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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(8)ソルの思い

 鬼神姫であるソルは、アマミヤの塔にあるゴブリンの階層から離れて管理層で過ごすようになっていた。

 ただし、ほかの者たちがいるところでソルが口を開くことはほとんどないので、考助の嫁さんズとその子供たち以外には、変わった亜人を連れていると思われている。

 それに加えて、ソル自身は転移門の機能を使って、修行と称してアマミヤの塔の各所に出入りをしながら魔物の討伐に励んでいる。

 そのため、考助と話をする内容のほとんどは、どれそれの素材を取ってきたというものになっている。

 塔の階層で魔物を狩る分にはほとんどデメリットも発生しないので、考助はソルの好きに行動させている。

 あまり多く狩りすぎると、階層全体の魔物のレベルが上がるという問題が出るが、ソル一人で狩りができる数であればそこまでのことにはならない。

 それもまた、ソルが狩りを続けていることで発見できたことと言えるだろう。

 

 そして、この日も狩りに出ていたソルは、考助を見つけて呼び止めていた。

「コウスケ様。いまお時間は大丈夫でしょうか?」

「うん。大丈夫だけれど・・・・・・また素材の清算かな?」

「はい。そうです」

 ソルは、時間を見ては自分が狩った魔物の素材を渡してくるので、すでに考助にとってはおなじみの光景である。

 

 自分に向かって頷いてくるソルに、考助はふと思い出したように言った。

「ああ、そうだ。清算が終わった後でいいから、時間をもらえるかな?」

「はい。それはもちろん構いませんが・・・・・・?」

 考助からそんなことを言い出すのは珍しいので、ソルは少しだけ不思議そうな顔になって首を傾げた。

「いや、別に大した用事じゃないよ。たまには一緒に里を見に行くのもいいかと思ってね」

 この場合の里というのは、アマミヤの塔にあるゴブリンの里のことである。

「そういうことですか。それでしたら是非お願いします」

 ソルもたまには様子を見に行っているのだが、考助と一緒というのはなかなかないので、いい機会になる。

 考助からのその申し出に、ソルはすぐに同意して頷くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 現在のゴブリンの里は、中央に職人が集まった集落がありその周辺に田畑を耕している農家があるといった造りになっている。

 最初の頃は掘っ立て小屋よりはましといった程度だった建築物も、今ではしっかりとした建物が並んでいる。

 さすがにガラスまではないが、紙はあるのでふすまもどきの出入り口は各家に存在していた。

 ちなみにそれらの家は、アマミヤの塔の機能で出したとある建物を参考にして作られている。

 元がゴブリンだけに、ゼロから新しい物を作りだすのは難しいのだが、ある物を真似して作るのは、鬼族たちにも出来るのだ。

 

 そんな里の様子を一回りした考助は、少し後ろを着いて歩いていたソルに話しかけた。

「随分と順調に生活できているみたいだね」

「はい。進化の度合いによるおかしな差別もなさそうです」

 ソルはそう言いながら、ただのゴブリンと進化している者たちをじっと観察していた。

 ゴブリンの知能が低いのは、自分自身も元はそうだったソルはよく知っている。

 だからこそ時には暴力という手段に出ないとだめだということもだ。

 

 だからといって、知能の高い側が一方的に暴力をふるっていいわけではない。

 そのさじ加減は非常に難しいところなのだが、少なくとも考助と一緒に見て回った範囲では、咎めるようなことは起きていないように見えた。

「詳しくは幹部たちに聞かないと駄目でしょうが・・・・・・とりあえずは安心ですね。・・・・・・どうかしましたか?」

 里の様子を見ながらそんな感想を言ったソルを見て、考助は少しだけ笑い顔を浮かべていた。

 それを見つけたソルが、不思議そうな顔になって首を傾げた。

 

 そんなソルに、考助は首を振りながら言った。

「いや。以前のソルであれば、言うことを聞けない者は切って捨てるのが当然だと言いそうだったんだけれどなあと思っただけだよ」

「なっ、そ、そんなことは・・・・・・」

 ないと言おうとしたソルだったが、以前の自分を振り返って、そこで言葉を止めてしまった。

 思い当たることが多々あったのだ。

 

 考助から揶揄うような視線を向けられたソルは、頬をわずかに赤く染めながら少しだけ早い口調でさらに続けて言った。

「そ、それは、人の営みを多く見るようになって、弱者に対する余裕も必要なのだと分かったからで・・・・・・」

「わかったわかった。揶揄ったのは謝るから、もうそれ以上は言わなくてもいいよ」

 必死になって言いわけをしてくるソルに、考助は口元を右手で抑えつつそう答えた。

 ソルは、管理層に来て、さらに外の街並みを見るようになってからは、いろいろなものに対する見方が変わってきている。

 その変化はソルにとってもいいものだというのが、考助の現在の感想だった。

 

 

 里を一通り見終わった考助とソルは、中央にある建物で幹部たちと顔を合わせていた。

 そこでは、これまでの経過や里の状況を細かく報告がされている。

 その報告が一通り終わってから、考助はソルを見ながら言った。

「緩やかではあるけれど、ちゃんと目標に向かって進んでいる感じかな?」

「そうですね。出生数はともかくとして、順調に生き延びる数は増えているようです。それに、進化している個体が多くなっているのは、朗報ですね」

 ゴブリンはどうしても知能が低いところがあるので、なにをするにも時間がかかってしまうところがある。

 それはそれで使いどころはあるので構わないのだが、やはり文明を築こうと思えば、高い知能というのはどうしても必要になってくるのだ。

 

 ソルは、ゴブリンの里をただの集落だけで終わらせるつもりはない。

 ゴブリンを基本とした鬼族で、文明(の礎)のようなものを築けないかと考えているのだ。

 それは壮大な目標のようにも思えるが、いつか必ず成し遂げてみせるという思いがソルの根底にある。

 その目標は、いつか考助への恩返しにもなればいいという考えから生まれたものだった。

 だが、ソルはそれを考助に直接言うことはないだろうと、心の底で確信しているのであった。

お久しぶりの登場、ソルでした。

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