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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(20)眷属と野生種

 考助は、女性陣と共に天翼族の島を訪ねていた。

 一緒にいるのは、護衛のコウヒ、フローリアとシルヴィア、それから鬼神姫のソルだ。

 ソルが一緒にいるのは、今回島に来た理由にも直結している。

 転移門を通るなり、エイルに出迎えられた考助は、軽く頷きながら言った。

「ご苦労様。忙しいだろうにごめんね」

「いえ。私たちにとっても大切なことですから。それに、最近では島の生活が安定していて、さほど忙しくはありません」

 エイルはそう答えたが、多くの同胞を抱えているトップが忙しくないわけがない。

 自分のために時間を作ってくれていると分かっているからこそ、考助は「そう」とだけ短く答えた。

 

 エイルの邪魔をしないためにも、早く今回の用事を済ませたほうがいいということは分かっている。

 そのため考助は、早速とばかりに切り出した。

「それで、事前にお願いしていた見学は大丈夫かな?」

「勿論です。すぐに向かわれますか?」

「そうだね」

 エイルの問いに、考助はそう言いながら頷くのであった。

 

 

 今回考助たちが浮遊島に来たのは、天翼族が利用しているゴブリンを確認するためだ。

 天翼族がゴブリンを使うことを知ってからしばらくして、考助は眷属のゴブリンをいくらか預けていた。

 それらのゴブリンになにか変化があったかどうかを調べるために来たのである。

 ついでに、ほかのゴブリンとの差を比べることにもなっている。

 差があると分かっているのは、エイルからの報告があったためだ。

 

 島で働いているゴブリンは、基本的に農作業に従事している。

 さすがにソルたちが指示するほどに細かい作業ができているわけではないが、物を運ぶなどの単純労働はできているようだ。

「――うん。まあ、この辺は前から聞いていたけれど、眷属とそれ以外の差ってなに?」

「はい。コウスケ様からお預かりしているゴブリンは、すでに半分以上が上位種に変わっているようなのです」

 エイルがいう上位種というのは、進化種と同じ意味で使っている。

 

 島に預けたゴブリンは、ほかのゴブリンと比較するために、すべて進化していない種にしていた。

 ただ、考助の感覚で言えば、半分くらい進化しているというのは、そこまで珍しい現象ではない。

「わざわざそう言うってことは、ほかのゴブリンは違うってこと?」

「そうです。というよりも、上位種になるのは、多くて三割程度です」

「なるほど」

 眷属ではないほかのゴブリンを使い続けてきたエイルだからこその言葉に、考助は納得したように頷いた。

 

 進化の数にばらつきがあるのは、アマミヤの塔以外のほかの塔でも同じなので、特に驚くようなことではない。

 ただし、二割も差が出ているのは初めてのことなので、そこは注目すべき点といえるだろう。

「それほどまでに差が出るのは、やっぱり環境の違いのせい、かな?」

 そう呟きながら少しの間考えていた考助だったが、すぐに思考を振り払うように首を左右に振った。

「――ここで考えても仕方ないか。とりあえず、予定通りにゴブリンたちを見せて」

「はい」

 考助の思考を邪魔しないように黙っていたエイルは、その当人から促されてすぐに頷いた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 浮遊島でのゴブリンの観察は、小一時間ほど行った。

 彼ら(彼女ら?)の邪魔をしないように観察をしていた考助だったが、いくつか分かったことがある。

 その場ではそれを口にしなかった考助だったが、島にある城の一室に入ってからそのことについて話始めた。

「――――まず、一番塔での進化と大きな違いがあったんだけれど、そもそも鬼人系の進化はまったくいなかったしね」

「それは私も感じました」

 考助の言葉に、真っ先にソルが同意した。

 

 浮遊島にいるゴブリンは、眷属であってもなくても、すべてが変化種に変わっていたのだ。

 この場合の変化種というのは、ゴブリン○○のように、○○の部分にリーダーやナイトといった感じで変わることを指している。

 元がゴブリンなのは変わらないが、変化種というのは鬼人系ソルとは違ってゴブリンの姿から大きく変わるようなことはない。

 勿論、能力自体は大幅に変わっているので、普通の冒険者にとっては注意すべき対象になるのだが。

 とにかく、変化種自体も進化していると認識されていることに違いはない。

 

 ソルに続いて、大まかなステータスを見ることができるシルヴィアも頷いていた。

「確かに、鬼人系は一体も見かけませんでしたね」

「うん。それが浮遊島という環境のせいなのか、もしくはアマミヤの塔が特殊なのかは分からないけれど・・・・・・」

 考助がそう言って考えるような顔になると、ここでソルが珍しく考助が答えを出すよりも先に言った。

「ひとつだけ気になったことがあるのですが、いいでしょうか?」

「うん。なに?」

 ソルからこういうことを言い出してくることは、非常に珍しい。

 考えを中断されてしまったが、怒るようなことでもないので、考助は素直に視線をソルへと向けた。

 

「私は、ゴブリンと直接会話できるわけではありませんが、なんとなく言いたいことが分かるときがあります」

「うん。確か前にもそんなことを言っていた気がするね」

 だいぶ前になるが、そんなことを話していたような記憶がよみがえって、考助はソルに向かって頷いた。

「それで分かったのですが、ここにいる者たちは、水のことを気にしているようでした」

「水・・・・・・水ね。なるほど。ソル、それ、多分ビンゴかも知れないな」

 ソルの言葉を聞いた考助は、すぐにあることに思い当たってそう言った。

 

 そして、そのことに気付いたのは考助だけではなく、一緒に話を聞いていたフローリアも同じだった。

「――神水を飲んでいるかどうかの差か?」

「ソルが見たという態度だけを見れば、そう考えてもおかしくはないだろうね。まあ、気にしているというのが、進化に関することかどうかまではわからないけれど」

 あくまでもソルはその場にいるゴブリンたちの感情を読み取っただけで、それが進化に関係していることは分からない。

 水の違いで進化に差が出るというのはこれまでにもあったことなので、十分に考えられる理由の一つとして上げて良いはずだ。

 

 ただし、水の違いで出る進化の差は、あくまでもアマミヤの塔にいる眷属との違いでしかない。

 野生のゴブリンと眷属のゴブリンで進化の数に差が出ているのは、神水のお陰ということもあるだろうが、それ以外にも眷属であるかどうかという理由があるのではないかというのが考助の考えだった。

「眷属であるかどうかが、そこまで重要になるのか?」

 敢えてその疑問を口にしたフローリアに、考助は頷きながら言った。

「まあ、単純な理由だけれどね。誰かに見られているかもしれないと常に思えることは、その個体がどれだけ頑張れるかにつながる・・・・・・のだと思うよ」

 考助はそんなことを言いながら、ソルを見ていた。

 

 その理由を察することができたシルヴィアとフローリアは、なるほどと頷くのであった。

久しぶりに進化関係の話題でした。

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