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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(16)符術?

 魔道具の扱いに関する話が終わって、その後ちょっとした雑談をしていたフローリアは、ふと思い出したような顔になって考助を見た。

「そういえば、今回はこもって何を作っていたんだ? やっぱり魔道具だろう?」

「そうなんだけれどねえ」

 考助はそう答えながら渋い顔になった。

 

 考助のその顔を見て、上手くいかなかったと察したフローリアは、一瞬シルヴィアの顔を見てからもう一度考助を見た。

「うん? 上手くいかなかったのか?」

「失敗してもそんな顔をするのは珍しいですが、何かありましたか?」

 フローリアに続いて、シルヴィアが畳みかけるようにそう聞いた。

 敢えて違う質問をすることで、考助の落ち込み(?)を防いで、話を吐き出させるための二人の作戦だった。

 

 その意図に気付かないまま、考助は微妙な顔になりながら頷いた。

「まあ、上手くいかなかったというかなんというか・・・・・・」

 考助がそう返答をすると、シルヴィアとフローリアはもう一度顔を見合わせた。

 二人は、こんな返しをしてくるときの考助は、話をしたがっていると経験から理解しているのだ。

 

 すぐに頭を切り替えたシルヴィアが、考助を見ながら聞いた。

「魔法陣の調整が上手くいかなかったのでしょうか?」

「どうなんだろう? そもそもの発想が間違っているのかもしれないね」

 少しだけ落ち込んだ表情でそう言ってきた考助を見て、シルヴィアとフローリアは同時に驚いた。

 考助が、こんな初期の段階で悩みを打ち明けることは、珍しいことなのだ。

 

 フムと顎に手を当てたフローリアが、探りを入れるのを止めて、はっきりと聞くことにした。

「今回は、どんな魔道具を作ろうとしたのだ?」

「うーん。魔道具というかなんというか・・・・・・。魔法陣と紙を使う物だから、魔道具といっても間違いじゃないとは思うんだけれど・・・・・・」

 どうにもはっきりとしない答えを言ってきた考助に、フローリアはますますわからないという顔をした。

「紙を使って何かをしたいと思うということは分かるが、なんの魔道具を作りたいと思っているのだ?」

 再度はっきりとそう聞いてきたフローリアに、考助は一度ため息をついてから話を始めた。

 

 

 今回、考助が思いついたのは、紙の上に魔法陣を書いておいて、簡単なキーワードを唱えるだけで魔法の効果を起こすというものだ。

 簡単に言えば、よくゲームなどに登場してくる符術師が使っている符のようなものである。

「――――なるほど。確かにできれば便利そうだな」

 自分自身の魔力を使わずに、以前に込めておいた魔力で同じような効果を発揮できるものができるのであれば、それは常に魔力の調整に気を遣う魔法使いにとっては便利な道具といえる。

 さらにいえば、魔法を使えない者が、簡単に魔法を使えるようになればなおいい。

 

 そんなことを考えて、納得した顔で頷いたフローリアだったが、考助はそれに対して渋い顔になって頷いた。

「便利は便利だけれど、実践的には使えないことが分かったんだ」

「うん? 実践的にということは、作ることはできたのか?」

「一応、だけれどね。でも、作ってから問題点が多すぎることがわかって、最初から考え直すことになった」

 考助がそう答えると、シルヴィアとフローリアが納得顔になって頷いた。

 考助が、最初に曖昧な答えしか言ってこなかった意味が理解できたのだ。

 

「問題点というのは?」

 シルヴィアがそう聞くと、考助は渋い顔のまま続けて言った。

「まず、基本が紙なので、水晶とかと違って耐久性が低い」

「まあ、それはそうだろうな。だが、安価だから紙を使おうと思ったのでは?」

 フローリアがそう聞くと、考助は頷き返した。

「そう。けれど、紙だとどうしても拡張性が低くて、込められる魔力の量が少なくなるんだよ」

 考助がそう言うと、シルヴィアがそうだろうという顔で頷いた。

 

 ここでいう拡張性というのは、簡単に言えば、込められる魔法の規模や回数のことを言っている。

 この拡張性が低いと、簡単な魔法でも数回しか込められることができず、魔道具としては使い勝手が悪いということになる。

 考助が紙で作ろうとした魔道具は、どう頑張っても中級の魔法が一発程度のものしか作れなかったのだ。

 

 考助がそう説明をすると、フローリアが首を傾げた。

「中級程度の魔法が使えるなら、需要はありそうだが?」

 この世界にも、魔法が使えない者は多く存在している。

 冒険者であれば、そうした魔法が使えるようになると喜ぶ者は多いはずだ。

「いくら需要があってもね。最大の欠点があるから、あまり広まることはないと思う。・・・・・・作ってから気付いたんだけれど」

「最大の欠点?」

 それが何か分からずに、今度はシルヴィアが首を傾げた。

 

 そのシルヴィアに、考助がため息をついてから答えた。

「拡張性が低い紙だと、どうしても嵩張るってこと」

「それは・・・・・・確かに問題ですね」

 そもそも考助が紙でそんな魔道具を作ろうとしたのは、水晶などと比べて軽くて安価だからだ。

 ただ、いくら軽いといっても、数が多くなって嵩張ってくれば、当然のように重さも増してくる。

 紙はまとまっていると、意外に重量を感じる素材なのだ。

 そんなものを、わざわざ何十枚と持ち歩いて、荷物を重くするような冒険者は一人もいない。

 拡張性のことを考えずに、ゲームやアニメのシーンを思い出して安易に考えた考助の完全敗北だった。

 

 ようやく理解してくれたシルヴィアやフローリアに、考助はさらに続けて言った。

「いざというときの手段として一枚や二枚持っておくのはいいと思うけれど、そもそも中級程度の魔法で役に立つかは微妙なところなんだよね」

「ランクの低い魔物を相手にしているときは、十分に役に立てる気もするが・・・・・・そんなランクを相手にしている冒険者は、そんなものを買えるような稼ぎはない、か」

 フローリアがそう言うと、考助はコクリと頷いた。

 いくら元の紙が安価だからと言っても、魔法を使えない者が使えるようにするだけでも、それなりの技術料がかかってしまう。

 それを考えると、もう少し上位の魔法が使えるようにしたい。

 ・・・・・・のだが、ここでもやはり拡張性の問題が出てくる。

 

 そこら辺りをどうにかしようと、いろいろと奮闘していた考助だったが、結局どれも上手くいかずに壁に当たってしまったというわけだ。

「――まあ、そういうわけだから、一回頭を冷やして根本から考え直そうかと思ったわけだ」

「なるほどな。そういうことならよく分かった」

「まだ諦めてないのですね」

 フローリアに続いてシルヴィアがそう言うと、考助は頷き返した。

「諦めるには、まだまだ早いからね。これからはゆっくりと根を詰めずにやっていくつもり」

 考助がそう答えると、シルヴィアとフローリアは安心したように同時に頷くのであった。

さて、どうやって解決しましょうか。

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