼランだったが、他の集まっているメンバーも同じような表情になっている。
「代わりに魔力か聖力の補充が必要になったけどね。お小遣い代わりに、業務の終わりに補充とかしてもらえれば、すぐに補充は出来るんじゃないかな?」
「具体的には、どれくらいで?」
「全部使い切ったら、一流の魔法使い一人の魔力量全部くらいかな」
その答えに、ガゼランが唸った。
確かに量としては多いのだが、賄えない量ではない。
「・・・なるほど。それで、機能としてはどうなんだ?」
「それは今までの神能刻印機と全く同じ。業務やるうえで変わったところは何もないよ」
実業務を行っている管理者としては、非常にうれしい改変だった。
何しろ余計な研修など行わなくて済む。
この辺は、イスナーニの開発が大きく生きている。
「取りあえず、二台作ってきたからこっちを実運用で使ってもらうのでいいかな?」
「おや? ということは、元の神能刻印機はどうされるので?」
「回収して壊す!」
力強く宣言した考助だった。
考助にしてみれば、神力だけに頼って動く旧型の神能刻印機はこの世界で使う分には欠陥品と言える。
道具なのだから誰でも使えるというのが考助の理想だ。
・・・まあ、政治的な理由できっちりと複製されないようにはなっているのだが。
考助の宣言に一同苦笑したのだが、誰も止める者はいなかった。
確かに神力を使うしかない旧型の神能刻印機は、一般的に使う分には使えない代物だったのは確かなのだ。
「まあ、それはいいのですが、いきなり回収するのは止めてください。取りあえず、新型を一台導入して、問題が無ければもう一台の新型と旧型を交換するようにお願いします」
「ああ、うん。その辺は任せるよ。別に今すぐ回収したいわけじゃないから」
ワーヒドの念押しに、流石の考助も苦笑するしかないのであった。
実験した結果、何も変わらないという結果を得るのも重要ですよね・・・よね?
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