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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(11)珍しいシルヴィア

「それで? その人たちは結局どうなったの?」

 シルヴィアから神殿で起こったことを聞いていた考助は、首をかしげながら聞いた。

「どうもこうもありません。そのまま警邏に引き渡して終わりです」

「ああ、そうなんだ」

 あっさりとした幕引きに、考助は肩をすくめて答えた。

 目の前で話をしているシルヴィアが、微妙に機嫌が悪そうなので、余計なことは言わない。

 

 そんな考助を見て、シルヴィアが探るような視線を向けてきた。

「きちんとこちらで処理した方がよかったですか?」

 珍しくとげとげしい気分を引きずったままなのか、そんなことを言ってきたシルヴィアに、考助は首を左右に振った。

「いや、処理って・・・・・・。そんなことしなくていいから」

「そうですか」

 考助の答えに、シルヴィアが小さくうなずいた。

 

 それを見た考助は、やっぱり気になったので、機嫌が悪いことについて聞くことにした。

「なんか、珍しく尾を引いているみたいだけれど、何かあった? 話を聞く限りは、大したことではなかったと思うけれど?」

「いえ、そんなことは・・・・・・」

 そういって、一度は否定しようとしたシルヴィアだったが、少しだけ間を空けてから続けた。

「ありますね。すみません。――久しぶりにあのような悪意に触れたので、心がとげとげしくなっているかも知れません。・・・・・・私もまだまだ修行不足ですね」

 そう言ってから自重するように苦笑したシルヴィアに、考助は首を左右に振って見せた。

「気にしなくてもいいよ。人なんだから、そういう時もあるある」

「そうだな」

 考助の答えに続くように、これまで黙って聞いていたフローリアが混ざってきた。

 フローリアは、シルヴィアが考助と話したがっているとわかっていたからこそ、今まで黙っていたのだ。

 

 反省する色を見せるシルヴィアに、フローリアがさらに続けて言った。

「シルヴィアは、自制しすぎるときがあるからな。もう少し自分に素直になってもいいと思うが・・・・・・まあ、立場上それは難しいか」

 苦笑しながらフローリアが言うと、シルヴィアは困ったような顔になった。

「まあ、そういう輩に会ったときの対応は、人それぞれだからね。シルヴィアはシルヴィアなりの対応方法があっていいんじゃない?」

 あえて考助が軽い調子でそういうと、フローリアも「そうだな」と頷いた。

 

 

 これ以上この話を続けてもシルヴィアの負担になるだけだと考えた考助は、ここで床に寝そべっていたナナに話を振った。

「それにしても、今回はナナが大活躍だったみたいだね」

「ウオン?」

 自分の名前を呼ばれたことに気付いたナナが、伏せていた顔を上げて考助を見た。

 体は動かしていなかったが、しっぽがフリフリと動いているので、ちゃんと声が聞こえているのは分かる。

 

 そのナナを少しだけ笑みを浮かべてみていたシルヴィアは、ふと思い出したように言った。

「そういえば、勝手にナナを使ってしまいましたが、よかったのでしょうか?」

「うん? どういうこと?」

 ナナは別に考助の言うことだけではなく、自分の判断に従って行動をしている。

 シルヴィアの指示で動いたのであれば、それはナナがそうしたいと思ったからであって、別に考助の許可など必要がない。

 

 首をかしげている考助を見て、シルヴィアがすぐに勘違いしているとわかった。

「いえ。仮にも第五層の神殿という、多少は目立つ場所でナナを人目に触れさせて良かったのかと・・・・・・」

「あ、そっちか。――――別にいいんじゃない?」

 確認するような視線を向けてきたシルヴィアに、考助はまた軽い調子で返した。

 

 ナナ――というよりも、狼が現人神コウスケの神獣であることは、すでに一般にも広まっている。

 その神獣が、考助を主神として祀っている神社で、余計な騒ぎを起こしている悪党(?)を成敗したのだ。

 噂でナナの活躍が広まることはあっても、変な広まり方はしないと思われる。

 それに、シルヴィアが遭遇したあの集団が、裏に何かあって意図的に操作された噂が流されたとしても、大したことにはならないはずだ。

 変に悪意のある広め方をすれば、国としてラゼクアマミヤが本気で止めることになっているので、考助たちが介入する余地などないのである。

 

 問題があるとすれば、考助がナナを連れて自由に移動できなくなる可能性があることくらいだが、それは大した問題ではない。

「そもそも、普通の人には狼の区別なんてほとんどつかないからね。似てるけど違うと言い張れば、それで大丈夫だと思うよ」

「それもそうだな」

 考助に続いてフローリアが頷いたことで、シルヴィアはほっと安堵のため息をついた。

 あの時はとっさに判断してナナに指示を出したが、後から考えれば少しうかつだったかと反省していたのだ。

 

 ここで、自分が話題の中心になっているとわかったのか、寝そべっていたナナが立ち上がって考助の元に近付いてきた。

 考助がその背中を軽くなでると、ナナは気持ちよさそうに目を細めた。

「話を聞いている限りでは、ナナもちゃんと手加減できていたみたいだから、気にすることはないよ」

 ナナが本気になれば、というよりも、少しでも手加減を間違えると、チンピラ程度ではあっという間にあの世に旅立ってしまう。

 今回は、全員がお縄にかかるところをきちんとシルヴィアが確認しているので、そんなことにはなっていない。

 神殿の中でそんなことになれば、あるいはそこから揚げ足を取ってくる者もいたかもしれないが、実際にはなっていないのでそれも問題にはならない。

 その程度のことは、考助よりもシルヴィアのほうがよくわかっているはずだ。

 

 それでもわざわざ確認してきたのは、やはりいつもとは違って心がささくれ立っているためなのか、とにかくシルヴィアにしては珍しいことだった。

 そう考えた考助は、一度フローリアに目配せをしてから続けた。

「まあ、今は事が起こったばかりだから、明日になればいつも通りになっているよ」

「そうだな。ほれ、風呂でも入ってのんびりするぞ」

 考助の風呂好きが移ったのか、すでに管理層のメンバーは、風呂でのんびりするという習慣がついている。

 気を使われているとわかったシルヴィアは、フローリアの提案に、少しだけ苦笑しながらも頷くのであった。

いらいらシルヴィアでした。

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