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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(3)平和な道中

 フローリアとミアが目指すことになった街は、フロレス王国における中核都市のひとつで、それなりの人が住んでいる。

 ただ、王都からの距離があるので、フローリアは子供の頃に来たことはなかった。

 フロレス王国へは数えるほどしか来たことがなかったミアは猶更だ。

 そんな規模の街に向かうということで、ふたりが護衛することになった商隊も、商人の物だけで五つの馬車で構成されている規模だった。

 セントラル大陸の中を移動している大規模商隊に比べれば、小さめの規模と言えるが、そもそもそんな大きな規模の商隊が動いているのは、セントラル大陸くらいである。

 他の大陸では、未だにそこまでの大きな規模の商隊が動くことは、稀なのである。

 

 その商隊には、五つの商人の馬車を挟むようにして、さらに二つの馬車が併走していた。

 それらの馬車には、フローリアとミアを含めた護衛の冒険者が乗っている。

 二台の馬車のうち、前方の馬車には、フローリアとミアがもう一組の冒険者パーティと一緒に乗っていた。

 その一緒になっているパーティには、王都の冒険者ギルドで成り行きを見守っていた女性冒険者――ユゲットが含まれている。

 

 そのユゲットは、フローリア、ミアと一緒に荷台に乗り込んで、ネクの首筋を撫でながら幸せそうな顔をしていた。

 ユゲットが撫でているネクは、フローリアとミアが連れている二体の狼のうちの一体である。

 ちなみに、残りの一体は馬車の荷台には乗らずに、一緒に並走している。

「――まさか、こうやって狼が触れる日が来るとは……」

 ネクを撫でながらユゲットは、感無量といった顔になった。

 それを見て、フローリアとミアは同時に顔を見合わせてから苦笑をした。

 

 先ほどまではネクに触っていなかったユゲットだが、フローリアとミアに勧められて、ようやく触ることができたていた。

 今、荷台に一緒に乗っているネクは、比較的人になれやすい性格をしていて、二人そろって触っても大丈夫だろうと勧めたのである。

 その前までは、ユゲットは物欲しそうに、狼を撫でていたフローリアとミアを見ていたりしていた。

 そんなユゲットを、ほかの仲間の冒険者が羨ましそうに見ている。

 その顔を見れば、ユゲットと同じように触りたいと考えているのが分かる。

 ちなみに、フローリアとミアが同乗している馬車に乗っている冒険者パーティは、全員が女性だったりする。

 

 彼女たちの様子を見て、フローリアが苦笑をしながら言った。

「その子に触るのは構わないが、今後の冒険者活動に影響がないようにな」

 冒険者として活動しているということは、当然狼と対峙をすることも多くある。

 あまりなれ合いすぎて、その仕事に影響が出ると大変なことになりかねない。

「当たり前だ。私たちはプロだぞ?」

 ユゲットは、フローリアに言葉にそう返したが、とろけた顔で狼を撫でている姿を見てしまえば、とても説得力があるようには見えなかった。

 

 ユゲットが所属しているパーティは、全員が女性でありながら、高ランクパーティとしてフロレス国内では有名である。

 そのため今回の護衛依頼でも、複数あるパーティのうちのまとめ役として動いている。

「ユゲットのことは放っておいて大丈夫。それよりも、あっちの子は大丈夫?」

「あっち? ああ、別の奴(クロ)か。あいつならしっかりと着いてきているはずだから大丈夫だ」

 下手をすれば馬車から離れて狩りでもしているかもしれないとさえ考えているフローリアだったが、実際にはそんなことはない。

 クロは、考助の言いつけ通りに、フローリアとミアを守るべく、しっかりと馬車と並走している。

 最初のうちは、馬車のスピードに慣れていないようだったが、今ではきちんと着いてきていた。

 

 フローリアの言葉を聞いても心配そうに見ている冒険者――ララを見て、今度はミアが苦笑しながら言った。

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。クロの場合は、あまり人と密着させない方がいいですから」

 考助と一緒にいることになれているので、それこそ野生の狼と比べれば断然に慣れているが、それでも好みというものがある。

 クロの場合は、見知らぬ人と一緒にいるよりは、外を走っていたほうがいいと考える性格をしているのだ。

 それに、馬車での護衛はネクがいれば十分なので、クロは外で警戒をしていたほうがいいという事情がある。

 

 外を見もせず笑いながらそう言ってきたミアを見て、荷台にいる残りの女性冒険者――タイスが話しかけてきた。

「疲れたりはしないのでしょうか?」

「それこそ無用な心配ですよ。あの子は、狩りのために一日中でも駆け回っていられるくらいですから」

 そう答えたミアの言葉は、別に誇張でもなんでもない。

 勿論実際にミアが見たわけではないが、ワンリを通したナナの証言があるのだ。

 

 そんなミアの言葉を聞いて、ユゲットがため息をつきながら言った。

「そんな体力があるのは羨ましいな。一日中走り回っていたら、疲れ切ってとてもではないが戦えないぞ?」

「いや、そうかもしれないが、そもそも魔獣と比べてどうする?」

 呆れてそう言ったフローリアに、ユゲットはぺろりと舌を出して顔をそむけた。

 自分が言っていることがおかしいということは、十分に理解しているのだ。

 

 そんなユゲットを見て、ほかの仲間の二人は呆れたような視線を向けていた。

 だがララは、そのユゲットの言葉に突っ込むことはなく、フローリアとミアを見て別のことを聞いた。

「それにしても、ふたりはよく似ていますが、姉妹かなにかでしょうか? あ、別に答えたくなければ、話さなくてもいいですよ」

 冒険者がお互いの過去を聞かないというのは、ここでも生きている。

 ララが敢えてその話題を出したのは、あくまでも道中の話題のためなので、何が何でも聞きたいというわけではなかった。

 

 そして、フローリアとミアも隠すようなことではないので、あっさりと答えを言った。

「姉妹というのはうれしいな。まあ、実際には違うのだが」

「あまり私の前で、かわいらしい仕草をしないでください、母上」

 わざとらしく頬に手を当ててはにかむようなしぐさを見せたフローリアを見て、ミアはげんなりとした顔になった。

 フローリアが全く年齢通りに見えないことは分かっているが、それでも相応の態度というのがあるとミアは考えているのだ。

 

 もっとも、ミアの言葉を聞いた他の三人の女性たちは、それどころではなかった。

「「「・・・・・・ハハウエ?」」」

 揃ってお化けでも見たような顔になって、そう言いながらフローリアを見てきた。

「なんだ。何か言いたいことがあるのか?」

 三人の反応に、フローリアは少しだけ不満そうな顔になってそう返すのであった。

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