(9)特殊な魔物?
全部で百層あるアマミヤの塔だが、実際に使っているのは三分の二ほどでしかない。
さらにその中でもごく一部は、人も眷属も存在していない階層になる。
ではそれらの階層を何に使っているのかといえば、完全に考助の遊び場となっていた。
考助本人は、実験と称していろいろと試しているのだが、周囲からはただの遊びにしか思えないようなこともやっていた。
それらの中での成功例のひとつが、スライムしかいないスライム島がある階層だろう。
最初に海だけが存在している階層を作ったときには、例えばコレットは「何をやっているの」と呆れたような顔をしていた。
それでもしっかりとスライム島という存在を作り出し、更には特殊すぎるスライムの数々を生み出すことになっているのだから、考助がすることにはなにが起こるのか分からないと一同が考えるのは当然のことだろう。
もっとも、成功例がそのスライム島くらいしかないので、未だに遊びの範疇だと周囲に思われているのは変わりがない。
そんな考助の遊び場を見つけて首をひねっていたのは、フローリアだった。
「なあ、コウスケ。これはなんの目的で作ったんだ?」
そう言って制御盤を指したフローリアの指先をたどってみた考助は、少し考えてから納得の顔になっていた。
「ああ、それね。確か、最初はスライム島を作るために作っていて、その名残で残したままになっている階層だよ」
そう答えた考助とフローリアの目には、ほとんどが海洋で島が点在している階層が映っていた。
言われてみればそんな気もすると納得したフローリアは、頷きながら続けた。
「なるほど。海の中に幾つか島を置いたんだな?」
「いや、逆だね。山が点在している大陸を作って、そこに海を作ってみたはず」
その場面を思い浮かべたフローリアは、もう一度なるほどと頷いた。
「なぜ逆でやらなかったんだ? 確か、スライム島は海から島を作ったはずじゃなかったか?」
「なぜといわれても・・・・・・もともと海はなかった所に、山を作って、そこに海を置いたから?」
考助にも特にこれといった理由はなかったのだ。
単純に、元の階層の状態から極地のような場所を作ったらどうなるのかを試して行ったら、結果としてそうなったとしか答えられない。
スライム島を作ろうと思ったのは、この階層の逆パターンで作った場合にどうなるかと思いついたから実行したといっても過言ではない。
勿論、いきなり島を作ってスライムだけを置いても上手く行かなかったので、それ以外にもいろいろと試していることはある。
ただ、海を作ってから島を作るという手法が基本になっているのは、間違いようのない事実である。
「話を聞いている限りでは、論理的に考えたというよりも、ただの思い付きでやったように思えるな」
少し呆れたような視線を向けてきたフローリアの視線を受けて、考助は少しだけ顔を横に向けた。
「まあ、たまにはそういうこともあるよ」
「たまには、か。・・・・・・まあ、それはいいか。それのお陰でここまで上手く行っているということもあるからな」
フローリアは、ため息交じりにそう言った。
そんなフローリアに、今度は考助が話題を逸らすように質問をした。
「それにしても、なんで今更スライム島のことを? だいぶ前にも確認して来たと思うけれど?」
今回と同じような質問ではなかったが、スライム島のことに関しては、色々な場面で話している。
フローリア個人から聞かれたこともあるし、他のメンバーがいるときに話をしたこともある。
それを、なぜ今更になって、もう一度期間を空けて聞いて来たのかが分からなかったのだ。
「いや、南西の塔でやったらどうなるかと考えていたら疑問に思っただけだ。特に大きな意味はない」
「あ、そういうこと」
思い付きで質問することなど、考助はいくらでもある。
フローリアの言い分に、考助は特に思うこともなく素直に頷いた。
塔の管理に関しては、考助が他のメンバーに質問をすることもあるし、その逆のパターンも良くある。
いつものことだと考えてそこは流すようになっているのだ。
そんな考助に、フローリアがさらに聞いて来た。
「神獣になっているので今更感はあるが、なぜスライムだったんだ?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「いや、聞いたことがある気もするが、良く覚えていないな」
スライムが考助にとっての神獣であるということは、既に一般にも広がっている。
そのため不思議に思う者は少ないだろうが、逆にフローリアたちにとっては神獣になる前のそれこそスライム島を作っているときから知っているので、そう思っても不思議ではない。
以前に答えたような気もするなあと内心で思いつつ、考助は真面目に答えることにした。
「いや、一応スライムは最弱の魔物といわれているから、それらをきっちりとコントロールして育てられたら、他の眷属にも役立てるんじゃないかと思ったんだ」
意外に真面目な回答が返ってきたことに、フローリアは目を丸くしていた。
「そうなのか? 以前の時は趣味だと力説していた気がするが?」
「勿論それもあるけれどね」
フローリアの顔を見て、考助は苦笑しながら答えた。
その考助の顔を見ながらフローリアは頷きながらさらに続けて聞いた。
「それで? 他の眷属の役にはたったのか?」
当然のそのフローリアの質問に、考助は腕を組みながら首をひねった。
「うーん。難しい所だね。立ったと言えば立ったし、関係なかったと言えば関係なかったから」
「なんだ、それは? はっきりしない答えだな」
「いやだって、あんな限られた環境で育てられるのって、スライムぐらいだと思わない?」
スライム島には、スライム以外のほかの魔物が出ないようになっている。
そんな環境では、他の眷属がきちんと育つかといえば、微妙なところだろう。
もし狼で同じことをやったとしても、召喚陣を使って餌を与え続けることはできるが、普通の狩りが出来るようになるかは微妙なところだろう。
いわば、サファリパークで、管理された餌を与えられている動物とほとんど変わりがない。
一応狩りという体裁は整えてあるので、野生(他の階層)に戻しても大丈夫だとは思うが、手こずることはあるだろうと考助は考えていた。
考助の考えが分かったフローリアは、なるほどと頷いてから続けた。
「籠の中で育てた鳥は、いきなり解放してもすぐに死んでしまうのと同じようなものか」
「まあ、随分と極端な例だけれど、そういうことだね」
「となると、やはりスライムは特殊という事か」
「あれは、特殊というよりも、もともと全てのスキルを覚えられる可能性があったから成功したともいえるかも知れないよ?」
これは考助もきちんと確認したわけではないので、敢えて疑問形で言っている。
まさか、自前で農業をするようになるなんてことは、本当に考えてもいなかったのだ。
同じようなことをフローリアも考えたのか、話をしている最中にたまたま頭の上に乗っているスーラを見ながら、納得したような顔になった。
考助の言ったスライムが持つ可能性については、まさしくスーラが体現しているといってもいい。
結局、スーラを見たフローリアは、スライム以外で同じようなことが出来ないかと試すのをこのときは断念をするのであった。




