5話 三姉妹(女神)
忘れてましたが(オイ)、昨夜タイトルを変更いたしました。
第11章タイトルは「塔から神域へ行こう」です。
しばらく話をしているうちに、先ほどの件を引きずったままだったエリスの硬さも取れてきて、以前と同じような態度に戻ってきた。
世界記録の話以降は、考助がアースガルドへ行った後の話を色々と聞かれた。
アスラにしてもエリスにしても、考助の行動はチェックしていたようだが、それでも本人からの話を聞きたがった。
考助が[常春の庭]を離れてからそこそこの日数がたっているので、話すことはいくらでもあった。
何より二人の聞き方が上手なのか、話が途切れることは無かった。
おかげで、結構な時間が経っていたのだが、話していた本人たちはそれに気づかずに話に熱中していた。
・・・来客があったことにも気づかずに。
「・・・随分と楽しそうねえ」
「アスラ様もエリス姉も普段からそうしていればいいのだが・・・」
突然増えた声に、考助は思わずそちらの方に注目してしまった。
声は今まで何度も聞いたことがある。
だが、姿を見たのは召喚した時以来で、二度目だった。
あの時にも思ったのだが、二人とも雰囲気はともかく顔立ちはエリスによく似ている。
「ちょっとスピカ!? 私は普段からこんな感じよ?」
「そうだろうか? まあアスラ様がそう思っているのなら、そうなのだろう」
「むー。何か納得がいかない返事ね」
スピカの返事に、なんとなく拗ねた表情になるアスラ。
「わ、私も普段から・・・」
「「「ないわ」」」
エリスには、考助以外の全員から速攻で突っ込みが入った。
さらに本人にも自覚があるのか、それ以上の抗弁はなかった。
「それで、二人はなぜここに?」
考助の言葉に、スピカとジャルはショックを受けたような顔になった。
「考助に会いに来たのだが、駄目だったのか!?」
「わざわざ許可貰ってまで会いに来たのに・・・」
「あー・・・いや、ごめん。・・・ところで、許可って何?」
「ここは、アスラ様の住まいなのよ? 許可なく立ち入ること出来るわけないでしょう?」
あからさまな話題転換だったが、それを追及するわけでもなくジャルが普通に答えてくれた。
「えっ!? そうなの?」
[常春の庭]に来てからアースガルドに行くまで、考助はずっとここで過ごしていたのだが、そんなことは知らなかった。
ついでに言えば、送還でここを指定した時も特に許可など取った覚えが無かった。
「そうだな。許可なしにいきなりここに送還してきた考助は、いろんな意味で勇者だな」
スピカの言葉に、考助は冷や汗を流しながら、アスラの方を見た。
「あら。私は考助ならいつでも歓迎よ? 実際ここへ来るときには、何もなかったでしょう?」
アスラ曰く、そもそも許可がない限りは、魔法的な転移だろうと物理的な移動だろうと、この建物に入ってくることはできないとのことだった。
考助がすんなり塔から転移できたのは、最初からアスラが考助の出入りの許可を出していたためだった。
「えーと・・・出来れば考えたくないんだけど、もし許可が無かったら?」
「当然、送還は失敗だな」
「ついでに言えば、最悪送還失敗して適当な空間に放り出されていたかもね」
スピカとジャルの答えに、今更ながらに自分がかなり危ない橋を渡っていたのだと思った考助だった。
・・・のだが、その会話を聞いていたエリスが、二人の言葉を否定した。
「二人とも脅かしすぎです。考助様があの送還陣を使う限り、この建物の結界に弾かれることはあったとしても、せいぜい外に放り出されるくらいでしょう。そこまで大事になることはありませんよ」
「私が心配しているのは、考助ではなく別の者なのだがな」
「それならそう言わないと、考助様は勘違いしたままになりますよ」
「ああ、考助変な所で鈍いからね」
何故か三大神が揃って首を縦に振っていた。
「・・・ええと、どういう事?」
考助は救いを求めるように、三人のやり取りを笑ってみていたアスラの方を見た。
