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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(16)梅干しの完成

 しっかりと梅の実を持ち帰った考助は、管理層のキッチンへと直行した。

 考助に食事を作らせることをほとんどしないミツキが、忠犬よろしく黙って着いていくのを見ていたフローリアとシルヴィアが、同時に顔を見合わせていた。

 管理層ではちょっとした珍事といえる事態だということは、考助とミツキの様子を見ればわかることだ。

 ちなみに、コウヒはこの時はメイドゴーレムのメンテナンスのために、作業場にこもって作業をしていたので、なにがあったのかは気付いていなかった。

 

 それはそれとして、キッチンに入った考助は、さっそく収穫してきた梅の実を取り出して、さらに梅を漬けるための容器と塩を用意した。

 なにを作ろうとしているかといえば、勿論梅干しだ。

 考助は、一口に梅干しといってもいくつも種類があることは知っているが、今回作るのは単純に塩漬けだけをしたものである。

 というよりも、ほかの梅干しの作り方はよく覚えていない。

 そのため、まずはシンプルに塩漬けをすることになった。

 乱暴な言い方になるが、塩だけで作る作り方であれば、よほどのことばない限りは失敗はしない――はずだと考えてのことだ。

 

 とにかく、取ってきた梅干しを次々と水洗いをして行く。

 結構な量を取ってきたので、一度では洗いきれなかったのだ。

 当然というべきか、途中からはミツキも手伝っていた。

 水洗いを終えた考助は、うっすらと記憶に残っていた手順でそのまま水をふき取って行った。

 

 そして、取ってきた梅の半分の水洗いを終えた考助は、ここで思い出したような顔になって言った。

「あ、しまった。容器!」

 考助は、すっかり漬け込むための容器のことを忘れていたのだ。

 普段料理をしないので、根本的なところを忘れることがある。

 

 そこですかさずフォローをしたのはミツキだった。

 これほど大量の食材を用意しておいて、いきなり全部を食べるわけではないだろうと予想していたミツキは、きちんと容器のことも考えていたのだ。

 といっても、どこかに取りに行ったとかではなく、アイテムボックスの中に適当なものがないかと見繕っていたのだ。

「――考助様、これは?」

 そう言ってミツキが取り出したのは、ジャムとかを入れておくための容器だった。

「うーん、重しが入るかどうか・・・・・・まあ、いいか」

 ミツキが用意した入れ物は、重しを入れるための口が小さい気もしたが、とりあえず急場の物として採用することにした。

 ついでに、梅の実を入れている途中で思い出したのだが、袋に水を入れて重し代わりにすることを思いついたので問題にはならなかった。

 

 

 考助が一通りの作業を終えて満足気に一息を着いたところで、フローリアが話しかけてきた。

「それで? これは一体なんだ? いや、食べ物だということはなんとなくわかるが」

「うーん。それはできてからのお楽しみで。まあ、上手くいくかどうかも分からないしね」

「そうか。それなら楽しみにしておくか」

 考助がにんまりと笑いながらそう言うと、フローリアはあっさりとそう返した。

 食べ物の場合、口で説明を受けるよりも実際に食べた方が早いということは、これまでの経験からもよくわかっているのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そんなこんなで初めて梅干しを漬けてから一週間ほどが経った。

 初めて漬けた梅は、しっかりと天日干しを終えて、考助にとっては懐かしい匂いを出すようになっていた。

 少なくとも見た目は満足が行く結果になったことに、考助は満足げに頷きつつ慌てて保存用の容器へと仕舞い始めた。

 

 そして、最後の一個を残して全ての梅干しを仕舞った考助は、残した梅を手に取って、さっそくとばかりにそれを口に放り込んだ。

「ん~~~~~~・・・・・・!!!?」

 梅干しの独特の酸っぱさを舌で感じ取った考助は、思わず身を縮めた。

「コウスケ・・・・・・!?」

 横でそれを見ていたフローリアとシルヴィアが、少し驚いた顔になっていたが、考助はそれに構わず続けて言った。

「酸っぱい! でも、美味しい! 初めてにしては上出来上出来。これは何か月か後が楽しみだねえ」

 先のことを考えて、考助はにんまりと笑った。

 

 その反応を見ていたフローリアは、首を傾げながら考助に聞いた。

「酸っぱい物なのか、これは?」

「まあ、そうだね。・・・・・・あ、食べるのは構わないんだけれど、好き嫌いがはっきり分かれる物だから、そんなに無理して食べなくてもいいからね。最初は少しだけ食べたほうがいいかもね」

 早速、容器に手を伸ばそうとしているミツキとシルヴィアに、考助はそう釘を刺した。

 これまで教えてきたものとは違って、梅干しが癖の強い食べ物だということは、十分に理解しているのだ。

 

 

 考助の忠告を受けて、それでもきちんと味見をすることを選んだシルヴィアは、言われたとおりに最初は少量だけを口に入れた。

「!? ・・・・・・!!!!」

 梅干しを食べたシルヴィアの反応は、どう控えめに見ても百面相といった様子になっていた。

「――――これは、確かに癖が強いですね」

 しばらくしてからそう答えたシルヴィアは、頷いていた。

 ただ、その顔は好意的な色になっている。

 

 さらに、シルヴィアの様子を見ていたフローリアも、同じように梅干しを口にした。

 その反応といえば――、

「・・・・・・なんだこれは・・・・・・」

 と、分かり易い顔になっていた。

 

 その顔を見れば、考助でもフローリアの口には合わなかったということが分かった。

「まあ、同郷の人でも苦手な人は苦手な食べ物だからね。無理に食べることはないと思うよ。僕はこれが好きだから作ったけれど」

「確かにそうですね。好みは分かれると思います」

 シルヴィアは、そう言いながら種をきれいに取り除いて、残りの梅の実を口に入れた。

 一つ食べ終わるころには梅干しの独特の味に慣れたようで、シルヴィアは割と平然と受け入れている。

 

 対照的にフローリアは完全に苦手意識がついてしまったようで、一口食べた後は考助に譲っていた。

 考助も無理に食べさせるつもりはないので、素直にそれを受け取って食べていた。

 本来は二つも三つも一気に食べるものではないと分かっているのだが、久しぶりに食べたのだからこれくらいはいいだろうと心の中で言い訳をしていた。

 

 

 こうして出来上がった梅干しだが、管理層の食卓には毎回出されることになる。

 ただし、考助が予想していたように、好みはきっぱりと分かれていて、手を出さない者は一口食べたあとは一切手を付けようとしなくなった。

 ちなみに、この後梅干しはミツキを筆頭に何人かの手によって漬けこまれて味の差も出るようになり、考助にとってはうれしい状況になるのであった。

当然ですが(?)、好みははっきりと分かれます。

ちなみに、作者は梅干し好きですw

勿論、味付けによって好みの差はありますが。

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