8話 それぞれの思い
南東の塔の管理者としてシルヴィアを指名したのは、結局シルヴィアが考助の巫女として認めてから翌朝になった。
北東の塔でシュレインが苦労していることを知っているので、シルヴィアとしても頑張ります、としか言えなかったが。
考助にしてみれば、現状アマミヤの塔以外の塔については、さほど力を入れて開発するつもりは無かったので、気張る必要はないとだけ言っておいた。
そもそも他の塔を攻略したのは、アマミヤの塔の階層との階層交換が目的だった。
残念ながら手に入れた二つの塔は、アマミヤの塔との階層交換が出来ないので、あまり重要視はしていないのである。
とはいっても、シュレインにしてもシルヴィアにしても、アマミヤの塔の考助の管理を間近で見てきている。
塔の性質が違っているとはいえ、同じようなことを目指すのは当然と言えるだろう。
二つの塔は、アマミヤの塔ほどの広さが無いので、村を作るというのには、適さないだろうが。
新しく手に入れた塔に関しては、シュレインとシルヴィアに任せることにしたのだが、今考助が頭を悩ませているのは、現人神についてだ。
現人神になったと言われてからは、逃避するように二つの塔を攻略しに行って考えないようにしていたが、流石にシルヴィアが巫女になって避けられなくなった。
そもそも考助にしてみれば、アスラやエリス達に言われただけで、実感が伴っていなかったのである。
勿論ステータスで確認はしていたが、それも実感を伴う物ではなかった。
それが、シルヴィアが巫女になったことでようやく実感出来た。
「・・・・・・うーむむ」
考助は、管理層のくつろぎスペースで腕を組みつつ唸っていた。
実感できたとは言え、現人神として何かが出来るようになったかと言われれば、何もない。
分かり易く何か神様らしい能力が身に付いた、と言われればまだ納得しやすかったかもしれないが、そんな能力が身に付いた実感は全くない。
ステータス表示が考助の神としての力の一端なのだが、そもそも”アスラから与えられた力”というイメージが抜けきっていないために、どうしても自身の力として認識しづらいのだ。
勿論、神域に行ったときに説明されたことは、忘れてはいないのだが。
「ずいぶん難しい顔をしていますが、どうかしましたか~?」
「・・・ああ、ピーチか。いや、ちょっと考え事をね・・・」
「考え事をしているのは分かっています~」
ピーチはそう言って、考助の隣に腰かけて来た。
そして、そのままなぜか右手の人差し指で、考助の左頬をつつき始めた。
「いつもと違って、良くないことを考えていませんでしたか~?」
のんびり屋というイメージのピーチだが、妙に鋭いときがある。
流石にこの辺は、占いの一族として有名なサキュバス一族の出という事なのだろう。
「・・・え? そうかな?」
自覚のなかった考助は、思わず逆の頬を右手で擦った。
「それで? 何を考えていたのですか~? お姉さんに相談してみてください」
「うーん、いや、今後はどうしたらいいのかな、とね」
「? 今後? 塔の事ですか~?」
「ああ、いや。そうじゃなくて、現人神としてだよ」
「そんなに難しく考えることは、無いんじゃないんですか~?」
軽く返された返事に、思わず考助はピーチの顔をマジマジと見つめた。
最初に会った時から全く変わっていないその美貌は、未だに考助を惑わす時がある。
今もまた、そんな感じを受けた。
と同時に、確かに現人神となっても何も変わってないんだなと、実感できた。
「・・・・・・そうか。そうだよな。無理に背伸びしたって、碌なことにならない、か」
「あらら~? なんか自分自身で納得できましたか?」
「うん。ありがとう。なんか、とりあえず落ち着くことは出来たよ」
「いえいえ~。こんなことでいいなら、いつでも力になりますよ」
考助は立ち上がって、大きく伸びをした。
うじうじと悩んでいてもしょうがないと割り切ることが出来た。
もう一度ありがとう、とピーチに礼を言って、考助は研究スペースへと向かったのであった。
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考助が去ったくつろぎスペースには、ピーチが一人残っていたのだが、すぐにシルヴィアが入ってきた。
「ありがとうございます」
