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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(5)珍しい(?)ピーチ

 お面の効果を屋敷で確かめた考助は、仮面に興味を持ったらしいピーチを加えて街の中を歩いていた。

 考助がお面に与えている効果は、大きく二つだ。

 一つは、お面をつけている当人が許可した者だけ素顔が見えるようにすること。

 もう一つは、お面をつけている者を、周囲にいる者たちから「普通の人」として認識させる効果だ。

 一口に「普通の人」といっても見る人によってそれは変わってくるはずなのだが、そう受け止めるようにしているのだ。

 それが、屋敷でも語った特徴のない普通の顔というわけである。

 人が考える「普通」というのは、それぞれの種族や生まれによって変わってくるために、お面を見た人の精神に働きかけて「普通」だと認識するようにしているのだ。

 そのため、街を歩く考助たちを見ても、住人その他にしか見えないというわけだ。

 もっとも、考助はもともと「その他」に分類される顔つきなので、そう言う意味ではお面をする必要が無いのだが、問題なのは顔を覚えられることなので、お面が必要になるのである。

 

 というわけで、お面を付けてクラウンの冒険者部門ギルドへと向かっていた考助たちだったが、その途中でピーチが感心したような声を上げた。

「これ、本当にすごいですね~。歩いていても、まったく注目されませんよ」

 自分の隣でそう宣うピーチを横目で見ながら、考助は若干苦笑していた。

 ピーチは、考助たち――正確にはミツキと出会って魅了の力を封印してもらう前は勿論、その後も注目を集めて歩くのが当たり前のことだった。

 勿論それは、自分の顔立ちが注目されているためだと十分理解していた。

 さらにそれを利用するしたたかさも持ち合わせているピーチだが、うっとうしいとか煩わしいと全く思わないわけではない。

 特に、考助という既に心の決めた人がいる身としては、尚更そう考えてしまうのは、当然と言えるだろう。

 

 それはともかく、生まれてからこれまで、一度も視線を向けられないという経験をしたことが無かったピーチは、本当に感動していた。

 そんなピーチに、考助は少しだけ同情しつつ言った。

「この実験が上手く行ったら、きちんとピーチ用に微調整してあげるよ」

「本当ですか? それは嬉しいです~」

 本気で嬉しそうにそう言ってきたピーチに、考助はますます苦笑した。

 ピーチの声から、思いっきり実感がこもっていることが理解できたためだ。

 

 

 そんな会話をしつつ、考助たちは冒険者ギルドへと着いた。

 わざわざここまで考助たちが足を伸ばしたのは、折角だから依頼のひとつでも受けようと考えたのと、もう一つの理由がある。

 その理由は、建物の中にいる冒険者から観察されるということだ。

 冒険者たちは、職業柄、ギルド内に入って来る者たちを瞬時に見分けるようなことをしている。

 当然、入ってきた者が高ランクの冒険者だったりすると、それだけ警戒度を上げたりするようになっているのである。

 考助も、冒険者コウとしては、それなりに名が知られているので、クラウンの冒険者ギルドに入ればそれなりに注目を浴びることになる。

 今回は、お面によってそれらの注目がなくなることを試しに来たのがメインの目的なのだ。

 

 結果として実験は大成功だった。

 考助たちは、一度だけ冒険者たちから注目を集めたものの、それはいつもの冒険者たちの習性で無視していい。

 問題はその後のことだったが、まったくといっていいほど注目されることはなかった。

 考助の傍をテクテク歩いているナナも、今は普通の犬と変わらない大きさになっているので、さほど気にされることはなかった。

 結局考助たちは、無事に(?)掲示板から一つの依頼を選んで、それをカウンターで受けつけてもらうことに成功したのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 十分すぎるほどの結果を得た考助たちは、そのまま管理層に戻るでもなく、街の外に出て探索をしていた。

 折角依頼を受けたので、真面目にその処理をしようと考えたのだ。

 その途中で、考助は意外なというか、盲点になっていたお面の弱点を発見した。

「これはちょっと失敗だったかな」

「そんなことはないですよ~。ちょっと訓練すれば、これくらいは大したことないです」

 ピーチはそんなことを言ってきたが、考助としては見過ごせない失敗だ。

 

 その失敗が何かといえば――――。

「うん。お面を作って置いて、人体の発汗機能を忘れるのは、どう考えても駄目過ぎ」

 考助はそう言いながらお面を外して額から垂れてきた汗をぬぐった。

 普段はどうという事のない距離を歩いて来たのだが、お面を着けていることによって、いつもよりも汗が早く出てきたのだ。

 しかもそれをぬぐうためには、お面を外さなければならない。

 今は人がいない場所なので問題ないが、これが町中だったらと考えると、笑って済ませられるミスではない。

 

 やっぱり実際に使ってみるのは重要だと反省した考助は、どうにか未だに慰めようとしてくれているピーチに笑いながら言った。

「いや、致命的なミスだからきちんと直すよ。そんなに難しいことじゃないから、すぐに修正できるし」

「そうなんですか~?」

「そうなんですよ。微調整ついでに新しく機能を付け加えればいいだけだから。せいぜい三日位で終わると思うよ」

 考助がそう言うと、ピーチは安心したようにニッコリと笑った。

 勿論、仮面をつけたままの顔でだが、考助にはいつも通りのピーチの顔に見えている。

 

 ピーチに限らず、普段から管理層に出入りしている者たちは、考助が魔道具を作るときには結構無茶なことをしていることを皆が知っている。

 コウヒやミツキという監視がついているのだが、彼女たちは考助がよほど健康に悪いことをしなければ止めるようなことはしない。

 そのためピーチは、考助の体のことを心配していたのだ。

 考助もきちんとそのことに気付いているので、多少面映ゆく感じつつも、感謝を示して一度だけ頷いた。

 

 その考助の意図が通じたのか、ピーチは相変わらずニコニコと笑ったまま考助の腕を取って歩き始めた。

 依頼で倒すべき魔物は、もう少し先の箇所にいる。

 それまでは、せっかくの機会なのでこのままでいようと決心するピーチなのであった。

久しぶりのピーチとのイチャイチャでしたw

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