「要するに、三人は考助が自分の力のことに関しては、無頓着すぎて鈍すぎると言いたいのよ」
「ええー!? そうなのかな?」
「私達を召喚して、しかも塔からここに送還してきた上に、現人神になった人が、何を言っている?」
そう言ったのはスピカだったが、他の三人もうんうんと頷いていた。
「ええと、はい。・・・ごめんなさい」
「わかればよろしい。・・・それはともかく、先程の言葉は冗談ではないからな?」
「そうね。他の人間や亜人たちが使えば、失敗確実だから下手に教えたりしないほうがいいわね」
「・・・・・・わかったよ」
神々の忠告に考助は、神妙な表情をして頷いた。
そもそも塔のメンバーはともかく、他の者達に教えるつもりはなかったのだが。
あの世界で[常春の庭]のことは、ただ単純に神域と呼ばれていたりする。普通に神々が住まう地域という意味だ。
[常春の庭]という名前自体、偶然を除けば特別な意味を持って使われること自体無いだろう。
神々としては、別段隠しているというわけではないのだが、あえて言う必要もないと思っているのだ。
送還陣には[常春の庭]の名前が記されているので、あの送還陣で神域に行けると分かれば、[常春の庭]が神域の名前だとばれてしまう。
下手に考助の側から[常春の庭]について広めるつもりもない。
「ああ、別にそのことは気にしなくてもいいわよ? わざと隠していたわけでもないし、名前が広まったところで何か起こるわけでもないしね」
アスラはそう言って、考助を安心させるようにほほ笑んだ。
それを見た考助もホッとしたような表情になる。
「・・・流石、アスラ様」
「・・・調教は完璧だな」
「・・・二人とも、そういう事は思っていても口にしてはいけませんよ」
という聞き捨てならない言葉が聞こえてきたが、気のせいだと思うことにした考助であった。
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「ところで、考助は他の人たちに顔を見せるつもりはないの?」
ジャルの唐突な言葉に、考助は首を傾げた。
「他の人たちって?」
「勿論、この神域に住んでいる人たちよ?」
「・・・ええと、神域に住んでいるってことは・・・」
「当然、アースガルドの神様達ね」
考助は、げんなりとした表情になった。
「・・・勘弁してください」
今更という気もするが、これ以上神々と繋がりを持つのもどうかと思っているのだ。
だが、事態は考助の予想をはるかに超えていた。
「ふむ・・・と言うことは、塔の方に直接押し掛けることになるのだが、いいのだな?」
「・・・・・・ドウイウコトデセウ?」
思わず片言になってしまう考助である。
「貴方のせいでもあるのよ? 送還と言う方法とはいえ、あの塔とここをつなぐ道を作ってしまったんだから」
「流石に、気軽にとは言えませんが、道を伝って貴方に会いに行く者達は出てくるでしょう」
思わぬ事態に考助は頭を抱えたが、これはどう考えても考助の自業自得だった。
「ええと、なぜそこまでして会いたがっているの?」
考助はそう疑問を口にしたが、考助以外の全員がため息を吐いた。
「あのね、考助。神域の皆が、アースガルドの歴史上初めての現人神に会いたいと思うのは、そんなに不思議なことだと思う?」
「・・・・・・・・・・・・思いません」
さすがにそこまで言われれば、考助としても神々の側の事情は分かった。
まあせいぜい珍獣扱いだろうなぁ、と思っている程度なのだが。
ここにいる限りは、アスラの許可がないと入ってこれないためそんな目には遭わないだろうが、このまま放置していると余計にややこしいことになる。
流石に塔にいろんな神が直接訪問してくる事態は、勘弁してほしい。
これはどうあっても一度は、ここで姿を見せないといけないらしいと、憂鬱になる考助なのであった。
2014/6/14 脱字訂正
2014/6/29 誤字訂正




