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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(1)妙な噂

ここから第13部第10章になります。

 考助がくつろぎスペースで休んでいるときに、シュレインが来た。

 とはいっても、なにか特別な用事があったというわけではなく、子育てと里での仕事の合間を縫って、休みに来ただけだ。

 そのため、特になにか話をするというわけでもなく、ただ黙って寛いでいた。

 シュレインと一緒にいるときは、大体がこんな感じなので、いづらいということもなくお互いにゆっくりできている。

 阿吽の呼吸というわけではないが、これだけ長い間一緒にいれば、多少の無言の時間があったとしても問題ないのだ。

 

 そんな穏やかな時間を過ごしていた二人のところに、微妙な表情を浮かべたシルヴィアがやってきた。

 部屋にシルヴィアが入ってきたことに先に気付いたシュレインが、首を傾げつつ聞いた。

「シルヴィア、そんな顔をして、どうしたのじゃ?」

「あ、シュレイン。ちょうどよかったです」

 そんな前置きをしたシルヴィアを見ながら、シュレインは怪訝な表情になった。

 丁度良かったということは、考助ではなく自分シュレインに用事があるということだ。

 

 なにも思い当たることがなかったシュレインは、首を傾げながらシルヴィアを見た。

「何かあったかの?」

「少し聞きたいのだけれど・・・・・・血を吸った後って、傷は残る?」

 その唐突すぎる質問に、シュレインは少し顔をしかめてから首を左右に振った。

「いや、残らないの。もし、そんな跡が残っているとすれば、未熟者かただの酔狂者じゃ。考助にだって傷は残っていないじゃろ?」

「やっぱり」

 はっきりそう断言したシュレインに、シルヴィアはため息をついてそう言った。

 

 そんな傷跡が残るような、なにかが起こっていると分かったシュレインは、顔をしかめながら聞いた。

「塔の中で事件でも起こっているのかの?」

「中ではなくて、外で、ですけれどね」

「なんじゃそれは。それでなぜシルヴィアに話が来る?」

 そもそもシルヴィアに話が来ること自体がおかしなことなのだが、顔を見る限りでは避けるに避けられなかったという感じである。

 

 さすがにここに至っては、考助も黙って聞いているわけにもいかなかった。

「なに? そんな大事になっているの?」

「いえ、大事というか、妙な噂話を聞いたのです」

 シルヴィア自身も戸惑っているのか、そんなことを言いながらさらに続けて言った。

「いつものように第五層の神殿で清めを行っていたのですが、そこでのことです。最近、北の街で首元にかまれた後のような傷がついた事件が多発していると。それだけならどうという話ではなかったのですが、途中でなぜこの話が塔にまで来ているのかが不思議で・・・・・・」

 そこで言いよどんだシルヴィアを見て、考助とシュレインはなるほどと頷いた。

 こう言ってしまってはなんだが、大量の犠牲者が出たというのならともかく、被害者が傷がついたくらいの事件で他の街(第五層)にまで話がくるというのがおかしい。

 普通は、そんな事件があったとしても、その町の中で留まるはずなのだ。

 

 そのことに思い至った考助が、確信を持ってシルヴィアに聞いた。

「誰かがわざと、塔の中でその噂を広めていると?」

「ただの勘でしかありませんが」

 シルヴィアは慎重に言いつつも、どこか確信を持っているような顔でそう答えた。

「うーん。勘ね」

 シルヴィアの答えを聞いた考助は、苦笑しながら頷いた。

 自分自身の場合もそうだが、シルヴィアのここぞというときの勘の良さもかなり上がっているのだ。

 

 それはシュレインも認識しているので、同じように頷きながら言った。

「そうかの。シルヴィアがそういうのであれば、恐らく当たっているのじゃろ」

 こと考助や塔が関わることに関しては、シルヴィアの勘は、ほかのメンバーと比べても群を抜いて鋭い。

 そのシルヴィアが「おかしい」と言っているのだから、なにかがあると考えたほうがよさそうである。

「じゃが、そうか。首元に傷、そして北の街でか」

 なんとも嫌な感じがしたシュレインは、そう言いながら顔をしかめた。

 

 そのシュレインの顔を見たシルヴィアも、頷きながら言った。

「やはりシュレインも嫌な感じを受けましたか。話を聞いた時に、どうにも塔にいるヴァンパイアを狙っているような気がしたのです」

「あ~、そういうこと」

 ここにきて考助もようやくシルヴィアが何を言いたいのかわかって、納得の顔になった。

 

 アマミヤの塔にヴァンパイアを受け入れるようになってから今まで、塔が公にしたことは一度もない。

 ただ今では、塔にヴァンパイアが多くいるということは、知る人ぞ知る秘密ということになっている。

 考助たち塔の側としても、積極的に広めるつもりはないが、なにがなんでも隠そうとはしていない。

 すでにヴァミリニア城がある階層は、別の塔に移動しているので、転移門を使う以外に里に行くことは不可能だ。

 一つしかないその転移門も、厳重に警戒しているので、不用意に外部の者が出入りすることはできないようになっているのだ。

 もっとも、温泉街に関してだけは、里のある場所とは切り離しているので、外部の者が出入りは自由にできる。

 そうしたことからも、塔にヴァンパイアがいるということは、完全に隠すことは不可能になっているのだ。

 

 シルヴィアが神殿で聞いた噂で一番懸念していることは、塔そのものではなく、ヴァンパイアを狙っているのではないかということだ。

「今更ヴァンパイアを狙ってどうするんだという話だけれどね。まあ、とりあえずは、噂の真偽を確かめるほうが先じゃないかな?」

「ということは・・・・・・?」

 シュレインが、次に考助がなにを言おうとしているのか分かっているという顔をしながらそう聞いてきた。

「一番無難なのは、トワ辺りに調べてもらうことかな?」

「やはりそれが一番ですか」

 トワに話をするということは、国で対処するということに他ならない。

 ただの勘でそこまでしてもらうことに気が引けていたシルヴィアが、ため息交じりそう言って頷くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そんなこんなで通信具を使ってトワを呼び出した考助は、シルヴィアが聞いたという話をした。

「――なるほど。そんな噂が流れているのですか」

「あれ。そう言うってことは、まだトワのところには・・・・・・?」

「ええ。流れてきていませんね」

 現在の状況を考えれば、ただの噂と切り捨てて、国王の耳に入ってきていないという可能性が高い。

 むしろ、シルヴィアが気になっているからということだけで、しっかりと対応をしようとしている考助たちのほうが異常なのである。

 

 そもそもそんな理由で、普通は国の組織を使おうなんてことは考えない。

「まあ、そういうわけだから、どこまで詳しく調べるかはトワに任せるよ」

「わかりました。確かに、きちんと調べたほうがよさそうですね」

「あら。トワもそう思うんだ」

「私も皆ほどではないですが、嫌な予感というのはありますから」

 そう褒めているのかいないのか、判断が微妙になる言い方をしたトワに、考助は苦笑を返すことしかできなかった。

 

 とにかく、考助がトワに話をしたことで、噂の件に関しては一時的に国に任せることになった。

 考助たちは、その報告を待つということでいったん話は保留ということになるのであった。

なにやら思わせぶりな展開ですが、そこまで長くはなりません。

行っても三話、予定では次話で終わりますw

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