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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第11章 塔から神域へ行こう
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閑話 ある冒険者達の活動

「ザサン、右!」

 仲間からの指示で、咄嗟に後方へとジャンプした。

 そのすぐ後に、自分の半分くらいの大きさの影が飛び込んできた。

 飛び込んできたのは、セイルラビットというモンスターだった。

 強い脚力を持っていて、かなり離れた場所からでも相手に向かって飛び込んでくるので、かなり厄介なモンスターだ。

 さらに厄介なのが、セイルラビットは群れで活動することだ。

「・・・っ!! このっ!」

 ザサンは、飛び込んできたセイルラビットに向かって剣を振るうが、残念ながらその斬撃は空を切った。

 その個体は、体当たりが失敗するとさっさと仲間の元へと合流したのだ。

「チッ・・・くそっ。あと三匹か」

 最初は六体だったので、半分は既に減らしている。

 三匹を倒すこと自体は問題がないだろう。

 だが、ザサンたちにも急いで残りの三匹を倒さないといけない理由がある。

 ザサンたちパーティが今いるのは、塔のダンジョン区域だ。

 行政機関が出来て以来、転移門の管理はクラウンから行政機関へ移管されたのだが、その行政機関が先日ダンジョン区域への短縮転移門の利用を開始したのだ。

 当然利用するための条件があるのだが、それは既に一度でもダンジョン区域へと踏み込んだことがあるパーティと言う事だった。

 発表されたときには、ザサンたちのパーティは既にダンジョンへと入っていたので、有難く利用させてもらうことにした。

 ザサンたち以外のパーティもダンジョンの攻略をしている。

 既にそう言った冒険者同士で、ダンジョンのマップのやり取りがされている。

 おかげで、ダンジョンの攻略は既に五層分まで進んでいた。

 ダンジョンの階層へとくるまでにかかった時間を考えるとかなりのペースなのだが、これにはきちんとした理由がある。

 そもそもダンジョンまで来れる冒険者たちは、中堅以上の冒険者たちだ。

 そして、ダンジョンの初めの階層は、ゾンビやスケルトンと言ったさほど強くないものが出現するのだ。

 中堅以上の冒険者にとっては、数こそ脅威になることはあるが、ダンジョンと言う特性上、さほど多くの数が集まることは無い。

 そのため攻略が順調に進んでいるのだ。

 合わせてマップのやり取りを冒険者同士で行っているのも大きい。

 結果、攻略が進み今では五層分まで進んでいるのだが、この階層からが厄介になっていた。

 セイルラビットと言った中級クラスのモンスターが出現し始めてきたのである。

 流石に今までのような攻略速度で攻略するのは厳しくなってきていた。

 

「よしっ。これで、最後だ!」

 ザサンが何とか最後に残ったセイルラビットを倒して、とりあえずの戦闘は終わった。

 その後周辺の様子を見張るのがザサンともう一人の役目だ。

 他のメンバーは、セイルラビットの剥ぎ取り作業をしている。

 どんなモンスターであっても、毛皮は一定の需要がある。

 ザサンたちにとっては、重要な収入源になるのだ。

「次はどっちへ向かう?」

 ザサンと同じく周辺の警戒をしていたダンカンが聞いてきた。

 今ザサンたちが戦闘を行っていた場所は、ちょっとした空間になっていた。

 ご丁寧にも、入ってきた出入り口の他に、三か所の出入り口がついているのだ。

 閉じられた部屋とはいえ、警戒していたのは、その出入り口を使ってモンスターが飛び込んでくることがあるためだ。

 先ほどザサンに向かって来たセイルラビットも出入り口から来たモンスターだったため、警戒するのが遅れたのだった。

「・・・そうだな・・・。まあ、素直に真っ直ぐ進もうや」

「了解」

 短い返事だけしてダンカンは、すぐにザサンが示した方へと警戒に行った。

 先行して様子を見てくるのだろう。

 ザサンもそれを止めるつもりはない。

 それがダンカンの役目だからだ。

 ダンカンはこのパーティの斥候の役目もおっているのだ。

 

 セイルラビットの剥ぎ取り作業が終わった頃、ちょうどダンカンが戻ってきた。

 一番最初にダンカンに気付いたザサンが、彼のおかしな様子に気が付いた。

「どうした? 何かあったのか?」

「あ、ああ・・・いや、まあ・・・取りあえず来てみればわかる」

 普段はともかく、こういう時のダンカンは、こんな言い方をすることはまずあり得ない。

「なんだ、珍しいな。はっきり言えよ」

 メンバーの一人が、ダンカンにそう言って来た。

 この先の情報は、自分たちの生死にかかわる。そう言って来るのは当然のことだった。

「ああ、いや、すまん。危険はない・・・と思う。・・・・・・今ここで俺が見てきた物を言っても、信じてもらえる確証がない」

 ダンカンの言葉に、他のメンバーが顔を見合わせた。

「・・・危険はないんだな?」

「ああ、少なくともモンスターの類はいなかった。むしろ全員で行って確認したほうがいい」

「・・・よし。進もう」

 ザサンの決定で、進むことになった。

 もちろん通路を進む間も警戒することは忘れていない。

 一度ダンカンが確認しているとはいえ、何が起こるか分からないためだ。

 

