1話 最初の会談
「集められた聖職者たち」は閑話としてはじめましたが、思ったより長くなりそうなので、閑章(造語です)として扱うかもしれません。
考助達が南の塔を攻略しているちょうどその頃。
シルヴィアは、ミクセンの神殿を訪ねていた。
クラウンを経由して、会談を行いたいと要請があったためだ。
要請自体は、考助自身と話がしたいとあったのだが、生憎(ちょうど?)と考助は塔の攻略の真っ最中だったので、素直に考助が出向くことはできないと返事を返した。
すると教会側は、シルヴィアでも構わないから話し合いの場を持ちたいと言って来たのだ。
シルヴィアとしても、断ってもよかったのだが、ちょうどいい機会だということで、会うことにした。
勿論シルヴィア一人で来たわけではない。
今回一緒に来ていたのはピーチだった。
ピーチが一緒に来ているのは、せっかくなのでミクセンの神殿の構造をきちんと自分の目で見たいという、裏の仕事を請け負う一族らしい目的を持っていた。
普段の姿からは、なかなか想像しづらいのだが、やはりピーチもサキュバス一族の一員なのであった。
「どういうことですかねぇ、ローレル神殿長。この場には、神威召喚を行った召喚者が来るのではなかったのかな?」
シルヴィアとピーチが座っている席のテーブルを挟んで反対側に座っている男の一人が、いきなりそう言って来た。
それを聞いたシルヴィアは無言で、ピーチはいつものようにニコニコしていた。
今シルヴィア達がいる部屋は、コの字の様にテーブルが置かれていて、真ん中の席にはミクセンの神殿の高位神官三人が座っていた。
真ん中は当然ながらローレル神殿長だ。
シルヴィア達の向かいに座っているのは、男二人女二人の四人組だった。
四人を紹介されたシルヴィアは、その全ての名前に心当たりがあった。
教会という組織の中では、有名な四人だったのだ。
先の発言をしたのは、ゼット。シルヴィアから見て一番左側に座っている。ついでに言えば、一番ミクセンの高位神官に近い位置だ。
ゼットから順に、カリン、シュリ、タマルと座っている。
四人とも各大陸での教会で、聖職者としての実力が飛びぬけて高い者として、シルヴィアも聞いたことがあったのだ。
「・・・ゼット殿。その話は前にも話したではありませんか。コウスケ殿は、他の用事があって別の者が来ると」
ローレルとしてもゼットが、わざとこの話を持ち出していることは分かっている。
四人が塔の支配者である考助が来ないことに、不満を持っていることが分かってもらえればそれでいい。
「ふん。・・・ずいぶんと教会も舐められたもんだな」
ゼットの視線は、シルヴィアの方へと向けられていた。
自分たちを差し置いて、塔の代表として巫女服を着ているシルヴィアがいる事に、不満があるのだ。
シルヴィアとしてもそれが分かっていて、あえてこう返した。
「・・・どうやらお互いの話に齟齬があるようですわね。本日私が来ることは、事前に伝えていたはずですわ」
「・・・はん。その顔と体で取り入った輩が、随分と偉そうだな」
ゼットの侮辱に、ローレルを含めたミクセンの神殿の者達は顔色を変えた。
だが、シルヴィア達の向かいに座っていた残りの三人は平然としていた。
その表情を見て、シルヴィアは彼らが事前に打ち合わせをしていたかどうかまでは読めなかったが、ゼットがこういった態度に出ることは予想していたと考えた。
ゼットの言葉自体に思う所はほとんどない。
そもそも考助の傍には、常にコウヒとミツキの二人がいるのだ。
シルヴィアは、自身の顔や体つきだけで、今のような関係になれたとは欠片も思っていない。
「私の事をどうこう言おうが気にしませんが・・・今の台詞は、あの方の事も侮辱しているということは、分かっていますか?」
シルヴィアの言葉に、ゼットは小さくチッと舌打ちをして、顔をそむけた。
「しかしこの場は、塔の神殿に派遣する者を決定する場のはずです。貴方がそれを決めるのですか?」
今度はカリンが、発言をしてきた。
今までのゼットの台詞など無かったかのようなスルーっぷりである。
「あれ~? いつの間に、そんな話になったんですか? 私達が聞いていたのは、今後の塔の方針を伝える場を設けると言ったことでしたが?」
まさかこの場で発言すると思っていなかったピーチの言葉に、カリンは多少驚きの表情を見せた。
「ですから、私達の誰かを受け入れるという話なのでは?」
「あれあれ~? 私達がいつ貴方たちを受け入れるという話をしましたか?」
ピーチは首を傾げた。
「なっ!? まさか、私達を受け入れるつもりはないと?」
