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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(3)地下都市

 本家本元であるイグリッドの故郷は、地下にある。

 いわば地下都市と言っていいのだが、問題は都市がどこにあるのか分からないという点にある。

 一説によれば、どこの地下を掘って行っても、都市がある場所にはつかないとまで言われていた。

 その理由は、イグリッドが使っている魔法にある。

 地上世界(?)での魔法の理論とはまったく違っているその魔法は、単純に距離を縮めたりしているわけではない。

 では、具体的にどうなっているのかと問われれば、まったく分からないのだから手に負えない。

 もっとも、そうした事情があるからこそ、最弱の種族と言われるイグリッドがこれまで存在し続けることができている。

 とにかく、そうした不思議な魔法によって、イグリッドたちは縦横無尽に世界中のあらゆる場所に出現することができるのである。

 

 そんなイグリッドの故郷を目の前にして、考助は感嘆のため息をついていた。

「――これがイグリッドの故郷か。場所を考えれば、壮観といっていいのかな?」

「間違いなくそうじゃろ」

 考助と同じような表情をしながら、シュレインがそう応じてきた。

 

 いま考助たちの眼下には、イグリッドが住んでいる一つの都市が広がっていた。

 これから先、少し長めの階段を下りていかなければならないが、それはこれまでの距離に比べれば大したものではない。

 それよりも、問題はその都市だった。

 都市といっても、ここまで案内してきたラングが言うには、一万人ほどが住めるほどの大きさだ。

 それでも、地下にあるということを考えれば、信じられないほどの規模である。

 

 ちなみに、都市があるのはここだけではなく、ほかにも複数あるらしい。

 らしいというのは、ラングがそこは濁して言ったため、考助には具体的に分からなかったのだ。

 正確にどれくらいの数の都市があるのか分かれば、それはイグリッドがどれくらいいるのかも正確に知らせることになる。

 ラングが慎重になるのは、当然だと言える。

 勿論考助も、それをきちんと理解して、深く突っ込むのは止めておいた。

 

 

 さらに、考助たちを感動させているのは、都市の規模だけではない。

 その理由の一つが都市の天井というべき場所にあった。

「あれは、一体どうやって光らせているんだろうな?」

 フローリアの視線を追うように、考助もそちらへと向き直った。

 そこには、巨大な蛍光灯といっても差し支えないような光の発生源があった。

 目視で見ても十メートル近い大きさはありそうだ。

 ただし、その光源一つで都市の光を賄っていることを考えれば、むしろ小さいと言っていいかも知れない。

 

 フローリアが言ったとおりに、その光源は、地下の天井にへばりつくようにして光り続けている。

 考助の感じた印象ではまさしく蛍光灯なのだが、ここまで歩いてきた魔法と同じように、どんな原理で光っているのかすら分からない。

 そもそも、その光源からは熱を感じないのだ。

 熱を出さない光源というものに、考助が思い当たるものはほとんどない。

 

 少しの間その光源を見ていた考助だったが、首を左右に振ってから答えた。

「さすがに分からないことが多すぎるよ。そもそも根本が違っているんだからね」

「それもそうか」

 フローリアも、正確な答えが返ってくると期待して質問したわけではない。

 自分が不思議に思ったことを口にしただけだ。

 

 考助たちが都市の入り口で止まっていたのは、ほんの五分くらいの時間だった。

 ずっと立ち止まっていても、疑問が解消されるわけではない。

 そのことは十分理解しているので、ちょっとした観光名所を見る気持ちで上から町を見ていた。

 ラングもそれが分かっているのか、その間はなにも言わずにただ黙って、考助たちが動き出すのを待っていたのである。

 

 

 洞窟の縁にある下へ続く階段は、数えるのもばかばかしいほどの段数があった。

 その階段をひたすら降りて行った考助たちは、一番下の少し広くなっている場所で他のイグリッドたちに出迎えられた。

 考助たちを出迎えるためか、ゲートのようなものが用意されていたのだが、それにきっちりと素晴らしい装飾がされているのはさすが芸術のイグリッドといったところだ。

 

 歓迎のゲート(?)の付近に集まっているのは十名ほどのイグリッドで、それぞれが代表者たちだとラングから紹介された。

 それだけで代表者全員が集まっているというわけではなく、中には来られなかった者や、最初から来る気がない者もいるらしい。

 当然ながら考助たちが、この地下世界に来るのを反対している代表も存在しているのである。

 それでもイグリッドが考助たちをこうして受け入れているのには、れっきとした理由があるのだが、それを考助たちが知るのはもう少し先のことだ。

 もっとも、考助たちは女神たちが動いているという時点で、なんとなく察してはいるのだが。

 

 とにかく、この場に集まっている代表者たちは、考助たちを歓迎してくれていた。

「いやー、ますかここに別の種族の迎えることになるとは思わなかっただが、まんずようこそだべ」

「皆も今日来ることは知っているべ。気兼ねなく寛いでいくとよか」

 それ以外にも次々と代表者が歓迎の言葉を口にしていったが、さすがに最後の方になると全部の言葉は覚えていられなかった。

 どうやらイグリッドは、代表者がそれぞれ同等の立場であるようで、区別なく声をかけるのが習慣になっているようだ。

 まあ、これほど多くの代表者が集まることもまれだといこともあるのだが。

 

 とにかく、代表者たちから言葉を貰った考助たちは、そのまま町の中央へ向かって歩き始めた。

 そこには、これからしばらく考助たちが泊まることになっている屋敷があるのだ。

 しかも、なぜかその屋敷はイグリッド仕様ではなく、普通のヒューマンが過ごせる規格になっているそうだ。

「あの屋敷が使われることになるとは思わんかったが、取り潰しなどせずにおいてまんず助かったべ」

 というのが、いま考助たちがいる町の代表者だった。

 

 その代表者の言葉によると、その屋敷は町が興った当初からあるものだそうだ。

 ただし、その屋敷がなんの目的で作られたのか、使われていたのかは、現在残る文献や口伝にはなにも残っていないとのこと。

 そうしたイグリッドの歴史を聞きながら、考助たちはその屋敷へと無事に到着したのであった。

不思議空間、地下都市でしたw

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