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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(3)人気部署ゆえの弊害

 管理層に元魔道具作成部隊マドサクのアンドニが訪ねてきていた。

 マドサクにいた時にはまだ二十歳前の若者だったが、すでに彼も三十を越して苦み走った大人の顔になっている。

 老けただけということを言うような者は、管理層にはいないので、おじさん呼ばわりされることもない。

 それはともかく、久しぶりに管理層にきたアンドニを考助は暖かく迎え入れていた。

「――本当に、久しぶりだね」

「突然来てしまって申し訳ございません」

「いや。良いんだよ。ちょうど時間を持て余していたからね」

 相変わらずの真面目なその様子に、考助は笑いながら手を振った。

 

 アンドニがいたマドサクは、現在ではクラウンの工芸部門に統合されている。

 アンドニは、その部署のトップに近い地位についているはずだった。

「それで? なにかあった?」

 暇ではないはずのアンドニがわざわざ顔を見せに来たのだから、なにかあると考えるのは当然のことだ。

 

 考助の問いかけに、アンドニは少しだけ間を空けてから話し始めた。

「いまはマドサクも統合されて第五層にあるのですが、以前のように別部門として独立できないでしょうか? クラウンとしてでなくてもいいです」

「・・・・・・どういうこと?」

 突然の申し出に、考助は眉をひそめて聞き返した。

 工芸部門の魔道具作成部署で上に立っているアンドニが、そんなことを言い出すということは、クラウンでなにかあったということだ。

 

 そう考えて険しい顔になった考助に、アンドニは慌てて手を振った。

「いえ、すみません。クラウンで悪い扱いになったとかではないのです。ただ、ちょっと自分で考えているのと違ってきたというか・・・・・・」

「うーん・・・・・・?」

 考助は、アンドニがなにを言いたいのかわからずに首を傾げた。

 

 ついでに、これはもっときちんと話を聞かないと分からないだろうと先を促すことにした。

「いまいちよくわからないから、ちゃんと話をして。というか、僕が話の腰を折っているから悪いのか」

 アンドニは考助が言葉を出せば、それに対応しようとして話を切ってしまう。

 それであれば、一度全部話を聞いてしまったほうがいいと、いまさらながらに判断した。

 

 考助に先を促されて、アンドニが話を続けたところによると、要するに次のようなことだった。

 やっている業務は、隔離されていたころとなんら違いはない。

 働いている人員も、当初はマドサクからそのまま移籍したので、和気あいあいとしていた。

 ところが、マドサクが人気部署となり、アンドニのような奴隷ではないところからも人を取るようになってから雰囲気が変わってきたというのだ。

 

 それを聞いた考助は顔をしかめながら聞いた。

「奴隷とか元奴隷のひとが差別されるようになった?」

 考助がそう聞くと、アンドニは慌てて首を左右に振った。

「いいえ、違います! そんなことはありません。そうではなくて、やっぱり以前の時とは空気が違っているというか、一体感がないという感じなのです」

 以前は全員が奴隷で、揃って過酷な状況から抜け出そうと必死だった。

 実際には過酷なんてことはなく、それどころか他にはない技術までも身に着けることができる場所だったのだが。

 とにかく、皆と同じ目標に向かって進める場所というのは、アンドニにとっては居心地のいい場所だったのだ。


 そう言ったアンドニの言葉を今一度かみしめた考助は、少しだけ首をひねって答えた。

「今は違う?」

「違うというか、そもそもの目的が変わっているというべきでしょうか」

 クラウンの魔道具作成部署は、今では花形部署の一つとなっている。

 そのため、その中でも競争が激しく、ときには足の引っ張り合いのようなことも起こるそうだ。

 具体的には、部下の手柄を自分のもののようにしたり、仲間に仕事を押し付けて、自分のもののようにしたりとかだ。

 それを要領がいいと考えるのが絶対に間違っているとまではいわないが、アンドニにとってはあまりよくない環境のように思えるのである。

 実際に、それが嫌で辞めてしまったという昔の仲間も少なからずいるそうである。

 

 話を聞いて一度頷いた考助は、真っ直ぐにアンドニを見ながら言った。

「なるほどね。言いたいことは分かったよ。でもね、本当ならそれを見つけて修正していくのが、アンドニの役目じゃない?」

 アンドニは、作成部署の完全なトップではないが、統括的な立ち位置についていた。

 それであるならば、その状況を改善しようとしていくのがアンドニの役目のはずだ。

 

 その厳しい考助の指摘に、アンドニは頷きながら答えた。

「もちろん、そうするようにはしていました――が、あまり聞き入れてもらえず・・・・・・。それどころか、我々の部署は、どれだけ効率的に道具を作るか、それだけが求められるそうです」

「は・・・・・・? なにそれ?」

 アンドニが言った言葉に、考助は思わず目を丸くした。

 言っていることは間違っていない。

 ・・・・・・いないのだが、正しいというわけでもない。

 効率を求めるがゆえに、人を追い落としたりだましたりすることが正当化されるのであれば、それは人を使う部署としては失格といえる。

 

 勿論それは、考助の一個人としての考え方だが、さすがにそこまで言われるようになっているとは考えていなかった。

「そんなこと一体だれが・・・・・・いや、誰が言っていても同じか」

 我慢強いところがあるはずのアンドニが、わざわざ考助のところまで来てこんなことを言ってくるということは、何度も是正しようとしたうえでの結果のはずだ。

 それが、改善することなく、むしろ放置されている状況に、さすがのアンドニも我慢ができなくなったのだろう。

 部署のトップに近い位置にいるとはいえ、アンドニはあくまでも中間管理職だ。

 出来ることに限界を感じるのは、無理もないと考助は思った。

 

 現在のクラウンの魔道具作成部署が、そんなことになっているとは考えてもいなかったので、考助は思わず唸り声をあげた。

「そんな状況で物作りをしても、いい物ができるとは思えないけれどなあ・・・・・・」

 その考助の言葉に、アンドニがなにかを言ってくることはなかった。

 だが、それに同意しているということは、顔を見ればわかる。

 

 大勢の人間を抱える花形部署であることの弊害なのか、今の魔道具作成部署は、考助から見てあまりいい状態とは言えないように思えた。

 さらに、いまこうしてアンドニが考助に話をしに来たということを考えれば、彼がなにを考えているのかは、簡単に想像することができる。

 すでに内部告発のような状況になっているのだから、今後の魔道具作成部署がどうなろうが、アンドニが残ることは考えていないはずだ。

 

 そこまで考えた考助は、一度頷いてからアンドニを見て言った。

「わかった。とりあえず、こっちでも確認してみるよ。まずはちょっとだけ待ってもらえるかな? アンドニにとっても悪いようにはしないから」

「しかし・・・・・・」

 そう言いながら反論しようとしたアンドニに、考助は首を振って止めた。

「考えるというのは、アンドニがクラウンに戻るかどうかも含めてのことだから。とりあえず、ちゃんと義理を通すつもりなら、少しだけ待って」

 ちょっと強引にそう言った考助に、アンドニは少しだけ考えるような顔をしてから頷いた。

 

 それを見た考助は、内心で安堵のため息をつきながら、誰に話を持っていくべきかと考え始めるのであった。

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