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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
閑章 集められた聖職者たち
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2話 神託

 シルヴィアとピーチが去った部屋の中で、残った者達は先ほどの話がどこまで本気なのかを検討していた。

 そんな中、ふとローレルが呟いた。

「・・・そう言えば、なぜシルヴィアの言葉を疑いもせず信じたのでしょうね・・・?」

 その言葉に、全員がハッとしたように気付いた。

「まさか、精神攻撃・・・!?」

「いえ、流石にここにいるメンバーに気付かれずに、それは無理でしょう。ただ、何か操作が行われていたのは、あり得ますが・・・」

 この場に集まっているのは、仮にも神殿を代表する者達だ。

 当然力をそれなりに備えている。

 だが、そのメンバーたちに全く気付かれずに、精神攻撃をしかけることなど考えにくい。

 とは言え、あの場で全員が何も疑いもせずに、シルヴィアの言葉を信じたというのは、何かの力が働いていたとようやく気付いたのだ。

「・・・だが、このメンバーの中でそんなことが可能ですか?」

 シュリの言葉に、全員が押し黙った。

 気持ちとしては、出来るわけがない、と言いたいところだが、現実を考えるとそうも言っていられない。

「・・・このことは考えても仕方ないでしょう。とりあえず、今はシルヴィアの言った神託が本当に来るのかが重要です」

 ローレルがそう結論付けたが、約一名納得できない者がいた。

「ハッ。精神操作を受けてるかもしれねーってのに、放置するってか?」

 ゼットのその言葉に、ローレルは肩をすくめた。

「そもそもその場で気づくことが出来なかったのに、対抗できるとは思いませんね。もし何かできるのであれば、どうぞ実行してください」

 教会組織と言うのは、一枚岩でまとまっているわけではなく、あくまでも地域の神殿をまとめている組織が複数ある状態だ。

 四人がそれぞれの大陸を代表して来ているとはいえ、大陸の一つの大きな組織の代表と言うわけではないのだ。

 ましてやローレルは、セントラル大陸の教会組織の代表も兼ねている。

 代表者達のいう事を、絶対に聞かなくてはならないという立場にはないのだ。

 しかもその代表者たちも、当然ながら一つにまとまっているわけではなく、むしろ自分こそがアマミヤの塔の神殿に入るのだと思っていた。

 その目論見は、先程シルヴィアとピーチに潰されたが、まだ諦めたわけではない。

 交渉さえできれば、何とかなると思っている。

 当然その交渉を上手くできるのは、自分だとそれぞれが思っている。

 ローレルの言葉に、ゼットは小さく舌打ちをしたが、それ以上は何も言わなかった。

 周囲の様子を見て、自分に同意する者がいなかったのが分かったためだ。

 

