(4)調査の結果
アンドニから話を聞いた考助は、さっそくリクを呼び出した。
工芸部門の部門長だったダレスは、既に引退をして悠々自適な生活を送っている。
そこから新しい人員は紹介されているが、あまり馴染みがないのと、異様に考助に対して緊張していたため変な圧力ととられかねないので、呼ぶのはやめておいた。
なんだかんだで、リクに伝えるのが一番いいのである。
ちなみに、考助が直接クラウンまで行かないのは、どんなにばれないようにしたとしても、リクと話をしたというだけで目立つのが確定しているからだ。
そのため、あまりクラウン本部で会うようにはしていないのである。
というわけで考助は、管理層に来たリクにアンドニの話をした。
そして、その話を聞いたリクは、
「――なんだそれは。そんなことになっているのか」
「信じられないと言いたいのは分かるけれど、アンドニはそんなことで嘘を言うような人じゃないよ」
「わかっているさ。俺だって直接会ったことがあるからな」
リクはそう言いながら苦虫を噛み潰したような顔になった。
アンドニが嘘を言っているとは思えないが、クラウンの一部門でそんなことが行われているとは思いたいくないといったところなのだろう。
リクのその顔を見て、考助は苦笑しながら続けて言った。
「どういう調べ方をするのかは任せるけれど、アンドニはこっちで引き取るから穏便に済ませてね」
「穏便かよ・・・・・・」
考助の言い方に、リクは苦笑しながらも頭を抱えた。
内部告発をしたのでいづらくなるというのはよくわかるのだが、その言い方はどうかと思ったのだ。
リクは、すぐに顔を上げて苦笑いをしながらも頷きながらいった。
「それは構わないが、アンドニはどうするんだ? かなりいい腕だったよな?」
その顔を見れば、リクがもったいないと考えていることはわかる。
「うーん。アンドニ次第だけれど、孤児施設でひきとってもいいとは思っているかな? 人が増えれば、そのまま魔道具を作るところにしちゃってもいいし」
マドサクとしては一度クラウンに統合させてしまったが、もし規模が大きくなれば、そのままクラウンとは関係のない組織として運営を続けても構わない。
全てはアンドニの答え次第になるが、実績があるだけにそこまで難しいことにはならないはずだ。
問題があるとすればクラウンとの関係くらいだろうと続けた考助に、リクはため息をついてから頷いた。
「そこまで考えているんだったら、あとは調査次第だな。・・・・・・できれば残ってほしいと言いたいところだが」
「アンドニは奴隷だからね。それを言ったら命令になっちゃうよ?」
「わかっているさ。父上の奴隷にそんな無理を言うつもりはない」
アンドニは奴隷から解放できるほどの稼ぎがあるにも関わらず、未だに開放を望んでいない。
だからこそ、主人である考助のところにまず相談にきたともいえる。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
考助とリクが話し合ってから一週間後。
リクが疲れたような表情を浮かべながら管理層へとやってきた。
「――随分と疲れた顔をしているね」
考助が苦笑しながらそう言うと、リクはため息交じりに頷き返した。
「ああ。・・・・・・まったく、信じられないぜ、あいつら」
「そんなに酷かったんだ」
リクの答えからすぐにそう理解した考助は、同情するような視線を向けた。
それに頷き返したリクは、さらにもう一度大き目のため息をついてから続けて言った。
「ああ。正直ここで告発がなかったら、本気で危なかったかもな。組織として」
「あらま。それはご愁傷様」
「むしろ、アンドニがあそこまでなるまで言えなかったのも問題だとも言えるが・・・・・・さすがにそれは酷過ぎるか」
アンドニは、あくまでも自分が奴隷であるという立場を貫いている。
それが良いことか悪いことかは別として、考助のところまで告発しにきたということは、本当にギリギリだったと言えるのかもしれない。
そのことを理解した考助は、リクと同じようにため息をついてから言った。
「本当はそんなこと気にせずに、どんどん言ってほしいんだけれどね。――まあ、今はそれはいいか。それより、作成部署はどうなったの?」
「ああ。本当なら一度解体・・・・・・と言いたいところだったが、皆に泣きつかれてそれは諦めた」
よほどのことがあったのか、リクが吐き捨てるようにそう言ってきた。
それを苦笑しながら見ていた考助は、先を話すように視線だけで促した。
「それで?」
「一度大幅に人員の整理が行われる。ああ、アンドニはそれに紛れて一緒に退職という扱いになるはずだ」
本来は、退職ということになれば不名誉な扱いなのだが、それで考助との奴隷契約が終わるわけではない。
むしろ、本人の希望に沿う形になったといえる。
「そう。それならいいけれど、そっちの組織はちょっと心配だね」
「心配なんてもんじゃないぞ。変なエリート意識のようなものを持ったせいで、ほかにも影響が出始めていることがわかったからな」
「あらまあ。それは駄目だ」
多くの人員を抱える大組織の宿命とはいえ、いつまでも病巣(?)を抱えていては大問題になる。
今回はそんな状態の一歩手前まで来ていたのだ。
考助の言葉に頷いてから、リクはさらに続けて言った。
「本当にアンドニには感謝だな。下手をすれば、次の代どころか、俺の代で終わるところだった」
今回の結果で、それくらいの危機意識をリクが持ったということだ。
クラウンそのものがなくなるとは思わないが、それぞれ分散した組織にはなっていたかもしれない。
話を聞いた考助は、リクが魔道具作成部署を問題部署として切り捨てると判断するのも無理はないと思った。
「エリート意識を持つことが完全に駄目とは言わないけれど、厄介であることは間違いないよねえ」
「だな。しかも、本人たちが駄目だと全く思っていないところが、なお厄介だ」
だからこそリクは、部署そのものをなくそうとまで考えたのだが、残念ながら(?)それはできなかった。
とりあえず、統括としての怒りは見せることができたので良かったと考えることにしたのである。
さすが、王族のひとりとして英才教育を受けてきただけあると、他人事のように考えていた考助に、リクが呆れたように言った。
「言っておくが、父上からの報告がなければ気付けなかったことだからな?」
「まあ、そうかもしれないけれど、自分にはそんな判断はできないよ?」
当たり前のようにそう言ってきた考助に、そういうことじゃないとリクは考えていたが、それを言葉にすることはなかった。
考助の自己評価の低さは、家族全員が認めるところなのだ。
とにかく、アンドニの告発で始まった魔道具作成部署の問題は、これで一応の決着がついたということになる。
下手をすればクラウンそのものが大きく変わらざるを得なかった可能性もあっただけに、リクとしては一安心といったところだ。
とはいえ、これはまだ始まりで、今はクラウン全体の内部調査も始まっていた。
その結果次第では、さらに大きななたが振るわれる可能性も残っている。
だがそれは、考助にとっては直接関係することはなかったのであった。
クラウンもだんだんとほころびが出てき始めました。
ただ、今回の件で、リクはますますトップとしての名声を得ることになったともいえます。