流石にこれにはローレル達も驚いた表情をしていた。
アマミヤの塔に出来た神殿は、三大神が祝福を授けている。
当然その神殿を管理するのは、高位の神官や巫女が管理をするのが、教会側では通例になっている。
だからこそ、それぞれの大陸で有名な者達を一名ずつ選出して送り出してきていた。
その代表者がシルヴィア達の前に座っている四人なのである。
だが、残念ながらそんな通例は、考助には何の関係もない。
この件に関しては、既にシルヴィアを通して予想済みであり、その対応も決めていた。
「はい。今、外部の大きな組織の人間を入れても、塔にとってはいいことなどないので、こういったことがあった場合は、拒否していいと聞いていますわ」
「・・・・・・正気ですか?」
そう言ったのは、一番右側に座っていたタマルだった。
これだけの人材を送り込んできた教会の思惑を完全に拒否すれば、普通であればどういったことになるか少し考えればわかるだろう。
この場にいる四人は、それぞれの大陸の教会組織を代表してきているのだから。
だが、残念ながらシルヴィアやピーチが従っている考助は、普通ではなかった。
「はい。あの方は、はっきりそう伝えていいと仰っておりました。ついでに言えば、私も同意見ですわ」
「私もです~。と言うより、あの塔の管理しているメンバー全員の意見ですね」
最終的には、勿論考助が決めたのだが、その前には全員で話し合いが行われていた。
二人の言葉に、ゼットは刺すような視線を向けて来た。
だが、シルヴィアもピーチもどこ吹く風と言った感じだった。
この程度の視線に耐えられなければ、とてもコウヒやミツキの二人の前には立てない。
いろんな意味で、管理層のメンバーは鍛えられているのであった。
「ま、待ちなさい、シルヴィア。それでは、あの神殿の管理はどうするのですか?」
慌てたのはローレルだった。
そもそもローレルとしても、代表者をこの四人の中から選んで、他の者達を自分たちのところから出そうとしていたのだ。
「当面は、奴隷たちを使って掃除などをするくらいですわ」
シレッと言ったシルヴィアに、ローレルは頭痛を堪えるように、思わず手を頭に当てた。
三大神の祝福が掛かった神殿を、奴隷たちが掃除をするだけで管理するなど、神殿の無駄遣いもいいところだ。
当然代表者四人もそう思ったのだろう。
今度はシュリが、純粋に不思議そうな表情をした。
「・・・それで、三大神の神々が納得するのですか?」
たとえ一度祝福を与えられたとしても、その後の反応が芳しくなければ、見捨てられるのもあり得る、ということが分かっているからの発言だった。
「勿論ですわ。このことは当然三大神からの許可を取っています」
だが、シルヴィアの返答は、その上を言っていた。
さらに続いた言葉に、ピーチ以外全員の表情が変わった。
「ついでに言えば、あの神殿の主神自身がそれでいいと言っています。そのことにいくら三大神と言えども口を挟めませんわ」
主神と言うのは、その神殿で祀られる神の事を指している。
基本的には三大神の何れかの神が、主神として祀られるのだが、祝福を与えた神以外が祀られることを示唆したシルヴィアの言葉に、驚いて表情を変えたのだ。
もちろん祝福を与えた三大神にもある程度の口を挟む権利はあるのだが、シルヴィアはあえてそう言ってみた。
そして、もくろみ通りピーチ以外の者達は、良いように勘違いしてくれた。
「・・・まさか、あの神殿の主神は、三大神を超える存在だと?」
「それこそまさかですわ。とは言え、私もあの方が神々の中で、どの程度の立場になるのかは、把握していませんわ」
「・・・・・・あの方と言うのは?」
「私が最初に口に出していいわけがありません。・・・ただ、今私がこの場で話を出したので、今日あたりに神託が与えられるかもしれませんわ」
シルヴィアのその言葉を最後に、この場は一旦お開きになった。
この場で与えられた情報の大きさに、とてもではないがすぐに判断することが出来なかったのだ。
シルヴィアが言う<神託>についても、きちんと確認しないといけない。
そもそもシルヴィアの言葉が本当かどうかも分からないというのに、全員がその言葉を信じていた。
なぜかシルヴィアの言葉の影響を受けていることに、その場にいた全員が気づかなかったのであった。
だれが主神になるのかは次話で。
まあ、シルヴィアの台詞で、誰かは想像がつくでしょうがw
・・・というか、一話では終われませんでした><
次話に続きます。
2014/6/29 誤字訂正




