(10)里の拡張について
クラーラとドラゴンの意外な(?)関係を知った考助は、最初のころの緊張などどこ吹く風で両者をジト目で見ていた。
「とりあえず、この場で話さなければならないようなことは、ほかにありますか?」
そもそもこの特殊な場所に移動してきたのは、アスラの話題を出すためだ。
その話は既に終えているので、考助にはほかに話題にするようなことはなかった。
「いや、ないな」
「私もないわよ。というよりも、もう当初の目的も果たしちゃったしね」
ドラゴンに続いてクラーラは、そう告白した。
クラーラの――というよりは、神域でいろいろと動いていたというのは、このドラゴンと会わせるためだったのだ。
このドラゴンに会うためには、イグリッドの領域を越えなければいけないという制約がある。
それだけでも大変なのだが、さらにその先に向かうためには、今回クラーラが直接姿を見せたように、女神の協力が必須となる。
それを考えるだけでもよほどのことがない限りは、会うことができないのだ。
ただし、神域を自由に出入りできる考助の場合は、一度こうして来ただけで、この後も好きに来ることができる。
といっても、制限があるのは変わりないので、自由に来れるのは考助だけになる。
その辺は神域の出入りと同じだ。
クラーラとドラゴンの返答を聞いた考助は、頷きながら言った。
「それじゃあ、戻りましょうか。秘密にしなければならないことも、もうないですよね?」
「そうだな。では、戻るか――」
考助にドラゴンがそう応じると、来たときと同じように一瞬にして風景が変わるのであった。
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考助達が元の場所に戻ると、一緒に来ていた女性陣が少しだけ心配そうな顔で出迎えた。
「あれ? そんなに時間が経った?」
「いいや。そうでもないかの。ただ、いきなり消えたからの」
「ああ、なるほど」
ドラゴンに連れていかれた場所は、特に時間の流れが違っているなどの違いがあったわけではない。
そのため、考助達が話をしていた間、シュレインたちは待ちぼうけを食らっていたのだ。
いきなり消えた考助たちのことを心配するのは、当然のことだろう。
もっとも、今回はコウヒとミツキが一緒に消えていたので、戦闘的な意味での心配は少なかったのだが。
なにか言いたげなシュレインに、考助は小さく首を左右に振ってから言った。
「まあ、とりあえず、神様関連だから聞かないでくれると嬉しいかな?」
「なるほどの」
考助のたった一言で、シュレインはそう言いながら頷いた。
考助が周囲を見れば、シルヴィアやフローリアも同じような顔をしていることはわかった。
クラーラも一緒に消えていたことから、恐らくそうだろうとは予想していたのだが、考助から直接聞きたかったのだ。
神様関連の話となれば、容易に話せないことがあるということもわかる。
そのためシュレインたちが、それ以上のことを聞いてくることはなかった。
その雰囲気を感じ取った考助は、改めてドラゴンを見ながら聞いた。
「こっちが知りたかったことはもう聞き終えましたが、ほかになにかありますか?」
「いや、こちらも特には……ああ、そうだ。お礼がまだだったな。改めて、新しき神にイグリッドを保護してくださって、感謝する」
ドラゴンは、そう言いながら巨大な頭を一度だけ上下させてきた。
考助はそれに対して右手を振りながら、
「もう何度も言って貰ったからそれはいいですよ。――ああ、いや。ひとつ聞きたいことがあったんだ」
「なんだ?」
先ほどの空間で聞かなかったことを、敢えてこの場で聞こうとする考助に、ドラゴンはわずかに首を傾げた。
ただ、その巨体のため、わずかな動作でも大きな音が聞こえていた。
そんなドラゴンを見ながら考助は、少しだけラングたちを見てから言った。
「この地の空間を広げることは、もう無理なのですか?」
それは、考助がイグリッドたちの里を見てからずっと考えていたことだ。
あの空間が特殊な魔法で作られていることは、最初から分かっていた。
それに加えて、塔の階層のような特殊な場所であることも判明したのだから、簡単に穴を掘って広げるわけにはいかないということは分かる。
それを知るためには、やはりこの場所を管理しているドラゴンに聞くのが一番いいのだ。
その言葉に、イグリッドたちが息を詰めるのを感じつつ、考助はドラゴンをじっと見た。
ただ、残念ながらドラゴンの答えは、考助が期待していたようなものではなかった。
「色々と試してはいるのだがな。いまのところは上手くいく様子はないな」
「そうですか。余計なことを聞いてすみませんでした」
ドラゴンの雰囲気からも、彼(彼女?)がこれまでも色々なことをして来たということが分かった。
そのため考助は、そう答えながらきっちりと頭を下げた。
その考助の様子を見ていたドラゴンは、面白そうに軽く鼻息を出した。
「そう簡単に頭を下げるな。イグリッドたちが驚いておるぞ? それに、結果が出ていないのは確かだからな」
その声からは、ドラゴンもイグリッドのためにどうにか拡張をしたいと考えていることがわかる。
「いかに努力しようとも結果が出ないということはありますから。それに、そのことはイグリッドもよくわかっているのではありませんか?」
考助がそう言うと、その会話を聞いていたラングを含めたイグリッドたちが、慌てた様子で首を上下に振り始めた。
彼らの態度を見れば、イグリッドが目の前にいるドラゴンのことを神のようにあがめているということはすぐにわかる。
そんなイグリッドを見て、ドラゴンは目を細めて短く答えた。
「そうか」
「そうですよ。まあ、とりあえず、こちらでもできる限りは引き受けます。ただ、やっぱり限度はあるのは間違いないことなので・・・・・・」
「そうであろうな。こちらも無制限に引き受けろというつもりはないよ」
「そうしてくれるとありがたいです」
ドラゴンの言葉に、考助は笑顔になりながらそう答えるのであった。
そろそろイグリッドの話も終盤です。
というか、次話で終わり・・・・・・かな?




