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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(7)ヴァンパイアの移動手段

 考助が、新拠点での畑仕事が終わって、管理層で寛いでいた時のこと。

 顔を見せたシュレインが近寄ってきてこんなことを聞いてきた。

「考助は、いろいろな魔道具を作っていると思うが、移動手段に関するものは作らないのかの? 勿論、例の馬なし馬車は別じゃぞ?」

 一瞬なにを言われたのか分からないという顔をした考助だったが、シュレインの表情の中に真面目な色を見つけて、少し考えてから答えた。

「作らないというよりも、いまとなっては作る意味がないというのが正しいかな?」

「作る意味がない? それはどういう・・・・・・なるほどの。そういうわけか」

 一瞬不思議そうな顔になったシュレインだったが、すぐに理解できた顔になって頷いていた。

 

 そもそも考助の場合、移動手段に困るということがほとんどないのだ。

 数十キロから数百キロ程度の移動であれば飛竜を使えば済むことで、さらにそれ以上の距離を移動する場合は、天翼族に頼めばいい。

 その世界のどの手段よりも早く移動できる方法を持っているので、敢えて新しく魔道具を作る意義を感じないのだ。

 最近では、魔道具は人の生活を便利にするための道具だと言い切っている考助が、自分が使わないのにただ儲けを出すためだけに新しい魔道具を作るはずがない。

 

 納得した顔になって頷いているシュレインを見て、フローリアが興味をひかれたような顔になって聞いた。

「突然そんなことを聞いてきて、なにかあったのか?」

「あったといえばあったのじゃが、まあ、どうしても入用というわけでもないものがあっての」

 そう言いながらなんとも微妙な顔になったシュレインを見て、考助は首を傾げた。

 その中途半端な言い方は、シュレインらしからぬセリフだと思ったのだ。

 

 わざわざ前置きをして聞いてきたということは、なにかしらの移動手段が欲しいのだと理解した考助は、改めてシュレインを見ながら聞き直した。

「なにか新しい移動手段でも欲しいの? シュレインも飛竜には乗れるはずだよね?」

「いや、欲しいのは吾ではないのじゃ」

 相変わらず歯切れの悪いシュレインに、考助は苦笑しながら言った。

「なにがなんでも作りたくないというわけじゃないから、とりあえず理由だけでも教えてくれない?」

 考助のその言葉に、シュレインはそれならと話し始めた。

 

 

 それからシュレインが語ったことによると、要するにヴァンパイアが世界中に散っている他の者たちを探す際に足が欲しいということだった。

 ヴァミリニアの一族が塔で生活をするようになってすでに二十年以上が経過している。

 その間、ずっと仲間探しを続けていたが、その探索範囲は世界中に広がっていて、その移動距離が問題になってきているのだ。

 それらしい噂を聞いても、距離が遠すぎていくのを断念することも何度もあったそうだ。

 そこまで遠くに行くよりも、ほかに人員を割いた方が集めやすかったということもある。

 そのお陰で塔の階層で生活をしているヴァンパイアは順調に数を増やしているが、ここにきてそろそろ翳りが見えているのだ。

 

「――そもそも里で生活する者の数を増やすことが目的ではないからそれはそれでいいのじゃが、もしかしたら今まで行けなかったところにいるかも知れないと考えると、な」

「うーん。なるほどね」

 考助もシュレインの言いたいことを理解して納得の顔になった。

 プロスト一族のときのように、考助自身が探しに行くというのならともかく、そこまでするほどでもないという噂しか集まっていないということもある。

 それに、そもそも考助自身に動いてもらうのは気が引けるというのが、ヴァンパイアの大多数の意見なのである。

 シュレインにとってもそれは同意できる意見だったので、だったら長距離移動できる魔道具があればいいのでは、ということになったのだ。

 

 シュレインの話を聞き終えた考助だったが、少し考えるような顔になって言った。

「そう言うことなら別に魔道具を作ること自体は問題ないんだけれど・・・・・・」

 そう言って言いよどんだ考助を見て、シュレインは少しだけ暗い顔になった。

「やはり駄目かの?」

「いや、問題はないんだよ。そうじゃなくて、別に移動手段だったら魔道具に頼らなくてもいいんじゃない?」

 考助がそう言うと、シュレインは意味が分からないという顔になった。

 シュレインにとっては、考助=魔道具というイメージがついてしまっているので、ほかの方法と言われてもとっさに思い浮かばなかったのだ。

 

 シュレインのその顔を見た考助は、今度はフローリアに水を向けた。

 考助からの視線を受けたフローリアは、一度頷いてからシュレインを見て言った。

「コウスケは、天翼族のように、ヴァンパイアも飛竜を使ってはどうかと言っているのだと思うぞ?」

「飛竜を・・・・・・!?」

 フローリアの言葉に、シュレインは驚いた顔になって考助を見てきた。

 

 その顔には、まさかヴァンパイアが飛竜を使うことになるのかという思いもあるが、それ以外にもあった。

 それがなにかといえば、すでに塔で生活をしていると広まっているヴァンパイアが飛竜を使えば、それが別の意味で目立つことになるのではないかという危惧だ。

 現人神に匿われるようにして生活しているヴァンパイアが、いきなり飛竜を乗りこなし始めれば、そこから飛竜も塔で飼われているのではと推測されるのは当然のことである。

 もし飛竜が自在に乗りこなせる術があると分かれば、各国が騒めき立つことになるのは当たり前のことだ。

 

 シュレインの顔を見てその懸念を理解した考助は、肩をすくめながら答えた。

「ほかに知られるとまずいのは、魔道具を作った場合も同じだよ。どちらにしても目立つからね」

「それは、確かにそうじゃの」

 あっさりとそう言ってきた考助に、シュレインは無念そうな顔になって言った。

 その顔を見て、フローリアが苦笑しながら首を左右に振った。

「シュレイン、早とちりをするな。別にコウスケは駄目とは言っていないぞ? というか、飛竜を使うと言ったのはコウスケじゃないか」

 フローリアのそのセリフに、シュレインはハッとした表情になった。

 まさしくフローリアの言う通り、シュレインは考助に断られたのだと早とちりをしていたのだ。

 

 シュレインのその姿を見て、考助はもう一度苦笑をしながら言った。

「フローリアが言った通りなんだけれどね。駄目だと言うのを、わざわざ提案をしたりはしないよ」

「・・・・・・済まぬ」

「いや、謝る必要はないから。別に、責めているわけじゃないし。それよりも、飛竜の件はどうする?」

「・・・・・・少し考えさせてくれないかの」

 さすがに移動手段として飛竜を使うとなれば、飼育のことも含めていろいろと確認することがある。

 

 シュレインが勝手に決めて押し付けるわけにはいかないということはわかっているので、考助はすぐに頷いた。

「勿論、いいよ。別に強制でもないから、使うか使わないかは好きに決めてね」

「わかったのじゃ」

 考助の言葉にシュレインは頷いてからヴァミリニアの里へと戻った。

 

 

 そして、この話し合いの数日後、里の者たちと話し合いをしたシュレインは晴れやかな表情で、飛竜を里に迎えると考助に宣言するのであった。

途中まで書いて、どこかで同じ話を書いた気が・・・・・・と、慌てて調べたら天翼族だったのでホッとしました。

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