表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
1315/1358

(5)便利な従魔

 ゴブリンの集団が出たことは、次に立ち寄った近隣の村で報告をした。

 フローリアたちがいる集団は、あくまでも商隊であって、魔物の討伐隊ではない。

 商隊の指示で調査に赴くことはあっても、自ら飛び込んでいくような真似はしない。

 そのことは村の者たちもよくわかっているので、むしろ報告を受けたことを喜んでいた。

 魔物で一番恐ろしいのは、何も知らずにその時が来ることなのだ。

 例えゴブリンであっても、集団で出てきたという情報を得られたということは、心強いことなのだ。

 そして、ゴブリン情報を伝えてその村を去ったフローリアたちは、すぐに次の目的地へと向かったのである。

 

 商隊は、ゴブリンの集団と会った後も、一日一回のペースで魔物と相対していた。

 そのたびに二体の狼が活躍することになるのだが、護衛の終盤になるとそれが当たり前のようなこととして受け止められるようになっていた。

「やれやれ。今回は随分と楽をさせてもらったな」

 終点である町まであと半日もあれば着くという地点に着いたところで、感慨深い様子でユゲットがそう言った。

「そうなのですか?」

 その言葉を聞いて、商人の男が不思議そうな顔になって聞いた。

 そう聞いてきた商人は、とある商会に属している者で、行商に関わるのは初めてだったのだ。

 ちなみに今は、最後の野営ということで、冒険者も商人も関係なく食事をとっている。

 

 その商人に頷いたユゲットは、忠告するように言った。

「お前さんは、初めての旅だったか。はっきり言っておくが、こんなにすんなりと行く行商はほとんどないから勘違いするなよ?」

「そうですね。ここまであっさりと魔物が倒すことができていたのは、彼らが余裕をもって発見できていたからです」

 ユゲットに引き継いでタイスがそう答えつつ、少し離れた場所で食事をしているネクとクロを見た。

 食事に関しては、狼らしさを残しているというべきか、人の手から貰うようなことはしないのだ。

 ついでに、フローリアかミアが渡したものしか口にすることはない。

 これまでの旅でそのことが分かっているので、商隊の中で食事中の二体の狼にちょっかいをかける者はいなくなっている。

 

 商隊の中にネクとクロがいたことの恩恵は、商人たちよりも冒険者たちのほうが感じていた。

 特に、普段から商隊の護衛を多く行っているユゲットのパーティは、その効果を強く実感している。

「魔物の接近を早く知ることが出来れば、それだけ対処の方法が増えてくる。戦闘のしやすさも段違いだ」

 ユゲットがそういえば、タイスも頷きながらさらに続けた。

「商人の方には、ほんのわずかの差のように思えるかもしれませんが、私たちにとってはその差が重要なんです」

「そんなものですか」

 ユゲットとタイスの言葉に、その商人は頷きながら、感心した様子で二体の狼を見た。

 

 そして、その様子を見て不思議に思ったのか、首をかしげながらさらに聞いていた。

「そこまで便利だと分かるのであれば、狼をテイムする者が増えてもおかしくはないと思うのですが?」

 決して数が多くはないテイマーだが、全くいないわけではない。

 だが、すべてのテイマーが狼をテイムしているというわけではないのだ。

 専門ではない商人がそう考えるのは、当然のことと言えた。

 

 ユゲットたちは商人に言えるだけの答えを持っていなかったのか、首を傾げてフローリアとミアを見た。

「確かに、言われてみればそう思えるな?」

 それに最初の答えたのはミアだった。

「すべてのテイマーが狼を持たない理由は大きく二つの理由が挙げられますね」


 ミアはそう言いながら、右手の人差し指を空に向かって指した。

「まずは、そもそも狼ではなくても、似たような能力を持つ魔物は多くいるということ」

 狼の魔物は、イヌ科(?)という科目に属していることもあり嗅覚に優れている。

 大抵の狼たちは、その嗅覚を使って他の魔物を探し出すのだが、別に魔物を探し出す方法は嗅覚に限ったものではない。

 それぞれの魔物が、それぞれの種の特徴で魔物を探し出すことができるのだ。

 

 話を聞いていた皆が頷くのを確認してから、ミアは次に中指を立てた。

「そして、これが重要なのですが、そもそもネクとクロほどの感覚を持つ魔物をテイムすることは普通は難しいです」

 ミアがそう言うと、フローリア以外の他の面々の視線が、ネクとクロへと向いた。

 その後の反応は、見事に二つに分かれた。

 一つは納得の顔になる者と、もう一つはさらに疑問の表情になる者だ。

 

 ここで疑問顔になっていた商人が首をかしげながら聞いてきた。

「ですが、あなたたちは実際にテイムされているのでは?」

「残念ながらそれは違うな。ネクとクロは、別にきちんとした主人がいる。私たちは借り受けているだけだ」

 フローリアがそう答えると、ララが驚いたような顔になった。

「何となく察してはいましたが、聞いてしまってもよかったのですか?」

 強い魔物を従えるテイマーの存在は、場合によっては強い戦力になるため秘匿することがほとんどだ。

 これまでの旅でもフローリアとミアがその情報を話すことがなかったので、ここで言ったことに驚いたのだ。

 

 そのララの言葉に、フローリアは肩を竦めながら答えた。

「問題ないさ。あれほどの狼たちを簡単に貸し与えるテイマーだぞ? そうそう簡単に手籠めにされることはないさ」

「はいはい。ここでの惚気は、それくらいにしておいてください」

 何故か胸を張って答えたフローリアに、ミアがうんざりとした顔でそう答えた。

 

 そして、そのやり取りを見ていたユゲットたちは、事情を察して苦笑をすることしかできなかった。

 ここで話題に出ているテイマーが、フローリアにとってのどんな存在なのかが分かったためである。

 ちなみに、フローリアがミアの実の母親であるという情報は、ユゲットたちが聞いたその日のうちに商隊内に広まっていた。

 フローリア本人が止めなかったということもあるが、特に男性内での情報伝達はあっという間だったことを付け加えておく。

 

 そんな余談はともかくとして、ここで話題を変えるように、商人の一人が残念そうに首を左右に振った。

「しかし、そうですか。そんなに便利なのであれば、上手く商売にできると思ったのですが・・・・・・」

「諦めるべきだろうな。才能を持ったテイマーを探し出して、多くの魔物を育てる手間を考えると、採算どうのという話ではなくなる」

 そんなことができるテイマーは、どこに行っても需要があるため、ただの育て屋になることはないというのがフローリアの説明だった。

 付け加えると、ネクとクロの場合は、さらに特殊な例に当てはまるので、同じ種の狼を他のテイマーが育てるのは猶更無理である。

 考助にそれができているのは、眷属という関係と、塔という特殊な環境が揃っているためである。

 

 はっきりと無理だと断言したフローリアに、商人は残念そうにため息をついて見せた。

「そうですか」

「ああ。それから、一応言っておくが、ネクとクロを直接狙っても無駄だからな? 確かに私たちの言うことは聞いてくれているが、それも主人の命令があるからだ」

 言外に、ネクとクロをさらっても無駄だというフローリアに、一同はそのことに気付きつつも、気付かなかったふりをするのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