 それぞれの立場というものがあるので、当然統一した意見などまとめることなどできるはずもない。

 シルヴィアとピーチがいた時に、まとまっていたように見えたのは、塔側がどういった立場を表明するのかが分からなかったからだ。

 塔の方針が明確になった以上、それぞれの立場で、それぞれの意見が好き勝手に出されていた。

 しかもそれぞれが、大陸の代表者と言う名目を背負っているので、妥協点と言うのがなかなか見つけ出すことが出来ない。

 シルヴィアの言った塔の神殿に、シルヴィアを除く聖職者を受け入れるつもりはないというのは、当然ながら彼らには受け入れることの出来ない話だった。

 多少強引になっても、必ず受け入れてもらうというのは、全員が一致した意見だ。

 問題はその先のことだ。

 どうやって受け入れてもらうのか、というのが全くまとまらなかったのだ。

 終わりの見えない話し合いに思えたのだが、別の要因でそれに終止符が打たれた。

 慌てた様子で、巫女の一人が部屋に入ってきた。

 その巫女は、しっかりと封のされた書類をローレルへと手渡した。

 当然のようにローレルにしか開けられない術が掛けられている。

 封を開けて、中身を確認したローレルは、さっと顔色を変えた。

「・・・そ・・・そんなことが・・・」

 思わずつぶやいたローレルだったが、その呟きは全員に届いた。

 ローレルとしては、意識して発した言葉ではなく思わず出た言葉だった。

「何かありましたか?」

 代表者達は、何がそこまでローレルを動揺させているのかは分からない。

 だが、ローレルが読んでいる書類に関しては、思い当たりがある。

 ローレルが開けた封は、神託を授かった者が、神殿長へと報告する為の物だった。

 その封は世界共通で使われている。

 封が統一されているのは、わざと神託に関わる内容だと分かるようにするためだ。

 神託もまた神に関わる内容になるので、迂闊に手を出すことを抑止する効果を狙っている。

 シュリに問われたローレルは、神託の中身を話そうとして、すぐに言葉を呑み込んだ。

「いえ・・・これに関しては、私から話さないほうがいいでしょう。それぞれの教会に問い合わせるべきです。私が話して先入観を与えないほうがいいでしょう」

 高位の聖職者同士であれば、念話を使うことが出来る。

 念話を使えば、大陸間のやり取りも出来無いわけではないのだ。

 もっとも使い勝手が悪い上に、高位の聖職者であっても大量の力を消費するので、滅多なことでは使われることは無い。

 だが、それを使ってでも教会に問い合わせるべきと、ローレルは考えた。

 その場はすぐに解散になり、ローレルはアマミヤの塔が目と鼻の先に存在してる神殿の長としての対応に追われることになる。

 その間に、代表者達はそれぞれ念話を行い、何か重要な神託が無かったのか問い合わせた。

 結果、その神託を聞いた代表者達は、ローレルが言い渋った理由を察した。

 その神託とは、次のような内容だったのである。

 

『アマミヤの塔の支配者たるコウスケは、神々に現人神と認められた』


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「あれでよかったのでしょうか?」

「十分ですよ~。とりあえず、今日はこちらの立場を伝えるだけだったんですから」

 シルヴィアの心配をよそに、ピーチがのほほんと答えた。

 こういった交渉事は、シルヴィアよりピーチの方が上手なのだ。

 当然、サキュバス一族の裏の仕事をするための修業で培っていた。

 裏の仕事の主なものは、情報収集なのだから徹底的に仕込まれた。

 神殿の中で育ちそういったことを出来るだけ避けて育ったシルヴィアには、無い能力なのでわざわざピーチについてきてもらった。

「それにしても~。まさか本当に気付かれないとは思いませんでした」

 ピーチの言葉に、シルヴィアは苦笑した。

 ローレル達が予想したように、シルヴィアとピーチは、あの場で精神干渉を行っていた。

 精神干渉といっても、自分たちの言葉に神力を乗せて話しただけなのだが。

「仕方ありませんわ。神力など本来であれば、認識するどころか、知られてさえいないのですから」

 神力を乗せた言葉は、ある種の言霊のような感じになるので、対抗する手段を持っていない場合は、それをまともに受けてしまうことになる。

 対抗する手段というのは、神力での防御になるので、神力を使えない聖職者たちに対処しろというのが無茶なのだ。

 逆に、ローレルが気付けたのは、力を感じたのではなく、経験によるものだった。

「そんなものですか~。まあ、とりあえず種はまいたので、あとの話がどうなるのか楽しみですね」

「私は、どうなるのか不安しかありませんわ」

「あらあら~。まあ何かあったら私がフォローしますから、大丈夫ですよ。といっても、今回は失敗する要素がありませんが」

 今頃は、シルヴィアがあの場で言った神託が、授けられているところだろう。

 当然シルヴィアが、事前に交神してたのんだのだ。

 元々考助の事を伝えたがっていた神々が、喜んで協力してくれた。

 一柱の神だけではなく、複数の神からの神託なのだから、疑う者もいないだろう。

 問題はこの先、教会側がどういった対応をしてくるかなのだが、神託の内容が内容なので、そうそう強行的な手段に出ることも出来ないと予想している。

 今回のミクセンの神殿訪問の目的の大部分は、この神託だけですんでいる。

 最初から神託だけで済ませてもよかったのだが、わざわざ代表者達が揃ってくれたので、わざと面会もすることにしたのだ。

 次の面会は明日になっているのだが、神託のおかげで今頃神殿は大騒ぎになっている事だろう。

 その騒ぎを何となく想像しているシルヴィアだったが、明日の面会はどんな要求をしてくるのか。

 せめて、聖職者らしい要求をしてきてほしいと思うシルヴィアなのだった。

聖職者らしい要求って・・・何でしょうね?w

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