(17)シュレインの知識
安価で大量に利用できるが、嵩張ってしまうという問題を解決できないでいた考助は、いくつかの解決方法を考えていた。
一つは、嵩張るのはもうあきらめることにして、それを入れるための専用のアイテムボックスを開発するということである。
これだと場所も重さも気にせずに、大量の符を用意することが可能になる。
ただし、そんなアイテムボックスを作ってしまうと、非常に高価になってしまうという根本的な問題が発生する。
そもそも、紙を使った魔道具を作ろうとしていたのは、安価に済ませるという目的があったので、本末転倒になってしまう。
さらに、紙自体の拡張性を上げるために、加工の段階から手を入れるということも考えた。
紙としてできたものを使うから拡張性が低くなるので、最初からそのための物を作れば拡張性を上げられるというわけだ。
だが、この方法も上手くはいかなかった。
確かに加工の段階で手を入れて拡張性を増やすことには成功したが、結局かかる手間とその他の素材の問題で高価になってしまうのである。
手間と素材に関しては、今後の研究によっては改善の余地があるので、これは今後の課題として保留となっている。
そのほかにもいろいろと考えた考助だったが、結局価格と拡張性の問題にぶつかってしまうことになる。
今後の研究を進めれば、もしかしたら上手くいくかもしれないという方法はいくつか考え付いたが、それをするには時間がかかるので保留としていた。
それらを除いて、今のところお手上げ状態というのが考助の結論だった。
研究室から抜け出して、くつろぎスペースのソファで寝そべっていた考助は、お腹の上に乗っている小型ナナをのんびりと撫でていた。
といっても、その頭の中は、紙の魔道具のことでいっぱいだった。
くつろぎスペースには、コウヒとミツキ、ナナを除けば誰もいなかったので、思考を巡らせるのにちょうどよかったのだ。
そんな時間を過ごしていた考助がいるくつろぎスペースに、シュレインが入ってきた。
「お? 考助しかいなかったか」
「――うん? 誰かに用事?」
「いや、そうではなく、他にもいると思っていたから少し驚いただけだの」
考助の問いかけに、シュレインは首を振りながらそう答えた。
そのシュレインを見て、ほかに誰もいないことを確認した考助は、
「シュウは?」
「連れてきていないの。たまには自分たちに任せろと、手伝いに追い出された」
曲がりなりにもヴァミリニア城という城があるヴァンパイアの里は、それを管理するための人員がいる。
その人員は、手が離せないシュレインに代わって、シュウの面倒を見ることもあるのだ。
ちなみに今回は、最近忙しくしているシュレインが、休養をするようにそのお手伝いさんたちから言われたのである。
少しだけ不満げな表情を浮かべているシュレインに、考助は苦笑をした。
「まあ、たまにはいいんじゃない?」
「そうだの。コウスケの顔を見たら、そう思えてきた」
「そ、そう」
あっさりとそんなことを言ってきたシュレインに、考助は内心で動揺しつつそう返した。
もうすでに、長い付き合いにはなっているが、不意打ちを食らうとなかなか平静ではいられないのだ。
そんな考助に気付ているのかいないのか、シュレインは特に気にした様子もないまま続けて言った。
「ところで、考助は何をしていたのじゃ? ・・・・・・と、聞くまでもないかの」
くつろぎスペースは、ゆっくり休むために来るスペースだ。
その理由をわざわざ問うまでもない。
「まあね。ちょっと考え事はしていたけれど、ゆっくり休んでいたよ」
「そうか」
当然すぎる答えに、シュレインはそれだけを言って頷いた。
そんなシュレインを見て、考助は折角だからと先ほど考えた悩みを聞くことにした。
「そういえば、ヴァンパイアに伝わっている技とかで、紙を使う魔法とか伝わっていない?」
「紙で魔法? さて、そんな話は聞いたことが――」
ない、と返そうとしたシュレインだったが、ふと何かを思い出したような顔になった。
「紙そのものではないが、木の葉などを使って道具にするという話は聞いたことがあるの」
「木の葉で?」
返ってくるとは思わなかったことに答えがあったことに驚いた考助は、すぐに不思議そうな表情を浮かべてそう聞いた。
その考助に向かって一度頷いたシュレインは、
「そうじゃ。といっても、大した技ではないのだがの」
そう前置きしたシュレインの説明によれば、例えば木の葉だと、魔力を通してそれを固くしてから対象物に飛ばすというものだった。
魔力によって通常ではないほどの固さと威力を持ったそれは、大きな岩さえ切り裂いていたという話があるそうだ。
シュレインの話を聞いた考助は、以前の世界でトランプなどを使っていろんなものを切っていたりするというアニメなどのシーンを思い出した。
「あー、なるほど。確かに、そういう使い方はできそうだね。・・・・・・というか、今もそうした技が残っていないほうが不思議なんだけれど?」
手近にある物を使って武器にできるというのは、魔物を相手にするときには非常に有用そうに思える。
だが、少なくとも考助は、そんな方法を使っている冒険者などの話は聞いたことがなかった。
「髪とかならともかく、自分の物ではない物体に魔力を通すというは、意外と手間がかかるからの。魔法が発達した現代では、廃れてしまったのではないか?」
「確かに、それはあり得るか」
思った以上に現実的な理由に、思わず考助は感心したように頷いた。
自然物に自分の魔力を通して、それを強力な武器にするくらいなら、その魔力を使ってもっと大きな現象を起こすと考えるのは自然なことだ。
シュレインが言ったとおりに、その流れで廃れていくと考えるのは、不自然なことではない。
だが、直接の戦闘ではそういうことも考えられるが、魔道具を作るという上では、非常に参考になる意見でもある。
頷いている考助を見て、シュレインがニヤリと笑みを浮かべながら言った。
「何か思いついだようじゃの?」
「まあね。そっくりそのままの技を使うというわけじゃないけれど、参考にはなったかな?」
「そうか。役に立てたのであれば、吾もうれしい」
そう言いながら考助のいるソファに座ったシュレインは、笑顔を浮かべたままその手を取った。
その行動の意味が分からずに首をかしげている考助に、シュレインは少しだけ不満げな表情を浮かべた。
「たまにはいいではないか。しばらくこうしていてくれ」
「別に嫌というわけじゃないから。いくらでもこうしていていいよ?」
久しぶりに甘えてきたシュレインに、考助としてはそう返すことしかできないのであった。
お久しぶりのシュレインでした。




