(13)調査の最中に・・・
現在、狼だけがいる拠点は第七、九、四十七、八十一層の四階層になる。
第八十三層にも狼はいるが、狐と同居しているので別と考える。
なぜ今回に限って第八十三層を別にするかというと、単純に各階層の仕組みを考えるのに、別の要素(今回は狐)があったほうが邪魔だからである。
狼の眷属がいるという同じ環境で、どういう変化をするかを見比べたかったのである。
そして、そんな細かい(?)条件を指定してまで比較したかったことというのは、階層全体の魔物の強さである。
眷属が魔物を狩り続けると、最初のときと比べて強い魔物が出て来るということは、最初の頃から結論付けていた。
ただ、その強さがどこまで強くなるのか、というのが今回の見るべきポイントだ。
だからこそ、狐という別の要素が混じっている階層は比較対象から外したのである。
――というわけで、その結果は。
「うーん。やっぱり、どう考えても限界があると思ったほうがいいのかな?」
今まで過去からつけている記録を見ていた考助は、そんなことを言いながら首を振った。
当初は魔物がどんどんと強くなっていたのだが、数年もしないうちにその伸びは滞っていて、現在ではほとんど変わらない状態になっている。
「見ているのは実際の魔物の数ではなく、討伐で得た神力なんだろう?」
考助の呟きに反応して、フローリアがそう聞いてきた。
そのフローリアに、考助は頷きながら返した。
「まあ、そうなんだけれどね」
「であれば、討伐せずに放置されている可能性もあるのではないか?」
フローリアの問いかけに、考助は同意した顔でもう一度頷いた。
「確かにその通りなんだけれどね。・・・・・・でも、その可能性は低いと考えているよ」
「ほう? その理由は?」
一度は同意しながら、それでも否定してきた考助に、フローリアは興味がありそうな視線を向けた。
その視線を受けて、考助は書かれている数値をもう一度見ながら言った。
「そもそも、目視でも一応確認しているからね。もし討伐されずに残っているんだったら、もう少し同じランクの魔物がいてもいいはずだよ」
目視というのは、飛竜を使っての空からのものと、実際にフィールドを歩いての確認両方である。
考助は、歩きの方はさすがに全部を見渡すというわけにはいかないが、空からの確認はある程度正確だと考えている。
すでに同じ調査を何年も繰り返してきているので、すでに慣れた調査ということもある。
それらの結果から、拠点にいる狼たちが討伐をさぼって(?)いるのではなく、階層全体で見て魔物のランクの上昇が止まっていると考助は判断していた。
一通りの説明を聞いたフローリアは、考えるような顔になっていた。
「わざわざ強くなるようになっているのに、なぜ成長が止まるんだろうな? いや、魔物が強くなることを成長と言っていいのかはわからないが」
「いいんじゃない? 眷属が対処できなくなるくらいに強くなるならともかく、そうじゃないんだし」
そんな前置きをした考助は、さらに続けて言った。
「まあ、それはともかく、成長が止まる理由か・・・・・・。うーん。いくつかあると思うけれど、どれが正解かはわからないな」
「ほう? その理由とは?」
フローリアはそう問いかけつつ、考助に先を続けるように促した。
それを受けて、考助は一度頷いた。
「例えば、塔全体での魔物の強さの閾値が決まっているとか、上層を超えるのにはなにか条件があるとか。――ほかにも思いつくことはあるけれど、可能性があるのはそれくらいかな?」
今考助が挙げたのは、最初に思いついた理由だった。
とはいえ、それ以外の可能性も全くないわけではないと考助は考えている。
それを調べるには、やはりアマミヤの塔だけで考えるのは無理がある。
というわけで、折角他の塔も支配しているのだから、そちらも含めてこれから調査をしようかと考えているのだ。
考助の話を聞いたフローリアは、納得顔で頷いた。
「なるほど。それでまずは南西の塔から、というわけか」
フローリアがこの場――アマミヤの塔の制御部屋にいたのは、ただの偶然ではない。
考助に呼ばれて来ていたのだ。
考助は、今までの結果から同じようなデータが出て来ると考えて、前もってフローリアを呼んでいたのだ。
フローリアの言葉に、考助は頷き返した。
「まあ、そういうことだね」
「理由はわかったが、一つだけでは意味がないのではないか?」
そもそもは、複数の塔を見比べるというのが考助の意図のはずだ。
それが、今回はフローリアしか呼んでいないので、それでは目的が達成できないのではというのがフローリアの疑問だった。
「そうなんだけれどね。まずは先入観なしに一つだけを見てみようかと思って・・・・・・と、いいつつ、なんだかんだで今までもチェックはしているんだけれどね」
塔の法則を知るための調査は、現在では長い時間をかけて調べるようになっている。
当然その間、アマミヤの塔だけで調査を行っているわけではなく、ほかの塔の結果も見比べているのだ。
階層の魔物のレベルが上がるというのは、割と初期の頃に見つけた法則なので、これまでもずっと見てきている。
そのため、他の塔でのチェックも同じようにしているのが現状だった。
「まあ、考助ならそうだろうな。それで? 今回わざわざ私を呼んだ理由は?」
「南西の塔のデータを見て、ちょっと気になることがあってね。その確認の意味も含めて」
「あの塔でか? ・・・・・・ここ数か月は、特に変わったことはやっていないと思うが?」
首をひねりながらそう言ってきたフローリアに、考助が頷き返した。
「あ、やっぱりそうなんだ。となると、やっぱり気になるな・・・・・・」
考助はそう言いながら首をひねった。
考助が今手に持っているのは、南西の塔で調査したときに書いてきたメモだった。
「なにかあったのか?」
「うん。強さという意味ではあまり変わっていないんだけれど、妙に数が増えている・・・・・・気がするんだよね。しかも、その魔物がまとまって動いている」
「・・・・・・おい。それは、まさか?」
少し驚いたような顔になっているフローリアに、考助は頷いて見せた。
「そう。多分、氾濫が起きる前兆とかそんな感じなのかもしれないよ。ちゃんと調べないと分からないけれど」
魔物の強さの変化を調べていたら、別の現象の原因らしきものを突き止めた。
それが氾濫の発生原因とすれば、これまで見つけられなかった氾濫の初期要因が見つけられたかもしれない。
それは、魔物の氾濫に苦しめられてきたセントラル大陸の者たちにとっては、最上の朗報となり得る。
思ってもみなかった発見に、考助も少しだけ動揺していた。
考助の話を聞いているフローリアは、言わずもがなだ。
とにかく、まずは現地に向かってみようということで、考助はフローリアを連れてその前兆が起こっているらしき階層へと向かった。
考助が一度アマミヤの塔に戻ったのは、自分よりも詳しいフローリアの話を聞きたかったからである。
そして、その結果、やはりいま起こっている現象は、恐らく氾濫の前兆ではないかと想像できた。
ただし、結論がはっきりしなかったのは、結局リーダー種が出てこなかったためだ。
それでも前兆だろうということになったのは、明らかに魔物の動きが統一されていたためだ。
リーダー種が発生する前に、魔物がそういった動きをするということがわかっただけでも、十分な成果だろうという結論が出たところで、今回の現象は落ち着きを見せるのであった。
ついに捕まえた氾濫の前兆。
・・・・・・ですが、この話はまだ続きます。




