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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(2)目的地選択

 フロレス王国の王都にあるアレクの屋敷に一泊したフローリアとミアは、クラウンの掲示板を覗いていた。

 お金は持っているふたりなので、自前で馬車を用意してもよかったのだが、折角なので護衛の依頼でも受けて行こうと考えたのだ。

 王都から各地方に向かう護衛はなくなることがないので、好きなところに向かえるだろうというアレクの意見も昨日のうちに聞いていた。

 さすがに元支部長だけあって、その辺りの事情には精通しているのだ。

 ちなみに、現在のアレクは支部長を引退して、悠々自適な生活を送っている。

 

 一通り掲示板を見ていたフローリアは、ため息をつきながらミアに近寄った。

「駄目だな。やはり、行く方向くらいは決めておくべきだったか」

「掲示板を見てから適当に決めようと言ったのは、あなたではないですか」

 微妙に不満げな顔になってそんなことを言ってきたミアに、フローリアは全く表情を変えなかった。

 

 ちなみに、ミアはわざとフローリアのことを「あなた」と言っている。

 これは、今回の旅をするにあたって、事前に決めておいたことだ。

 ミアの名前はそれなりにありふれた名前なので、特に変更する予定はない。

「それはそうだが、ミアも喜んで乗っかっていただろう?」

 反対された覚えは全くないぞとフローリアが続けると、ミアはついと視線をずらした。

 身に覚えがありすぎるほどにあったのだ。

 

 フローリアからの追及を逸らすために視線をずらしたミアだったが、視界に狼が入ったことで、手をポンと打った。

「どうせでしたら、彼らに決めてもらいましょうか」

「うん? ・・・・・・ああ、なるほどな。それはそれでありか」

 ミアの言いたいことが分かったフローリアは、なるほどという顔になって頷いた。

 自分たちで決められないのだから、野生の勘(?)に従ってみるのも面白いだろうという、若干後ろ向きな意見だ。

 

 

 ところが、フローリアとミアの気持ちが狼たちに委ねるということに傾いたところで、邪魔が入ることになった。

「行き先にお悩みでしたら、私たちと同じ護衛依頼を受けませんか?」

「あ、手前、ずるいぞ! だったら俺たちと一緒にくるといい!」

「何を言っているんだ! 俺たちも・・・・・・」

「あんたたちみたいな野獣どもに任せるわけにはいかないわ! 私たちと一緒に行ったほうが安全よ!」

 口々にそう言ってきたのは、これまで遠巻きに成り行きを見守っていた他の冒険者だった。

 

 フローリアとミアは、揃ってクラウンに入ったときから他の冒険者たちの注目を浴びていた。

 ふたりは、悪い意味でもいい意味でも他からの視線を浴びることに慣れてしまっているので、それらの視線を意識の外に置いていたのだ。

 これまではそれでもよかったのだが、元女王や王女という立場を纏っていない今回の場合は、彼らを暴走(?)させる原因となってしまっていた。

 

 勿論、こんなことが起こったからと言って、ふたりとも慌てふためくような性格はしていない。

「誘いはありがたいが、行くべきところは自分で決めたいな」

「そうですね。私たちに選ばせてください」

 幸いというべきか、揃ってやんわりと断りを入れると、さらに強引に迫ってくるような者たちは存在しなかった。

 それでもまだ諦めたような顔をしていないのは、フローリアとミアがどれかの護衛を受ける気になっていると分かっているためだ。

 あわよくば、同じ依頼を受けてほしいと願っているのは、その顔を見れば明らかである。

 

 ちなみに、なぜこんなにもフローリアとミアに同じ依頼を受けてほしいと願っているのかといえば、ともすれば退屈な移動になりがちな護衛依頼の最中の潤いを求めてである。

 その中に女性の冒険者が混じっているのは、フローリアとミア狙いというわけではなく、ふたりが連れている二体の狼を狙っていたりする。

 冒険者をやっているだけに直接触れることはできないと分かっていても、傍で見ているだけで癒されるという者もいるのだ。

 

 それらの注目があることをきちんと分かってフローリアとミアだからこそ、安易に彼(女)らの言葉には乗らなかった。

 そして、予定通りに狼たちに選択をゆだねることにした。

 何をしたのかといえば、まずは方角を選ばせてからそちら方面の依頼を捜すことにしたのだ。

 

「さあ、準備はできました。ネク、クロ。好きな場所を選んでください」

 ミアがそう言いながら四つの紙を床の上に置いた。

 きちんとその言葉の意味を理解しているのか、二体の狼は戸惑ったようにそれらの紙のにおいをかぎ始めている。

 周りにいる冒険者たちは、その様子を固唾を呑んで見守っている。

 なんだかんだで皆が暇つぶしにしているのだ。

 

 そんな中で、ネクとクロは、プレッシャーがあるのかないのか、二体同時にある紙のところで止まった。

「――ふむ。東か」

 フローリアがそう言うと、そこかしこでため息が漏れてきた。

 あわよくば狙いでと考えていた冒険者たちが漏らしたものだ。

 中には、数名だが喜んでいる者もいる。

 

 それらの反応を視界にいれつつ、フローリアとミアは再び掲示板に向き直った。

 今度は、東方面から選ぶので、だいぶ選択肢が絞られている。

 それらの依頼の中からフローリアはちょうどいいものを見つけ出した。

「これなんかどうだ?」

 そう言って指した依頼は、それなりの大きさの商隊の護衛だった。

「いいと思いますが、何か理由があるのですか?」

「何。目的地になっている街が、それなりの大きさで、以前から行ってみたいと思っていたんだ」

 フローリアが言っている以前からというのは、フロレス王国の王女としていた時のことだ。

 すぐにそのことが分かったミアは、構わないと頷いた。

 そもそもフロレス王国のことはあまり詳しくないミアは、フローリアに任せたほうがいいと考えていたのだ。

 

 ふたりの決断に、喜んでいた冒険者から先ほどと同じようにため息が漏れていた。

 結局、この場にいる冒険者の中で、同じ依頼を受けることになったのは、狼狙いの女冒険者ということになったのである。

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