(4)驚きの事実
三人組にとっては衝撃的な事実が分かったことで、荷台の中が一時騒然となった。
その騒ぎで、馬車の御者台にいるメンバーの一人が何事かと確認してきたほどだった。
そのせいで、すぐにフローリアがミアの母親だということが知れ渡ってしまう。
当然のように、その話を聞いた者も驚きを示して、御者台からも「嘘だ」という声が聞こえていた。
それらの反応を見て、フローリアは微妙な表情になっていた。
「・・・・・・なんというか、どういう反応をしていいのか、判断に困るな」
若く見られていることは分かっているので、怒るようなことはしないが、若く見られすぎるのも年相応でないと言われそうで、微妙な気分になる。
種族が変わって、年齢については微妙に気になるお年頃(?)なのだ。
複雑そうな表情を浮かべているフローリアを見て、ユゲットが申し訳なさげな顔になって言った。
「すまないな。あまりにも思っていなかったことを言われたものだから・・・・・・」
「気にしなくてもいいですよ。どうせ後になれば喜ぶのですから」
何故か当人ではなく、ミアが笑いながらそう答えた。
その言い分も間違っていないだけに、フローリアとしても反論することができなかった。
下手に言い返すと、ミアが喜んで反撃してくることが分かっているので、突っ込めないのだ。
自分のことでは反撃ができないと悟ったフローリアは、別の方向から口撃することにした。
「いいじゃないか。それに、ミアも人のことは言えないだろう?」
フローリアは、そう言いながら、最後にぼそりと「ついに大台に突入したのは誰だ」と付け加えた。
聞こえるか聞こえないかの微妙な大きさの声に、ミアのこめかみがピクリと動く。
そして、その二人のやり取りを聞いて、何となく事情を察したララが一度ため息をついてから言った。
「分かりました。もういいです。年の話をすると私たちがダメージを受けそうです」
そのララの言葉に、ほかの二人が勢いよく頷き始めた。
その勢いに驚いて、ユゲットに撫でられていたネクが思わずといった様子で伏せていた頭を上げたほどだった。
ただ、フローリアとミアの年に関しては、少しの間の驚きはあったが、それも長くは続かなかった。
様々な種族がいる世界で、さらには寿命の違いもあるので、そういうこともあり得るかと納得できたのだ。
その代わりと言ってはなんだが、ユゲットが驚きついでに、忠告するように言ってきた。
「年のことはともかくとして、前から気になっていたのだが、身分は隠すつもりがあるのか?」
遠慮なしにそう聞いてきたユゲットに、フローリアは首を左右に振った。
「いや。どこの誰とまでは言うつもりはないが、貴族出身だということまでは隠すつもりはないな」
「母上は終始こんな感じですから。下手に誤魔化そうとすれば、逆にそれが違和感になりすぎます」
フローリアの言葉に引き継いで、ミアが肩をすくめながらそう続けた。
冒険者の中でミアのように敬語を使う者は、全くいないわけではない。
ミアは長い間冒険者をやって身に着けたと誤魔化すことができても、フローリアは無理だということは最初から分かっている。
そのため、貴族の出であることを隠すことはやめておこうと事前に決めていたのである。
正確に言えば、生まれも育ちも王族の出なのだが、そこまで教えるつもりはない。
ユゲットたちもそのことを察したのか、それ以上の個人的な情報を聞いてくることはなかった。
そのあとは、最近のこの辺りの情報を聞くなどして過ごしていたフローリアとミアだったが、その状況に変化が訪れたのは、それから数時間後のことだった。
最初にそのことに気付いたのは、ユゲットと交代をしてネクを撫でていたタイスだった。
「ネク? どうかした?」
ネクの体を直接撫でていたタイスは、ネクが体を緊張させたことに気付いたのだ。
それとほぼ同時に、フローリアとミアの耳に、馬車よりも先に進んでいたクロの声が聞こえてきた。
ネクの反応とクロの声を聴いたフローリアとミアは、同時に顔を見合わせてからユゲットたちに言った。
「どうやらのんびりとした時間はここまでのようだ」
「そうですね。魔物が来たようですよ」
二人のその言葉に、ユゲットたちはさすがの反応を見せた。
すぐにユゲットが御者台に報告しながら、止まりかけた馬車からタイスが降りて、後続の馬車に状況を伝えに行った。
この時にはすでに、ユゲットたちはフローリアとミアのいうことを疑うようなことをしていなかった。
二人の実力までは正確に把握はしていなかったが、狼二体とフローリア、ミアの落ち着いた反応を見て、嘘ではないと判断したのだ。
ついでにいえば、今までの会話で、フローリアとミアがこんなことで嘘をつくようなことはしないということもわかっている。
先に馬車を降りたタイスが後続の馬車に情報を伝えたことにより、急な停車にも関わらず残りに馬車もぶつかることなく止まることができた。
そのころには、フローリアとミアにも、近づいてくる魔物の群れを発見できていた。
「ゴブリンか・・・・・・。思ったよりも数が多いな」
フローリアはその方向を見ながら、わずかに顔をしかめた。
一つの種族だけで構成されているため、氾濫だとは考えていないが、その数は普通ではありえないものだった。
ざっと見ただけでも二十体以上のゴブリンがいる。
ゴブリン自体は大した強さではないのでこの場にいる誰も慌てはしなかったが、その数が問題だった。
「・・・・・・どこかに集落が発生している?」
ユゲットがそう呟いたが、隣に立っていたミアは、少しだけ考えて首を左右に振った。
「さすがにこれだけでは情報が少なすぎます。次の町か村についた時点で、情報を伝えるべきでしょう」
「同感だな」
ミアの言葉に、フローリアも続いて頷いた。
フローリアに限らず、その場にいた冒険者はほぼ全員が同意していた。
そもそも今のフローリアたちの役目は、馬車の護衛であってゴブリン討伐ではない。
本当に集落があるとすれば、全滅することもあり得るのだから、下手に突っ込むような真似をするものも出てこなかった。
結局、近づいてきたゴブリンは、何事もなく討伐されることになった。
出番ができたと張り切るクロとネクが、話をしている間に全体の半分以上を倒してしまったのはご愛敬である。
後続の馬車に乗っていた別の冒険者たちは、その様子を見て驚いていた。
だが、何となくそんな気がしていたユゲットたちは、苦笑をするだけでその結果を見ていたのであった。
戦闘よりも年齢。




