(6)考助の自己満足
考助が珍妙なお面を作ったのは、ただ趣味に走っただけではない。
コレットやピーチにも説明したとおり、脱ひきこもりを目指すためにわざわざ高価な材料を使って作ったのだ。
というわけで、考助は折角作ったお面を無駄にしないためにも、この日もナナを伴ってギルドの依頼をこなすために第五層を歩き回っていた。
今回考助が受けた依頼は、薬草採取。
そう。初心者冒険者が受ける定番の依頼である。
なぜそんなものを考助が受けているのかといえば、新しくクラウンカードを作り直したので、そのランク(F)に合わせた依頼をこなしているというわけだ。
そして、街を出てから二時間。
なんだかんだ言いながら塔の中で素材採集をすることは普通に行っている考助は、特に疲れた様子を見せることなく、目的の場所へと着いていた。
「さて・・・・・・ここら辺りにあるはず、だけれど、どうかな?」
考助がそんなことを言いながら周囲を見回すと、今回もしっかりと着いて来ていたナナがダッと駆けだした。
「あっ。あ~・・・・・・」
そのナナの行動の意味を理解した考助は、少しだけ残念そうな表情をしてからすぐに苦笑した。
ナナが駆けだしたのは、考助が薬草を捜しているとわかった上でのことで、当然今ナナが必死に尻尾を振ってアピールしている場所には、その薬草があるはずだ。
自分の力で目的を達成しようと考えていた考助は、それを邪魔された形になるが、ナナを責めることはできない。
最初からナナには探さないように言っておかなければいけなかったところを、きちんと指示しなかった考助が悪い。
近寄ってきた考助に、採らないのと真っ直ぐに視線を向けてくるナナの頭をなでた考助は、その場にあった薬草を採った。
勿論、全ては採らずに、あとのことをかんがえて採取しておく。
その考助の動きを見ていたナナは、今度は満足げに尻尾を振っていた。
薬草採取は、いくらでも受け入れてくれる依頼なので、考助は続けて探すことにした。
今度は、先ほどのようなミスはしないようにと、きちんとナナには今度は自分が探すといっておいた。
当然のように、ナナはその指示に従って、素直に考助の後ろに着いて来ていた。
・・・・・・来て、いたのだが――。
「クーン・・・・・・」
何度目かになる後ろから聞こえてくる寂しげな声に、考助は心が折れそうになりながらも我慢していた。
ここでナナを甘やかしてしまっては、折角自分の力だけで探し出すと決意したことが無駄になってしまう。
そんなことを考えて一生懸命に薬草を捜していた考助だったが、ついにナナの甘え声に根負けをしてしまった。
「ナナ。そんなに自分で探したい? ・・・・・・って、あれ?」
考助がそう問いかけると、何故かナナは首を左右に振った。
その意味が分からずに首を傾げた考助だったが、それを見たナナは、ついと鼻先を地面へと向けた。
その場にあるものを見た考助は、その場にしゃがみ込んでしまった。
「・・・・・・そういうことか」
ナナの鼻先に小さめの薬草群生地があったのだ。
それを見て、ようやく考助は先ほどからのナナの寂しげな声の意味を理解した。
何度か聞こえていたナナの声は、群生地を通り過ぎていることを教えてくれていたのだと。
そして、それを何度も見逃していたことに気付いて、愕然としたというわけである。
考助は、申し訳なさそうな視線で見てくるナナの頭をなでた。
「いや、うん。ナナが悪いわけじゃないから、そんな顔をしなくていいから」
「クーン・・・・・・?」
ホントに? と見上げてくるナナに、考助は「ほんとに、ほんとに」と繰り返す。
ナナを怒れない気持ちをぶつけるためではないが、考助はその代わりに一緒に着いて来ていたミツキを見ていった。
「・・・・・・笑いたければ笑えばいいと思うよ?」
「え、いや、うん。別におかしいというわけでは・・・・・・」
そんなことを言ってきたミツキを考助は睨んだ。
口元を押さえながらも目は完全ににやけているので、誰がどう見ても笑いをこらえているようにしか見えない。
ジトっとした目で考助が見続けると、ついにミツキはこらえきれないという様子で笑い出した。
そして、ひとしきり笑ってから考助に言った。
「ゴメンゴメン。でも、多分考助様は勘違いしているわよ?」
「はい?」
意味が分からずに首を傾げる考助に、ミツキはさらに続けて説明をした。
「別に薬草が探せなかったことを笑ったわけじゃなくて、ナナとのやり取りが面白かったのよ」
その台詞を聞いた考助は、アアと納得してから苦笑をした。
確かに今のナナとのやりとりは、自分でも面白かっただろうと思うだろうと考助は考えていた。
勿論、第三者の視線から見れば、だが。
ナナの優しさ(?)に負けてしまった考助は、今度は完全に離れた場所でひとりだけで薬草探しをすることにした。
結果としてミツキに笑われることになったので、それを盾にしてミツキも護衛から外している。
というよりも、ナナにはずっとミツキの傍にいるように言い置いて、ミツキにはその場から動かないように言ったのだ。
最初、ミツキが渋っていたので、見えない範囲以上は離れないということを約束して、どうにか今の形をとることが出来た。
そうして、フィールドをウロウロすること一時間。
ようやく考助は目的の物を見つけることが出来た。
「よし! やっと見つけた! ・・・・・・すんごい小さいけど」
考助はそう言いながら足元にある薬草の群生地を見詰めた。
そこには、直系十センチほどの範囲で薬草がしっかりと生えていた。
「・・・・・・うーん。これ、採ってもいいんだろうか・・・・・・」
そう呟いてしばらく悩んでいた考助だったが、結局一株だけ抜き取ることにした。
探すのは苦手でも、採取自体はさんざん行ってきているので、さっくりと一株だけ薬草を採った考助は、すぐにミツキとナナを呼んだ。
一人と一体は、かなり離れた場所にいたにも関わらず、すぐに考助のところまで駆け寄ってきた。
「どうやら無事に見つけられたみたいね」
「まあ、なんとかね」
何やら苦虫を噛み潰したような顔になっている考助に向かって、ミツキが首を傾げた。
「あら、どうしたの?」
「あー、いや。うん。やっぱり得意なことはその人に任せたほうが良いという事が、わかったよ。今回は人じゃなくて狼だけれど」
考助がナナを見ながらそう言うと、自分のことだと理解したナナが、勢いよく尻尾を振り始めた。
それを見てまた苦笑した考助は、ナナの頭を撫で始めた。
「というわけで、自己満足の時間はこれでおしまい。次は魔物討伐に行ってみようか!」
そう張り切って宣言した考助と尻尾を振っているナナを見て、ミツキはどちらにも聞こえないような小さな声で呟くのであった。
「大丈夫かしらね・・・・・・」
この後考助は、ゴブリン相手に似たようなことをするのであったとさ。