そう言ったシルヴィアが、ピーチへと頭を下げた。
「わざわざあなたにお礼を言われることではありませんよ~」
「ですが、巫女になった私がやってもダメでしたでしょうから、貴方が対処してくれて助かりましたわ」
「たまたま、私だけがいたからやっただけですよ~」
コレットとシュレインは、それぞれ用事があって管理層からは離れている。
考助が悩んでいる様子を見せていたことに対処できるのが、ピーチしかいなかったのだ。
シルヴィアもいたのだが、考助が悩んでいる理由が、自身に関係している事なので、動くことが出来なかった。
どうしようかと悩んでいるときに、ピーチが動いてくれたのである。
「そうですか・・・」
「・・・なんですか~?」
じっと見つめてくるシルヴィアに、ピーチは首を傾げた。
「いえ・・・。私の見立てでは、貴方にも素養がありそうですが?」
「あらあら~。貴方には、バレバレでしたか。まあ私は、自分の力を抑え込むために、色々な修行をしましたからね」
「では・・・」
ピーチは、勢い込むシルヴィアを、手のひらを向けて制した。
「ですが、今はまだ私は動かないほうがいいと思います~。取りあえず様子を見た方がいいかと」
その言葉に、シルヴィアは黙った。
確かに今の考助の様子を見る限り、しばらくの間は様子を見ておく方がいいと理解できたのだ。
「・・・何というか、コースケ自身はもちろんなのだが、そなたたちもとんでもないのだな」
いつの間にか来ていたフローリアが、そう言ってきた。
考助とコウヒやミツキに隠れているが、実は周辺にいるメンバーたちも一般レベルからすれば、それぞれの分野では最高クラスの人材だったりする。
正確に言えば、考助と行動を共にするにしたがって、レベルが上がっていたりするのだ。
「あら、それは貴方もそうではなくて?」
シルヴィアの言葉に、フローリアは苦笑した。
「私は、少なくとも今の自分の持っている力は把握しているつもりだ。以前のように、井の中の蛙になりたくはないな」
ミツキに散々叩かれて、ついでに考助の周辺にいる女性たちを見て、いかに以前の自分が世界を知らなかったのか理解できていた。
「貴方も、コウスケさんに抱かれたいのですか~?」
唐突なピーチの言葉に、フローリアは一瞬目を丸くして、もう一度苦笑した。
「どうだろうな。少なくとも今の私は、貴方たちのように、コースケに対してはっきりとした恋愛感情を持っているわけではないからな。そんな女を抱きたいとは、彼も思わないだろう」
二つの塔の攻略に付き合ったおかげで、フローリアも考助の考え方は理解できるようになってきていた。
「隙が多いように見えて、きっちりと線引きが出来ているのが不思議ですわ」
シルヴィアの言葉に、ピーチとフローリアが深く頷いている。
「彼には彼なりの基準があるのだろう。とにかく、私は今の状況に満足しているからな。下手なことはしないよ」
「それがいいでしょうね~」
ピーチにしてもシルヴィアにしても、無理にフローリアを考助の手つきにするつもりはない。
考助自身がそれを望んでいないことが分かっているためだ。
「話がずれた気がするが・・・よくもまあこんなメンバーが揃ったもんだ」
シルヴィアとピーチは、顔を見合わせて、
「コウヒさんとミツキさんがいますから~」
「あとは、多分コウスケ様自身の力ですわ」
「どういうことだ?」
フローリアの疑問に、シルヴィアは初めて考助を見た時の感覚を伝えた。
「ああ、それ多分、私も似たようなの感じました~」
「・・・そうなのか?」
「なんか、こう~。ピピッと?」
首を傾げ手を振りつつ何とか伝えようとしたピーチだが、やがて諦めたように手を下した。
感覚的な物なので、他人に伝えるのが難しかったのだ。
そう考えると、現人神になる以前から、シルヴィアにしてもピーチにしても、考助の持つ何かを感じ取っていたということになる。
真偽のほどは分からないが、二人の勘、のようなものは当たっていたという事なのだろう。
「何というか・・・最初にあんな対応した私が、惨めになってくるな・・・」
二人の話を聞いて、自己嫌悪に陥りそうになったフローリアなのであった。
何か本筋からずれた話になってしまいました。
あと四つも塔が残っているのですが・・・。
そろそろモフモフ成分も欲しくなってきたところです。
2014/6/27 誤字脱字訂正




