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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(12)小規模ダンジョン

 フローリアが、考助のところにサリーを伴ってやってきた。

 すでに何度目かの管理層訪問となるサリーは、それでも物珍し気に辺りを見回していた。

 以前にサリーが来てから特に変わったところはないのだが、それでも考助作の魔道具が多くある管理層には、興味深いものがあるようだった。

 そのこと自体は特に珍しい反応でもないので、考助は気にすることなくフローリアを見た。

「サリーを連れて来るなんて珍しいね。孤児施設で何かあった?」

 わざわざサリーが管理層に来るということは、孤児施設関連のことしか思い当たらない。

 

 その考助の予想は間違っておらず、すぐにフローリアが頷いて言った。

「ああ、そうだ。といっても、大きな事故や事件が起こったというわけではないから安心していい」

 一瞬だけ驚いた顔をした考助だったが、後半の言葉を聞いてすぐにいつも通りの顔に戻っていた。

「詳しい話はサリーから聞くといい」

 そう言ってフローリアが促すと、サリーは軽く頭を下げながら言った。

「突然すまないな。フローリアに話をしたら、直接言ったほうがいいと言われてな」

「いや、それは別にいいよ。特に急ぎの仕事があったわけじゃないし。それよりも何かあった?」

 魔道具作りのための素材の準備でもしようとは思っていたが、それは特に急いで作る必要もない物だった。

 それよりも考助は、フローリアがわざわざこの場に連れてきた用事のほうが気になる。

 

 考助から視線を向けられたサリーは、少しだけ言いづらそうな顔になった。

「それが、相談というか、お願いになると思うんだが・・・・・・」

 そう言って少しだけ言いよどむサリーを見て、考助は首を傾げた。

 普段はざっくばらんなサリーが、こんな調子になることは珍しい。

 フローリアの顔を見る限りでは、そんな無茶なことを言ってくる様子はないとわかっているだけに、なぜサリーがこんな顔になるのかが理解できなかったのだ。

 

 首をかしげながらも先を促してくる考助に、サリーは一度コクリとのどを鳴らしてから続けた。

「子供たちがそこそこ成長してきたから、より実践的な場を、用意できるなら用意していほしいんだ。・・・・・・と言ったら、フローリアがここに連れてきたんだ」

「ああ、なるほど。そういうことか」

 サリーの言葉で、フローリアの目的を察した考助は、そういいながら頷いた。

 

 それでも考助は、一応フローリアに目的を聞くために視線を向けた。

「召喚陣でも、とか考えていた?」

「そうだな。それが一番手っ取り早く用意できるだろう?」

「まあ、そうなんだけれどね」

 そう言って頷いた考助を見て、フローリアが首を傾げた。

 考助の顔から召喚陣以外の何かが用意できると考えているとわかったのだ。

 

「何か別のものでも用意できるのか? そんな便利な魔道具を作ったという話は聞いていないが?」

「ああ、いや。そういうことじゃなくてね。折角だからダンジョンでも用意してあげたらどうかと思ってね」

 そう言った考助に、フローリアは一瞬きょとんとした顔になってから、なるほどと頷いた。

「・・・・・・確かに、それはありだな」

 

 現状アマミヤの塔では、階層全体がダンジョンになっているところしかない。

 だが、作ろうと思えば、階層の一部をダンジョン化することも出来るのだ。

 今までやっていなかったのは、単にその必要性を感じなかったためである。

 それが孤児たちの為になるのであれば、孤児施設がある階層に、ダンジョンを用意することは大したことではない。

 今のアマミヤの塔では、それくらいの収入が入ってきているのである。

 

 ただし、問題があるとすれば、どの程度のモンスターが出てくるダンジョンを用意するかというところだ。

「あまり強くしすぎても、子供たちの訓練にはならないよね?」

「それはそうだが、それよりも、施設の傍にそんなものを造っても大丈夫なのか?」

「さあ、どうなんだろう?」

 フローリアの言葉に、考助は少しだけ首を傾げてからサリーを見た。


 考助から意見を求められていると分かったサリーは、少し考えてから話し始めた。

「それは、どんな相手が出て来るかによって変わってくるが・・・・・・」

 ごもっともな意見に、考助はそれはそうだと言ってから続けた。

「さすがにスライムだけが出てくるようなダンジョンは作れないけれど、その辺りの強さのモンスターだけが出てくるものは作れるよ?」

「できるのか!?」

 考助の言葉に、サリーが驚いたような顔になった。

 現在、冒険者が攻略しているダンジョン層は、そこまで厳密に区別されてモンスターが出てくるわけではないので、作れるとは考えていなかったのである。

 一口に初級モンスターといっても、その範囲は(戦闘術を習い始めた者にとっては)上から下まで幅広いのだ。

 

 アマミヤの塔のダンジョンでは、出現モンスターを個別に指定することはできないが、強さの範囲を定めることができる。

 その区分はかなり細かくなっていて、その範囲に絞ったダンジョンを作ることが可能になっているのだ。

 そこまでの事情を知らなかったサリーが驚くのは無理もないので、考助は頷いてから続けて言った。

「できるよ。そもそもダンジョンなんて、人が使う以外に必要がないものだから、そんな細かい設定はしたことがないけれどね」

 出現モンスターの種類が限られるということは、それだけ攻略がしやすくなるということにも繋がる。

 人が出入りするためのダンジョンをそこまで簡単にするつもりがない考助は、あえて既存のダンジョンではそうした設定を使っていなかった。

 

 考助の言葉にしばらく考える様子を見せていたフローリアだったが、やがて頷いて言った。

「確かに、出現モンスターを絞れば、訓練にはちょうどいい場所になるな。ただ、危険が伴うのは他のところと変わらないが」

「さすがにそこまで求めるつもりはないよ。というよりも、そうした危険を教えるためには、必要なところだ」

 フローリアの説明に、サリーが首を振りながらそう答えた。

 そもそもサリーがフローリアに求めたのは、より実践的な訓練ができる場所だ。

 それを考えれば、出てくるモンスターを絞ったダンジョンというのは、条件に合致している。

 

 ただし、サリーにはひとつだけ不安なことがあった。

「そんなダンジョンがあるのなら用意してもらいたいが、湧きは大丈夫なのか?」

 この世界のダンジョンは、定期的にモンスターを間引いておかないと、中のモンスターが溢れて外に出てくるという現象が発生する。

 氾濫とは違ったその現象は、また違った意味で畏れられているのだ。

 もっとも、ある程度間引きさえすれば、湧きが起こることはないので、突然発生する氾濫ほどは畏れられていない。

 問題なのは、見つかっていないダンジョンが長い間放置されて、湧きが発生した時である。

 

 湧きのことまでは考えていなかった考助は、うーんと少しだけ首をひねってから答えた。

「だったら、孤児施設の傍に、狼とか狐たちを置いておこうか。ゴブリンは・・・・・・先のことを考えたらやめておいたほうがいいかな?」

 眷属さえ置いておけば、最悪ダンジョンで湧きが発生したとしても、対処ができる。

 その間孤児たちは結界で守られた施設の中にこもっていればいいのである。

 

 

 結局、孤児施設の傍にダンジョンを置くことに関しては、とりあえず問題が出た時には撤去するということで決まった。

 当分の間は、子供たちに危険が及ばないようにするため、眷属たちを必要以上に常駐させることにした。

 ついでに、考助の眷属に慣れさせるという目的もある。

 習うより慣れよという方針に、少しだけ乱暴な気もする考助であったが、孤児たちを直接育てているサリーにすべてを任せている身としては、できる限りのバックアップはしようと考えているのであった。

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