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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(13)トビの悩み

 その日の授業をすべて終えて、帰り支度をしていたミクは、クラスメイトに名前を呼ばれてそちらの方を見た。

「何?」

「ああ、双子兄妹が来ているぞ」

 すぐにセイヤとシアのことだと分かったミクは、首を傾げた。

 一緒に家に帰ることは珍しいことではないが、わざわざ教室にまで迎えに来ることは珍しい。

「わかりました。すぐに行きます」

 セイヤとシアは、教室の扉の前で待っているということで、ミクはすぐにそちらに向かう。

 

 そして、そこではさらに珍しい人物がミクのことを待っていた。

「トビ? こんなところに、どうしたのですか?」

 ミクたちは、トワの子供であるトビと仲が悪いというわけではないが、やはり兄弟たちほどの接点は持っていない。

 特に学園では、あまり一緒に行動するということがないので、わざわざトビから訪ねて来るというのは珍しいことだった。

 

 目を丸くして自分を見てくるミクに、トビは少しだけひるんだような顔をしてから答えた。

「あ、あの。お話をしたいことがあるので、少しだけお時間をいただけないでしょうか?」

 トビのそのセリフを聞いたミクは、それにはすぐに答えずにセイヤとシアを見た。

 突然のことだったので、ふたりなら事情を知っていると考えたのだ。

 だが、そのミクの予想に反して、セイヤとシアは首を左右に振った。

 幼いころから一緒に過ごしてきたミクには、ふたりが何も知らないと言っていると理解できた。

 

 なぜか不安そうな顔で見てくるトビをこのまま放っておくわけにはいかない。

 そう考えたミクは、頷きながら答えた。

「それはいいですが、部屋は取ってあるのですか?」

 トビの様子を見れば、内緒の話をしたいということはわかる。

 それであるならば、お茶会室を取るのが一番いいのだが、部屋に空きがなければ使うことはできない。

 

 ここでようやくセイヤがミクを見ながら言った。

「それだったらさっき見てきたら大丈夫だったよ。ついでに、予約もしてある」

「そうですか。でしたら問題ないですね。――行きましょうか」

 お茶会室が使えないのであれば、最悪家に戻って自室を使って話をするということになりかねなかった。

 トビの雰囲気から、できればそれは避けたいと思っていたので、ミクとしては一安心といったところだった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 お茶会室へと移動したセイヤは、改めてトビを見て聞いた。

「それで? なんか悩み事でもあるみたいだけれど、何かあった?」

 セイヤの問いに、全く何も聞いていなかったミクは、少しだけ驚いたような顔になってトビを見た。

 教室の前にいた時には、そんな話をされるとは思っていなかったのだ。

 

 セイヤに問われたトビは、一度コクリとのどを鳴らしてから、決心した様子で話し始めた。

「あ、あの・・・・・・。兄上たちは、魔法陣の勉強はどうやってされているのでしょうか?」

 そのトビの問いを聞いたセイヤたちは、ほぼ同時にお互いの顔を見合わせた。

 学生である以上は勉強に関する悩みがあってもおかしくはない。

 ただ、それをトビが自分たちに聞いてくることに、少しだけ違和感があったのだ。

 

 そのことに気付いていても、ミクは敢えてそれには触れず、聞かれたことだけ答えることにした。

「どうといわれても、他の皆と変わらないはずですよ・・・・・・? 教科書に書いてあることを覚えたり、基本をしっかりと習ったり?」

 ミクがそう言うと、セイヤとシアもコクリと頷いた。

 三人とも魔法陣の授業は上位に入れるくらいの点数は取れている。

 だからといって、勉強をするときに特別な何かをしているというわけではない。

 

 ミクの説明を聞いたトビは、表情を隠すことなく顔をゆがませた。

 当然のように王族教育を受けているトビは、普段は人前でマイナスになるような表情を浮かべることはない。

 だが、やはり家族の前では、素直に表情を見せることもある。

 とはいえ、ここまで表情を変えることも珍しいので、セイヤたちはもう一度顔を見合わせていた。

 トビの顔をみて、かなり思い悩んでいると分かったのだ。

 

「うーん。特にトワ兄さまからは、トビが魔法陣が苦手って聞いたことはなかったけれど?」

「えっと。・・・・・・成績は特に悪いわけではないです。ただ、いいというわけでもなくて・・・・・・」

 そう言って言いよどむトビを見て、シアが首を傾げた。

「あれ? そもそもトビって、魔法陣を習うのって、今年からじゃなかったっけ?」

「あ、はい。そうです」

 学園では、初学年で魔法の基礎を習って、二学年から専門に分かれて座学と実践を行う。

 そのため、魔法陣の授業は、二学年に入ってから習うのだ。

 つまり、トビは最初のところで思い悩んでいるということになる。

 

 トビの言葉を聞いて、セイヤは苦笑を返した。

「いや、別に苦手科目があってもいいと思うけれど、トビはそれじゃあ駄目なんだよね?」

「そもそも、普通の成績を取っているということは、苦手というわけでもないと思うけれど?」

 セイヤに続いてシアがそう言った。

「えっと、それはそうなのですが、やっぱりお爺様のことがありますから・・・・・・」

 そう言って口ごもるのを見て、セイヤたちはようやくトビが何を思い悩んでいるのかを理解した。

 

 トビは現国王であるトワの実子であることを公言している。

 ということは、当然考助の孫であることも知られていることになり、それで魔法陣の成績が普通なのは・・・・・・という視線にさらされているということなのだ。

 セイヤたちにも似たような経験はあったので、トビが言いたいことはよく理解できた。

「うーん。気にしないのが一番・・・・・・と言いたいところなんだけれど、完全に無視するのは難しいからなあ」

「そうね。私たちの精霊術みたいに、ほかを圧倒できるものがあれば、また話は変わってくるんだけれど」

 セイヤに続いてシアがそういいながらトビを見た。

 トビは、父親であるトワによく似ていて、まんべんなく成績が高い。

 その中で、魔法陣の成績だけが下の方に位置しているので、より目立ってしまっているのだ。

 

 悩ましい顔をしているトビを見て、ミクが聞いた。

「それで、トビはどうしたいのでしょうか? 魔法陣の成績を上げたい? それとも、自分に何か言ってくる人を懲らしめたい?」

「そ、そんなことはしません!」

 ミクの言葉に、トビは慌てて手を振って否定した。

 勿論、否定しているのは、後半の言葉だ。

「他の成績に比べて魔法陣が悪いのは分かっているのですから、それをどうにかしたいです」

 

 肩を落としてそう言ってきたトビを見て、セイヤとシアは、さてどうするかと顔を見合わせた。

 どうにかしてあげたいことはやまやまだが、セイヤたちも魔法陣が得意分野というわけではない。

 皆が少し沈黙する中で、ミクが思い切ったように言った。

「ここで悩んでいても仕方ないです。こういう時は、ほかの方に聞いてみましょう。ただ、トビの様子を見る限りでは、トワ兄さまに相談するのはなしの方向で」

「そうだな。それが一番いいか」

 ミクの言葉に納得したように、セイヤが頷く。

 この場で考えていても最適な答えは見つからないと判断をして、人生の先輩に聞くのが一番だと考えたのである。

 

 そうしてセイヤたちは、そのままトビを連れて家へと帰った。

 勿論、詳しい話は内緒にして、セイヤたちと一緒に行動していることは、城に伝えてある。

 そこでセイヤたちは、トビの悩みについて、話を持ち掛けるのであった。

どこかで誰かが悩んだ道と同じ道に進んでおります。

自話に続きます。

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