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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第10章 塔に神様を召喚してみよう
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12話 神の監視

 三柱の神の召喚と言う偉業を見た参加者たちも、ようやく落ち着きを取り戻してきた。

 ざわめきを無理やり抑えるでもなく放置をしていた司会のサラーサが、そろそろ頃合いかと再びイベントを進行しようとしたその時。

 考助に向かって何かが飛来してきた。それは、数本の短剣だった。

 そのどれもが考助の急所を狙っていたため、当たれば間違いなく致命傷になっていただろう。

 ちなみに、コウヒもミツキもその短剣には気づいていたが、あえて動かなかった。

 動く必要がないと分かっていたためだ。

 その短剣は考助に当たる寸前に、カキンと甲高い音を立てて弾かれた。

 こうなることが分かっていた考助だが、それでも自分を狙って来た短剣には冷汗をかいた。

 だが、そんなことはおくびにも出さないように、クスリと笑ってみせた。

「・・・この状況できっちりと依頼をこなそうとするのは素晴らしいと思いますが・・・仮にも神の祝福を受けた神殿の範囲内で、暗殺なんて出来ると思いますか?」

 考助のその言葉を受けて、実行犯はすぐにその場を離れた。

「追え・・・!!」

 ガゼランの言葉が周囲に響き渡り、周囲を警護していた冒険者たちが、その者を追いかけ始めた。

 今度は別の意味で会場が騒がしくなる。

 考助の視線を受けたサラーサが、参加者たちへ話し始めた。

「お騒がせして申し訳ありません。不届き者はいずれこちらで捕まえますから、お気になさらないでください」

「逃げられているではないか・・・!!」

 参加者の誰かがそう叫んだ。

 サラーサはその声に、ニコリとほほ笑んで、

「転移門を使わないとこの階層からは逃げられません。あの方は檻の中で逃げ回っているのと同じことです」

 サラーサの言葉に、叫んだ男も沈黙した。

 彼女の言い分に嘘がないことが分かったのだ。

「ついでに、塔の保安上詳しくは言えませんが、あの者の魔力パターンは既に捕捉しています。どんなに姿形を変えても転移門をくぐろうとした時点で捕捉は出来ます」

 魔力パターンは、指紋と同じで個人個人で違っている上に、自由に変更することが出来ない。

 生きている以上決まった形にしかならないのだから隠しようがないのだ。

「・・・と言うことは、あの不届き者が捕まるのは時間の問題ということかな?」

 またまた参加者の一人がそう聞いてきた。

「そうなりますね」

 サラーサがそう断言すると、ようやく参加者たちの間で弛緩した空気が流れた。

 ちなみに、参加者の半分である冒険者たちは、さほど騒いだりしていない。

 こういったやり取りは、常に起こり得る立場にあるためだ。

「それでは、ちょっとした騒ぎは起きましたが、無事神殿の設置も終わりましたので、式を続けさせてもらいます」

 サラーサはそう言って、再び式の進行を始めたのであった。

 

 考助の暗殺未遂という予定外のイベントはあったものの神殿の落成式は順調に進んでいった。

 何より三柱の神の召喚と言う歴史的偉業を目撃した参加者たちは、まだその興奮から冷めていなかった。

 そんな中で、参加者の半分を占めている冒険者たちにとっての朗報も、塔側から発表された。

 以前考助が、フローリアと話した時の内容の事だ。

 ダンジョン階層の始まりである第五十一層へ到達したパーティへの短縮転移のサービス開始と各階層のセーフティエリアの設置についてだ。

 これには、先ほどの暗殺未遂騒ぎの時には騒いでいなかった冒険者たちが、ざわめきだした。

 今後の階層攻略に関わってくる内容であり、自分たちの活動に大きくかかわってくるのだから当然だ。

 この会が終われば、早速分析などが始まるのは目に見えている。

 逆に残りの半分の有力者たちの反応は薄かった。

 これも当然と言えば当然である。

 間接的には、より多くの種類の素材を冒険者たちが持ち込んで来るようになる事が関係するが、直接的には彼らには関係がないのでこれもまた当然の反応だった。

 そんなこんなで落成式と言う名のイベントが終わり、次はいよいよ参加者たちが待ちに待った立食パーティの時間となった。

 当然、参加者たちの狙いは、考助だ。

 だが、その思いを打ち砕くようなことが、主催側であるサラーサから発表された。

「・・・なお、この後の立食パーティには、塔の代表であるコウスケは参加しませんのでご了承ください」

 ある意味この時が、一番ざわめきが大きくなった時と言ってもいいだろう。

 冒険者達も含めて、参加者のほとんどが考助との直接対話を狙っていたのだ。

 その当てが見事に外されたのだった。

 そのざわめきに答えるように、考助が一言言い放った。

「・・・お静かにしてください。そもそも自分の命が狙われていると分かっているパーティに、わざわざ出席する必要はないと考えました。皆様は存分にパーティを楽しんでください」

