13話 神威召喚の影響
第四章七話に神殿についての内容を追記しました。
建物の神殿と組織としての神殿でわかりづらい所があるとのご指摘があったため、今後組織としての神殿は、神殿もしくは教会という表現を使うように変更いたします。
また、今まで上げた分に関しては、変更が必要と思ったところのみ順次、教会と変更していきます。
百合之神社へと転移してきた考助は、狐バージョンのワンリをモフモフしていた。
神威召喚を含む先ほどのやり取りで、かなりの精神力を消耗したために、ワンリで癒されているのだ。
神威召喚で神力を消耗したというのも当然あるのだが、その後のフェルキア卿とのやり取りの方が考助的にはきつかった。
そもそもあんなお偉いさんを相手に、直接交渉することなど出来ればしたくは無かったのだ。
とは言え、状況的にはあの場で押した方がいいというのが分かっていたので、考助にしてみれば強引に押し切ったのだ。
考助があの場で、フェルキア、ホーンド、アイネスの三名の名前を出したのは、何も当てずっぽうではない。
しっかりとエリスをはじめとして三名の神々から指摘をうけていた。
実はあの場では、すぐに消えたと見せかけていた三柱の神々だったが、実際は姿を消しただけでその場には残っていた。
何か動きがあれば知らせてもらえるようにしていたのだが、まさか本当に動いてくるとは思わなかった。
神々に残ってもらったのは、あくまでも保険だったのだが、その保険がきちんと効いてくれた形になったわけである。
こんなことで神の力を使うのもどうなのかと思わなくもなかったのだが、逆に神殿に祝福をかけるだけでは足りないと言われたので、わざわざ残ってもらったという事情もあったりする。
神々が残っていることを悟られないようにするために、わざわざローレルの口を借りて語ってもらうことにしたのだが、それに関しては上手くいってよかったと思っている。
ローレルも間違ったことは言っていないので、許容範囲だろう。
何より、ローレルが信仰している神である、エリサミール神の許しも得ているので、問題はない・・・はずである。
そして、神殿長であるローレルに語ってもらったので、周囲で話を聞いていた者達も疑わなかったのだ。
あの場で考助が講釈しても、どこかで必ず猜疑心が生まれたはずだ。
それを考えれば、少なくとも考助にしてみれば、ローレルに語ってもらったというのは、ベストの選択だったのだ。
ついでに行った百合之神社への転移だが、思った以上に使えそうな技であることが分かった。
基本的には、考助だけしか転移することが出来ない。
だが、百合之神社も以前にユリが言っていた通りに、レベルアップ(?)をしているようで、考助以外も転移できるようになっていた。
正確には、考助が転移しようとしているときに、考助のどこかに触れてることができれば、という注釈がつくのだが。
百合之神社が襲撃されることなど、今のところ考えにくい状況だが、一人で転移してくるよりは、他の者も一緒に来れるので、かなり使い勝手が良い方に改善されたと言える。
そう語ったのは、コウヒ&ミツキであったのだが、考助も二人に押されて納得してしまった。
と言うわけで、実践を兼ねて百合之神社への転移を試したのだ。
結果は成功。と言うわけで、百合之神社へと同時に戻ってこれたコウヒとミツキは、喜んでいた。
考助の護衛を自認している二人としては、いくら百合之神社が考助にとっての安全地帯とは言え、考助一人だけの状況にはさせたくなはい。
そう言う意味では、二人にとっては上々の結果と言えた。
今日はもう働きたくない~、というモードになっていた考助だったが、そう言うわけにもいかずワンリをしばらくモフッた後は、管理層へと戻った。
そこでワーヒドから考助が去った後の顛末を聞くことになった。
まずは考助が宣言した通り、先の三方はクラウンとして取引の一切をしないことを決めた。
そのため、考助が去った後に行われた立食パーティでは、クラウン関係者との話し合いの場は設けられなかったとのことだ。
それが影響しているのか、立食パーティに集まった者達で先の三方と積極的に話をしようとする者達は出なかった。