 通路をある程度進んだところで、それが現れた。

 ある程度の空間になっている場所に、二軒の建物が建っていたのだ。

 それぞれの建物には、看板が付けられていた。

 一つが「アマミヤの宿」ともう一つには「ショップ リラアマミヤ」と書かれていた。

 どちらもクラウン直営の宿と店の名前である。

 流石にそれを見たメンバーたちは戸惑っている。同時にダンカンの先ほどの態度に納得もできた。

 確かに事前にここの話を聞いても、何か精神攻撃をくらったと思われるのが落ちだっただろう。

 さらに不思議なことに、この空間にはモンスターがいる様子がない。

 じっくりと周辺を調べたが、モンスターがいないこと以外は、特に変わった様子がないので、いよいよ建物を調べることになった。

 取りあえず宿の方を先に調べることにした。

 入口らしきドアに、注意書きが書かれていた。

『クラウンカードをこちらにかざしてください』

 そう言う文言と矢印が書かれている。

 その矢印の先には、金属の板のような物が取り付けられていた。

 警戒しつつもザサンが、自分のクラウンカードをその金属にかざす。

 それと同時にカチリというドアの鍵が外れたような音がした。

 ドアノブを回してドアを開けると素直にその扉が開いて、

「アマミヤの宿へようこそ!」

 女性の声が聞こえてきて、そのままドアを閉めた。

 

「・・・・・・・・・・・・どう思う?」

 ザサンは後ろにいた仲間たちの様子を伺った。

 信頼している仲間たちも流石に声がない様子だった。

 罠の類も考えられなくもないのだが、流石にこんな手の込んだことをするのかが分からない。

 そんなことを考えていると、ドアが勝手に開いた。

「すいませーん。戸惑うのも分かりますが、罠とかの類ではありませんから。信用してください~」

 若干涙目になって、先ほどの女性がそう言って来た。

 勝手に開いた扉に反応して、メンバーたちが武器に手を掛けるが、女性は両手を上げて武器の類を持っていないことをアピールしている。

 女性は軽装だったので、とりあえず大きな武器の類は無いだろうと思い、女性に導かれるまま建物の中に入ることにした。

 いまだ警戒したままのザサンたちに、フェールと名乗った女性が説明を始めた。

「塔の管理者が、セーフティエリアを設置すると発表したことはご存知ですか?」

「・・・・・・まさか・・・」

「はい。恐らくそのまさかです。ここの周辺、と言うかこの建物が建っている空間は、全てセーフティエリアになっています」

 その説明で、周辺を探索した時にモンスターが出てこなかった理由を察した。

 勿論ザサンたちもセーフティエリアが設置されたことは知っていた。

 だが、まさかそれがダンジョンにも適応されているとは思っていなかったのだ。

「・・・・・・今まで三組の冒険者たちが、ここのセーフティエリアにやってきました。ですが、皆さん警戒しているのか、なかなかドアを開けてくれなくて・・・。三組目の貴方たちが初めてドアを開けてくれたパーティです」

 フェールはそう言って、乾いた笑いを浮かべた。

 それを見たザサンたちも、何とも言えない表情を浮かべた。

 他のパーティたちの行動も分からなくはないからだ。

「と、とりあえず、こちらの建物は宿になっています。泊まって行かれますか?」

 その言葉にザサンたちは顔を見合わせた。

 流石に完全に疑いが晴れているわけではないが、ここで宿に泊まれるというメリットは大きい。

 すぐに決断して頷いた。

「ああ。泊まらせてもらおう」

 その言葉に、フェールの顔が笑顔になった。

「そうですか! ありがとうございます!」

 フェールのその言葉に、奥からもう一名の女性が現れて来た。こちらも嬉しそうな顔をしている。

「そう言えば、隣はショップになっていたのだが、薬の類も置いているのか?」

「勿論です。ついでに買取も行っていますよ」

「そうか。それは有難いな」

「それから、後ほど皆さんに依頼を行いたいのですが・・・勿論、クラウン発行の正式な依頼です」

「依頼?」

「ええ。皆さまには、一度町へと戻ってほしいのです。そして、ここの事を噂で広めてください。ここがセーフティエリアであることは、本部の方で確認を取ってからでかまいません」

 なるほどとザサンは思った。

 確かに今のままでは、無駄に警戒だけさせて、ここを利用する者はほとんど出ないだろう。

 そうしたことを防ぐために、実際に利用したザサンたちを噂の発信源とするのだろう。

「ああ。そういう事なら引き受けよう」

「そうですか! よかった。それでは、よろしくお願いします。とりあえず、今日はゆっくりしてください」

 フェールはそう言ってカウンターへと入って行った。

 

「では、改めまして。アマミヤの宿へようこそ!!」

いつもより少し長めになってしまいました。

これでも色々省いたのですが・・・流石に二話に分けるほどの量にはなりそうに無かったので、無理やり一話分にしてしまいました。


2014/6/18 脱字修正

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