 それでは、と言い置いて、考助はその場を去ろうとした。

 それを引き留めたのは、ライネスだった。

「待ってください。その言い方だと、先程貴方の命を狙った賊も関係がありそうですが?」

「ええ。そうですね。この中の数名があの者を雇ってあのようなことをしでかしたのです」

 考助は断定してそう言い放った。

 勿論断定できるだけの根拠があるからこその言動である。

「ずいぶんと断定的におっしゃってますが、何か証拠でも?」

 また別の参加者が立ち上がってそう言って来た。

 その言葉に反応するように、数人の参加者がそうだそうだと声を上げはじめた。

 それを確認した考助は、一瞬驚いたような表情を見せた後、立ち上がって男に向かって苦笑した。

「ここで証拠なんてものが必要だと思っているんですか? フェルキア卿」

「・・・・・・なに?」

「僕の代わりに説明してもらえますか、ローレル神殿長? ああ、そんな顔をなさらないでください。僕が説明するより神職にある者が説明したほうが説得力があるでしょう?」

 突然話を振られたローレルは、顔をしかめつつもフェルキア卿と呼ばれた男の方へと話し始めた。

「・・・このお方、コウスケ殿は、先ほど三柱の神々を召喚しました。それだけではなく私達の目の前にある建物は、神の祝福を得ています」

「・・・何が言いたい?」

「この地は、神から聖地として認められている、と言うことです。フェルキア卿」

 聖地と言うのは、神の直轄領に等しい。

「・・・・・・」

「この地では、いかなる謀も神によって見通されるのですよ」

「・・・いかに神が見守っていると言えど、それを人がどう見極めるのだ?」

 神が見守っていると言っても、その神の言葉を聞け無ければ、意味がないと言いたいらしい。

 残念ながら、フェルキアの言葉は、次の考助の発言で打ち砕かれるのだが。

「あの~・・・。ここに交神具と言う物がありますが・・・」

 考助のその一言に、神殿関係者の視線が考助の持つ道具へと集まった。

 ミクセンの神殿でシルヴィアが使った神具について情報共有されていたのだろう。

 だが、それが何を意味するか分からないフェルキアは、眉を顰めて疑問を口にした。

「・・・交神具とは?」

「端的に言えば、神と会話ができる神具です」

「・・・・・・なっ!?」

「そもそも何の取っ掛かりもなしに、神の召喚なんてことが出来たと思っていたのですか? きちんと事前に話し合って呼び出したんですよ?」

 勿論交神なしでもやろうと思えばできるだろうが、そんなことはわざわざ言うつもりはない。

 ついでに言えば、一度召喚したことで、神威召喚陣は単発ものではないことが確認できたのだが、それも広めるつもりは無かった。

「ああ、勘違いなさらないでください。別に神の神託があったからと言って、ここで貴方達をどうこうするつもりはありません」

「・・・・・・そういえば、数名と言っていたな?」

 そう言ったのは、それまで黙って聞いていたライネスだった。

「ええ。直接かかわっているのは、フェルキア卿、ホーンド殿、アイネス殿だそうですよ?」

 いかにも他の者から聞いたと言わんばかりの言い方に、考助の言葉を聞いた者達はその三人の方を見た。

 誰から聞いたのかは、わざわざ確認はしない。

 この場の全員が先ほどの召喚を見ているのだから。

「と言うわけで、御三方に関しては、クラウンとの取引は停止させてもらいます。他の皆様は好きになさってください。それこそ証拠がないので強制はできませんし」

 それでは、と言い置いて、考助はコウヒとミツキを伴ってその場から消えた。

 折角なので効果を確認するために、ユリから教えてもらった能力を使って、百合之神社へ脱出したのだ。

 残された参加者たちは、顔を見合わせつつ今後のことをどうするかで話し合いを始めた。

 勿論、フェルキア、ホーンド、アイネスの三人は、その話し合いから外されていたのは言うまでもない。

 神から警告を受けた相手と取引をしようと思わないのは、当然のことなのであった。

2014/6/8、27 誤字脱字訂正

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