代わりにと言うべきか、目論見通りと言うべきか、それ以外の有力者たちの間では積極的に話し合いがなされた。
当初は、考助がいなくなったことで、最初は身内同士で話がされて、盛り上がりに欠けるところがあった。
だが会の後半では、塔を使うか、もしくは船を使わなければ行き来が難しい都市同士の有力者たちの話し合いが盛んに行われていたそうである。
考助としては、今後は塔を中継地点として、そう言った取引が行われるようになればいいと考えている。
転移門の使用を制限して、取引すべてをクラウンで独占することも出来なくはないだろうが、そう言った経済状態が健全な状態とは思えない。
塔内の流通をクラウン一つの組織で担えば、どうした所で組織の硬直化などが起こってくる。
端的に言えば、簡単に儲けることが出来るので、怠ける者が出てきやすいのだ。
組織が凝り固まってしまえば、たとえ儲けることが出来ても発展することは無い。
そもそも考助の第一前提は、塔内に定着して住んでくれる者を増やすのが目的で、金銭を儲けることではない。
人が集まれば当然お金もかかるので、儲けることを否定するつもりはない。
とは言え、順番が逆になってしまうのはダメだと思っている。
考助にとっては、あくまでも塔の発展が最終目標で、お金儲けはその手段なのだ。
あの場を騒がせたフェルキア、ホーンド、アイネスの三名だが、考助があの場で宣言した通り拘束などの物理的な手段を取るつもりは全くない。
フェルキア自体が「卿」と呼ばれるほどの実力者なので、そもそも彼のいる町の刑吏などは当てにならないのだ。
セントラル大陸においては国家は存在しない。
だが、各都市を支配している支配者はきちんと存在している。
支配者がどういう選出方法で選ばれるかは各都市によって違う。
フェルキアが所属しているケネルセンにおいては、フェルキアをはじめとする五家の中から代々選出されている。
それ故の「卿」であり、簡単には手出しが出来る人物ではないのだ。
フェルキア自身は、ケネルセンの都市の支配者としての選出からは、既に外されている。
それでも五家の中の一つの家の当主として歴然とした力を持っているのだ。
考助にしてみれば、よくもまあそんな家柄の人がわざわざ塔にまで出張ってきたもんだ、と思った。
しかしながらこれは考助の認識不足である。
そう言った人物が直接出て来るしかないほど、塔の存在は無視できなくなっているのだ。
だが、確かにケネルセンという範囲で見れば、フェルキアはかなりの実力者ではあるのだが、すぐに他の三都市にも手が出せる塔としてみれば、一都市の中の一有力者と見ることが出来る。
逆に言えば、他の四家と取引が出来れば、特に問題はない。
現に、パーティには他の四家の者達も出席していた。
その者達は、当然のように他の都市の有力者たちと話し合いがなされていた。
結局のところ、少なくとも今回の騒ぎに関しては、フェルキアはクラウンとの関係を断ち切られて、他の都市の有力者とまともな話し合いが出来ないという結果になった。
つけ加えると、フェルキア、ホーンド、アイネスの三名は、今後一切塔への出入りが許されることはなかった。
流石に三名に関わっているすべての人物を出入り禁止にするのは、探し出す労力含めてほぼ不可能なので、締め出すのは諦めた。
勿論、三名が直接経営に関わっている商会を名乗った場合は締め出しているが、個人の行商人を装って転移門を使った場合は、事前に分かっている場合を除いて、ほぼ見つけ出すのが不可能だ。
分かった時点で対策はできるが、トカゲの尻尾切りでしかないので、それ以上の対処は行わないことに決定した。
ついでに言えば、行商人レベルでクラウンの商人部門と取引を行うのは、ほぼ不可能になっている。
今までの行商人の契約と今回の有力者たちの取引で、冒険者たちが持ち込む素材のほとんどが捌けている状況なのだ。
行商人がクラウンを相手に買い付け出来るのは、現状ほぼ不可能なので、三名に関係する取引は、事実上行われなくなったのであった。
2014/6/27 誤字訂正




