(2)イグリッドの故郷へ
ほぼ説明回。
イグリッドの故郷に呼ばれるということは、考助にとっても驚きの事態だった。
そのため考助は、わざわざエリスに連絡を取ったほどだった。
裏で、女神たちが動いているのではないかと勘繰ったためだ。
ただし、その答えは、考助からすれば曖昧なものだった。
『私たちから動いたわけではありません。ただ、この件で私たちが動いていることは確かです』
「えーと、それってどういうこと?」
『詳しくは、現地で確認されたほうがいいでしょう。彼の地は、考助様にとっても刺激的な場所だと思いますよ』
エリスはそう言って、詳しい説明を避けたのだ。
別にもっと突っ込んでもよかったのだが、その時の考助は、楽しみは取っておいた方がいいとエリスから感じた。
そのため、敢えて曖昧のまま、それ以上を聞くことをしなかったのである。
そんなエリスとの会話を挟みつつ、いよいよ考助たちがイグリッドの地底世界へと行く日が来た。
ただし、残念ながら全員集合とはいかずに、メンバーは限定されている。
地底世界に向かうメンバーは、考助とその護衛であるコウヒとミツキ、それから嫁さんズの中からは、シュレイン、シルヴィア、フローリアの三人だ。
さらに、ナナも着いて来ているが、彼女がきちんと目的地を認識しているかは微妙なところである。
単に、考助が旅(?)に出るということを知って、着いて来たがっているだけのような気もするが、それはそれである。
とにかく、そのメンバーで地底世界へと向かうことになった。
今回、地底世界へと向かう場所は、考助の秘密の拠点からほど近いところである。
普段からイグリッドが塔に移住する際に、一時的に使っている場所だ。
最初のときに使った場所からは既に移動しているが、ヴァンパイアやイグリッドにとっては馴染み深い場所でもある。
そんな場所に集合した一同は、今回の案内役でもあるラングのすることを見守っていた。
普段は地底から呼び込む儀式をするのだが、今回はまったくの逆パターンだ。
といっても、呼び掛ける方法は普段と変わらない。
少し深めの穴を掘って、そこに向かって(大声で)話しかけるだけだ。
もっとも、今回の呼び声はいつもとは違っていた。
「こっちは、準備できたどー」
ラングは、穴に向かってそう言っただけだった。
しかし、不思議なことに、たったそれだけのことをしただけなのに、その穴から返事が聞こえてきたのだ。
『ほいさー』
その返答(?)が、すこしくぐもって聞こえてきたのは、やはり地中からだったからなのか、それは聞いていた考助には判断がつかなかった。
同じように不思議そうな顔をしていた他の面々も同じだろう。
それに、そんなことは、この珍しい現象の前にすればどうでもいいことである。
一体どういう魔法(技術?)が使われているのか、それさえも見当が付かないのだから。
それはともかく、穴の中から返事が聞こえてきてから一分も立たずに、いきなりその穴がぽかりと地面の側に向かって口を開けた。
それを見ていた考助は、トンネルがつながる瞬間はこんな感じなのだろうかと、どうでもいいことを考えていた。
とにかく、これで地底世界へと向かう穴が開いたことだけは確かである。
ただし、その穴に、考助たちが入れるかは微妙なところだ。
そもそも、普段からお人形さんと言われているイグリッドは、全体的に背が低い。
そのため、彼らが通って来る穴も、その体型に合わせて作られているはずだ。
――そんな心配をしていた考助たちだったが、それは結局杞憂に終わった。
ラングに案内されて入った穴は、考助たちが立って歩いても頭を付かずに済むくらいの高さがあったのである。
「普段からこの大きさの穴を通っているの?」
「ちげ。今回のは、特別製だ」
考助の質問に、ラングはすぐにそう答えてきた。
そして、やはりというべきか、今考助たちが通っているこの通路は、今回に限っての特別製だったらしい。
ちなみに、イグリッドが作っている通路は、物理的に穴を掘っているわけではない。
まさしく魔法の産物といえるものだが、穴をつなげた時と同じように、どんな方法で使われている魔法なのかはさっぱり分からない。
そもそも、根本の技術が違っているので、解析のしようがない。
アルファベット(英数字)が基礎となって作られているコンピューターのプログラムを、日本語で解析しようとするくらいに無理があるのだ。
ラングの答えのお陰で、ひとつの疑問は解けたが、さらに疑問がわいてきた。
今回、こんなものを用意してまで、わざわざ考助たちを招待しようとしているイグリッドの意図が、まだわからない。
しかも女神たちも動いているという話だったので、単純にお礼を言われて終わりとはならないはずだ。
エリスと会話をしたときの様子から考えても、それが楽しみでもあり、また怖くもある。
考助のなかで、なにか特大の仕掛けが待っている気がしているのだ。
考助がそんなことを考えつつも、一行は道なき道を進んでいた。
イグリッドが作っている道は、光があるわけでもないのに、きちんと先が見えている。
ただし、後ろを振り返れば、先ほど来たはずの道が消えているのだから少し不気味にも思える。
ただ、それが当たり前の光景なのか、イグリッドたちは特に気にする様子もなく、楽しそうに地中の道を進んでいた。
考助たちは、それにただ黙って着いていくだけである。
敢えてこの場で質問するようなことはしない。
地中を進む魔法についてイグリッドに直接質問をしても、曖昧な答えしか返ってこないことは、身に染みて分かっているのだ。
それは別に、イグリッドが隠しているというわけではなく、返ってくる答えが意味不明なのだ。
例えば「返事をしたら穴がつながるようになっている」とか「魔法は魔法だべ」とか、まったく答えにならないことを言ってくるのだ。
彼らにとっては、この魔法がごく自然に身についているもので、理屈抜きで使われているのだと考えざるを得ない状態なのである。
とにかく、考助たちはイグリッドの案内に従って、地中の道を歩き続けた。
そして、一時間ほど歩いた結果、ついに目的地が見えてきたのであった。
今回書いた内容を全部会話を交えて書くと、すごく長くなりそうだったので地の文で済ませてしまいました。
手抜きとは言わないで! ><
それはともかく、「いんや(否定)」を表現するいい方言ってないですかね?w
これしか思いつきませんでした。_| ̄|○
→「いんや」から「ちげ」に変えてみました。
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そろそろ書籍8巻が店頭にも出回っているようなので、こちらでもお知らせいたします。
「塔の管理をしてみよう」コミカライズ計画進行中です!
作「え、ちょっと、どういうこと!?」
詳しくは活動報告にて。(明日2/22に報告します)




