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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
1352/1358

(8)神の眷属

 クラーラが作った道の先にあったのは、世界樹を思わせる巨木が中心にある広大な草原だった。

 その空間は、イグリッドの里とは違って普通の空があるように思える。

 なによりも、空に浮かんでいる光源は、どこからどう見ても太陽にしか見えなかった。

 もっとも、塔の階層という例があるだけに、本当の太陽かどうかはわからないのだが。

 とにかく、地下都市とは違って自然豊かな環境であることは間違いがなかった。

 

 そんな環境の中で、巨木以外に人目を惹くものがあった。

 それが、今回の目的のものであることは、言われなくてもすぐにわかった。

 何故なら、巨木にも負けない大きさのそれは、一目見て分かるほどの威厳をたたえた一個の生物だったのである。

 大きさだけで言えば、考助が知っている一番大きい生物であるハクの本来の姿よりも大きく見える。

 そして、そんな大きい生物は、やはりハクと同じドラゴンだった。

 

 そのドラゴンは考助たちが近づいてきているのが分かっているのか、動かずにその場でじっとしていた。

 背中には羽があるので恐らく飛べるのだろうと予想できるので、逃げようと思えば逃げられるのだが、そのような動きは一切見せていない。

 クラーラの様子を見れば、そのドラゴンに会いに来たということは分かるので、逃げることがないのはすぐにわかった。

 ちなみに、イグリッドたちはそのドラゴンがいることが最初から分かっていたのか、驚く様子は見せていない。

 ただ、緊張した様子でカチンコチンになりながら歩いているだけだ。

 

 当然ながらドラゴンが襲ってくる様子は見せていないので、考助たちはゆっくりとそのドラゴンへと近づいて行った。

 そして、考助たちがだいぶ近づいたのを見てか、そのドラゴンは大きな頭を持ち上げた。

「――――フム。ようやく来たか」

 ドラゴンから聞こえてきたその声は、まるで地の底から聞こえてきたような重厚感のあるものだった。

 その声に気圧されたように、考助とクラーラ、そしてコウヒとミツキ以外は、完全に黙り込んでしまった。

 

 そんな周囲の様子に頓着せずに、クラーラが気楽な様子で話しかけた。

「なにが、ようやくよ。こんな奥地にいることを選んだのは、あなたでしょうに」

「仕方あるまい。儂は、そうそう気楽に姿を見せられるはずがないからな」

 それは、そもそもが巨体だからというだけではなく、姿を見せれば様々な生物に影響を与えるからだということに、考助はしっかりと気付いた。

 それほどの存在感を、目の前のドラゴンは発しているのだ。

 

 考助が挨拶の言葉を言おうとしたその瞬間、そのドラゴンが考助に向かって小さくその大きな頭を下げた。

「神の一柱に、こんなところまで来ていただき申し訳ない。本来であれば儂から挨拶に行くべきなのだが、先ほども述べたようにこの巨体だからな」

「ああ、いや。それはいいですよ」

 考助がそう答えると、ドラゴンはわずかに目を細めた。

「フム。随分と腰の低い神である。そなたは、紛れもなく神の一柱であるであろうに」

 その言葉を聞いた考助は、目の前にいるドラゴンが『神』と呼ばれている存在にも差があることを理解しているとわかった。

 その上で、ドラゴンは考助のことを「神の一柱」として呼んでいるのだ。

 

 その考助の戸惑いが伝わったのか、ドラゴンはなにやら体をごそごそとし始めた。

「フム。このままでは都合が悪いようだな。・・・・・・どれ」

 そう言いながらドラゴンは、ひょいと頭を動かした。

 すると、考助は次の瞬間、それまでいた場所とはまた違った空間へと移動することになった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ドラゴンの魔法(?)で移動した考助は、先ほどとは違った殺風景ななにもない空間にいた。

 その空間には、ドラゴンとクラーラ、それから考助とコウヒ&ミツキだけがいた。

「・・・・・・ここは?」

「儂のために、あの方が用意してくれた場所だな。秘密の話をするのに重宝しているよ」

 ドラゴンが言った「あの方」というのが、一瞬誰のことか分からなかった考助だったが、笑っているクラーラを見てすぐにわかった。

「アスラが・・・・・・? なんのために?」

 今いる空間ではなく、木が生えているあの場所もドラゴンしかいないように見えた。

 そのため考助は、なんのためにこの空間をアスラが用意したのか分からなかった。

 ドラゴンは「秘密の会話をするため」と言っているが、そんなものを用意する必要があるとは思えなかったのだ。

 

 その考助を見て、クラーラは少し笑いながら言った。

「まあ、それはどうでもいいじゃない。アスラ様が気まぐれなのは、いつものことですから。――あ、そうそう。ここでは普通にあの方の名前を出しても大丈夫ですからね」

「あ~、ということは、ここも神域の一種か」

「そういうことだ」

 考助の言葉に同意するように、ドラゴンはその大きな頭を上下させた。

 

 その様子を見ていたミツキが、ふとなにかに気付いたかのように言った。

「もしかしてあなたは、かの神の眷属?」

 ミツキがそう聞くと、クラーラは先ほどとは違ったなにかを含んだような笑みを浮かべてドラゴンを見た。

「ホウ・・・・・・? なぜそう思う? 神の片腕よ」

 ドラゴンの言った『神の片腕』というのが、コウヒとミツキであることは、わざわざこの場に連れてきていることからもすぐにわかった。

 

 そのドラゴンに、ミツキはただ真っ直ぐに見据えながら言った。

「別に理由なんてないわよ。ただ、そう思っただけ」

「そうか。さすがというべきかな?」

 ミツキの答えに納得したのかしていないのか、ドラゴンはそれだけを言った。

 

 この間、考助は敢えて言葉を挟んでいなかったが、きちんと左目の力でその答えを確認していた。

 ミツキが言ったことはしっかりと確信をついていて、称号の欄にはしっかりと【アスラの眷属】と書かれている。

 それは、紛れもなく目の前にいるこのドラゴンがアスラの眷属である証拠であった。

 ちなみに、コウヒは口を開いてはいないが、ミツキと同じような表情をしている。

 その顔を見れば、コウヒがミツキと同じことを考えていることは、すぐに考助にも伝わってきた。

 

 ドラゴンからははっきりとした答えを貰えていないが、ミツキは既に自分の推測が間違っていないと確信していた。

 問題なのは、目の前にいるドラゴンから一筋縄ではいかない強さを感じるということだ。

 下手をすれば、自分とコウヒが全力を出し切っても、容易に倒せる相手ではないとさえ感じている。

 クラーラがいる以上、おかしなことにはならないはずだが、それでも心の片隅では、何があってもいいように警戒を続けるのであった。

コウヒとミツキに匹敵する強さを持つ眷属。

まあ、アスラの眷属なので、当然といえば当然でしょうか。

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